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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
最終章 王都
131/140

vs赤音

ヒョウ視点

 オレ達は今、王都への入り口である大門付近にいる。

 街で忍達と計画とも言えない計画を練り、『テレポート』で一気にここまで来た。


 ここからではまだ王都を守る外壁と門くらいしか見える物は無いが、それを見るだけでもこの都が今まで見てきた街と比べて数倍の規模がある、と理解する事が出来る。


「……全員いるな」


 オレは周囲を警戒しつつ、ここにたどり着いたみぞれ、クリス、シーナ、ユウ、忍の5人がいることを確認した。


 ちなみにバルはオレ達とは別行動で、リュウの傍で待機している。

 何かあった時、寝たきりのリュウを守る役目だ。


 本当はバルも一緒にオレ達と乗り込む予定だったが、シーナがバルを残すよう提案した結果こうなった。


「はい~、ちゃんと全員ここにいますよ~」


 クリスがいつも通りの朗らかな声を出しながらオレの横に歩いてきた。


 やはりどんな時でも陽気に振舞おうとするクリスがいてくれるのはありがたい。

 目の前にいるユウもクリスを見習って欲しいものだ。


「……時間が惜しい。早く行こう」


「…………」


 ……やはりバルではなく、ユウを置いてきたほうがよかったかもしれないな。

 ユウが昨日からずっと落ち込んでいるのはオレ達も知っていた事だが、この状態のユウを連れ出して戦闘をさせるのには不安が残る。


 おそらくトト達もユウが自暴自棄になって無茶をする事を危惧して、ユウをパーティーから除外したのだろう。

 けれどここまで着いてきた以上、ユウにも頑張ってもらわなければならない。


「ああ、ユウの言うとおりだ。急ごう」


 オレ達は門を潜り、ゲーム開発関係者のみが住むという王都へと足を踏み入れた。


 全てはリュウのため。

 オレ達が全員揃って元の世界へと帰還するために。






「……ここにはいませんでしたか」


 忍を先頭にして王都内部を進むこと10分。

 オレ達は時計塔のある大広場に到着した。


 3日前はここでリュウとその兄が戦ったらしい。

 辺りを見回すと破壊されている建築物が目に入り、確かにここで何者かが戦闘を行ったらしき爪痕が残されていた。


 しかしここに人の姿はなかった。

 忍の話によると、リュウの兄は王都にいる時、昼間は大抵この場所でタバコを吸いながら何もせず空を眺めていたらしい。


 なので今日もここにいるのではないかという予想を立ててここまで着たのだが、どうもその目論見はハズレに終わってしまったようだ。


「……やはり来たのかい。忍」


「……赤音さんですか」


 そしてオレ達の目論見などお見通しといわんばかりに、オレ達と逆方向の路地から赤音が姿を現した。


「……シン。これはどういうことだい?」


 ユウが胡乱な目つきで忍を見ている。


「!? ち、違います! これは友也君達を陥れるために仕組んだ罠というわけではありません!」


「そうですぜ。あっしはただ、なんとなくここにいれば修児さんを狙う不届き物がやって来るんじゃないかと思って待っていただけでさあ」


 そういうことか。

 オレも少し忍を疑ったが、どうもここで待ち伏せていたのは赤音だけのようだから、罠を張っていたというわけではないのは確かだろう。


「ユウ、落ち着け。赤音が1人ならオレ達にとっては好都合だ。予定通りに行くぞ」


「『マジック・シェアリング』……行動開始」


「……そうだね。それじゃあ任せたよ」


 オレとユウが言葉を交わすと、オレ達は一斉に走り出す。


「……戦力を分けてきやしたかい。面倒な」


 ユウとシーナ、忍は王城方面、オレとみぞれは見晴らしのよさそうな時計塔へと進む。

 何故か時計塔の壁には巨大な穴ができていたので、オレとみぞれはその穴を目指した。


「あっしがここで逃がすと思ってるんですかい?」


 背後から赤音の声が聞こえる。

 忍の情報から想定できる赤音の特性なら、忍やシーナ以外を捕らえる事は容易だろう。


「まずはあっしから逃げなかったあんたからですかねえ」


 そして赤音は右目に装着していた眼帯を外す。

 オレはそれを見ないよう、視線を時計塔方面へと戻した。


「……そういえば、アンタはクリスって名前のプレイヤーでやしたね」


「はい~そうですよ~」


「チッ。MND特化ですかい……」


 忍の話によると、赤音の持つパッシブスキル『邪眼』は、目を見たプレイヤーやモンスターに『気絶』の状態異常を与えるスキルらしい。

 それは常時発動ながら、高確率で敵を行動不能に陥らせることができる赤音の十八番とのことだ。


 だがそれはあくまで状態異常という枠組みに入る。

 それならMND特化のクリスだけは、赤音の『邪眼』に対抗できるという事になる。


 だから赤音が現れた場合、クリスが1人でその場に残り、赤音を足止めするという役割が設けられた。


「……だったら直接たたっ斬るまででさあ」


 しかし赤音の恐ろしさは『邪眼』のみではない。

 『邪眼』を無効化できるだけのMND特化が抑えきれるような人物ではない。


 赤音はHP特化。

 才能値を全てHPに振った、言い方を悪くすれば体力だけが取り柄のビルドだ。


 だがそれは的を射た表現と言えるのかもしれない。

 なぜならHPの才能値補正は『フィジカル補正』なのだから。


 HPが高いということは、つまりは体力、体が強いという事だ。

 そしてその体が強いという事は、この世界では身体能力が高いという意味にもなる。


 つまりHPが高ければSTRやAGIといった数値とは別にしてキャラクターの動きに補正がかかる。

 まあ流石にHPに才能値を振った赤音とAGIに才能値を振った忍が徒競走をしたら忍の圧勝になるらしいが。


 だがHPに才能値の全振りした赤音の身体能力は、満遍なく才能値を割り振ったプレイヤーを凌駕するレベルだと忍は語っていた。


 そんな赤音に対抗するにはクリスは貧弱だ。


 けれど、手がないわけではない。


「『ピアッシングショット』~!」


「ッ!?」


 背後から轟音が聞こえてきた。

 おそらくこれは、クリスが持つ銃の武器スキルで赤音を吹き飛ばした音だろう。


「グッ……なるほど、それはレアの作品じゃないですかい?」


「その通りです~。回復役だから戦えないなんて言わせませんよ~!」


 クリスの声が聞こえてくる。

 オレとみぞれはクリスが無事に赤音を抑え続けることを祈りつつ、時計塔内部に設置された階段を駆け上がった。


「……クリスは平気?」


「ああ、多分な」


 クリスは今、リュウがレアから奪った銃『コルトパイソンSPS-1000』を持っている。

 あれはドラゴンの魔王討伐後に話し合いをした時、リュウがオレ達に渡してきた装備の1つだ。

 一応リュウはレア本人から装備品の類を使う事の了承はとったらしく(本当か?)、銃は護身用として必中のグローブとセットでクリスが持つ事になった。


 その銃はレアの趣味なのか実際に存在する銃、コルトパイソンの形状をしており、古い拳銃という印象を銃にそれほど詳しくないオレは受けるが、レアが自分のために作成した装備であるのだから当然性能は超一級の代物だった。


 まず、『コルトパイソンSPS-1000』には『スパイラルショット』、『ピアッシングショット』、『スタンショット』という3つの武器スキルが備わっている。

 2つでもオレ達はレアの作成した装備以外では滅多にお目にかかれなかったというのに、これには3つだ。


 それだけでもとんでもない性能と言えるのだが、銃そのものの攻撃性能も相当高い。

 銃やボウガンといった武器はSTRに関係なくダメージを与えられる装備であり、銃の場合は銃と銃弾の性能によって威力が変わる。

 そして『コルトパイソンSPS-1000』の場合、どれだけ質の悪い銃弾を使ったとしても、敵に銃弾が当たれば最低1000ダメージを与える事ができる。


 オレが10回は死ねる武器だ。

 まあ街の中では撃たれた痛みでのたうち回る程度で済むだろうが。


 だから今回もおそらくそうなる。

 クリスが銃弾を赤音に当てても、赤音を完全に無効化させるには至らないだろう。


「ハァ……ハァ……着いたか」


 だが赤音と戦うのはクリスだけじゃない。

 オレとみぞれは時計塔の最上階へ到達し、クリス達が見える位置の窓を開いた。


「……アンタ、なかなか気合が入ってやすねえ」


「はぁ……ぁっぐ……『ハイ・ヒール』……」


 オレが下を見ると、そこには地面に蹲るクリスと刀を持った赤音の姿が見えた。


 ここは人が殆どいないせいか、遠くから発せられる些細な音も、耳を澄ませば聞こえてくる。

 地上にいるクリスと赤音の会話も、時計塔を登ったオレ達のいるところまでかろうじて響いてきていた。


「そろそろ回復魔法じゃ誤魔化せない痛みになっているんじゃないですかい? 顔色が悪いですぜ?」


「ぅ……ま、まだまだ……ワタシは戦えますよ~……」


 どうやらオレ達がここにくるまでにクリスは赤音から相当攻撃を貰っていたようだ。

 クリスがダメージ遮断魔法と回復魔法を自分に使い、赤音に切り刻まれる痛みを中和させて時間を稼ぐというのも作戦のひとつだ。


 近接攻撃しかない赤音にとって、範囲攻撃と言ってもいい『ピアッシングショット』で吹き飛ばしにくるクリスはさぞ戦いずらいことだろう。

 しかもクリスに攻撃を加えても、根性と回復魔法でいつまでも粘り続ける。


 赤音からしてみれば、目の前にいる女性などすぐに倒せると思っていたのだろうが、それは大きな誤解だ。

 そしてその誤解でいつまでもクリスにばかり気をとられているのも悪手だ。

 赤音はまず最初に、逃げていくオレ達をどうにかするべきだったんだ。


 オレは赤音が犯したミスが致命的であると知らしめるため、機が訪れるのを静かに待つ。


 クリスならやってくれる。

 オレはクリスから合図がくるのを、ただひたすら待ち続けた。


「あっしは別に、アンタ達に恨みがあってこんなことをしているわけじゃないんですがねえ……」


「ワタシも……あなたに恨みなんてものは……ありませんよ~……」


「そうですかい」


 赤音はぶっきらぼうな態度でクリスを切り刻み、その都度クリスは回復魔法を唱えている。

 これはもう赤音がクリスを倒すのを諦めるのか先か、クリスの気力が尽きるのが先かという戦いになっていた。


「……チッ、アンタ、よほどリュウさんを死なせたくないようだねえ。ここまでしつこい女なんてキルくらいしかあっしは知らん」


「ふ、フフ……そう……ですか~。でもあなたも……修児さんという方を……死なせたくないから……戦っているんじゃ……ないですか~……?」


「……ふん」


 クリスが弱々しく赤音にそんなことを訊ねると、赤音は刀を持たない手で頭をかき、クリスの言った事を無言で肯定していた。


「あなたは……もしかして……その修児さんが好きなんじゃ……ないですか~……?」


「……何でも色恋沙汰に繋げりゃ良いってもんじゃありやせんよ。まあ、組のモンに裏切られてやさぐれていたあっしを拾ってくれたのには感謝してやすがね」


 ……今のは聞かなかった事にしよう。

 組とかオレ達には一切関わりのないことだ。


「……お喋りはここまででさあ。これ以上長引かせるとキルになんて言われるかわかったもんじゃないんでねえ」


 しかもさっきクリスが言った事はどうも図星のようだ。

 赤音は余程気に障ったのか、今までよりも深く踏み込んでクリスを斬りつけていた。


「か……あ……」


 そしてクリスはふらつきつつ赤音に向かって倒れこむ。

 それを赤音は避けることができただろうに、赤音はクリスを受け止めていた。


「もうこんな争いはヤメにしやしょう。あっしを相手にしてアンタは1人でよく頑張った。それだけは褒めてやりやしょう」


「…………」


 クリスはもう限界のようだ。

 いくら回復魔法で痛みを軽減できるとはいえ、完全に癒えるようなものではない。

 クリスの中に蓄積された痛覚ダメージはもう普通の人間の許容量を超えているはずだ。


 それを赤音も察したから、こうしてクリスを支えているのだろう。

 もうクリスが赤音に勝つ見込みなんて僅かにも残されていないとわかっているからこそだ。



 しかし、だからこそ赤音は負ける。

 そんな隙を見せていいのはオレ達のパーティーリーダーにくらいのものだ。



「『スタンショット』……」


「!?」


 クリスと赤音の間で電流のようなものが一瞬バチッと光る。

 それを確認した俺はみぞれに合図を出し、いつでも魔法を出せる状態を作り出した。


「悪あがきを……あっしを数秒足止めしたくらいで、一旦何ができるっていうんですかい?」


「ワタシには……できません……けど……」


「『マジック・インフィニティ』」


 みぞれが魔法を唱え、辺り一面が灰色と化した。

 そしてクリスがよろけながらも赤音から離れる。


「ヒョウさん……!」



「『アブソリュート・ゼロ』」



 赤音はオレ達の存在を失念していた。

 しつこく粘るクリスに気をとられ、他から攻撃がくる可能性を見落としていた。

 まあ、遠距離から正確無比な一撃必殺の攻撃がくることを赤音は予想しろというのも酷な話かもしれないがな。

 しかしこれはオレの魔法制御を甘く見たお前達が悪い。


「なッ!?」


 赤音なら、数秒間の麻痺状態さえなければ避ける事もできたかもしれない。矢や銃弾であれば致命傷を避けることもできたかもしれない。一発貰った程度じゃ動じなかったかもしれない。

 だがオレの攻撃は生半可な回避運動でかわせる代物ではないし、ボスモンスターより確実に弱い人間相手を仕留められないほど弱くもない。


 赤音の『邪眼』にひっかからない超遠距離からの戦闘なら、オレは一番赤音と相性が良い。



 赤音はオレの魔法を受け、氷の中に閉じ込められていた。



「みっしょんこんぷりーと」


「ああ、それじゃあ早くクリスと合流するぞ」


 オレとみぞれは階段を駆け下りてクリスと合流する。

 そして氷像と化した赤音を三人がかりでオレのアイテムボックスへと収納した。

 どれだけ強かろうと、こうして凍らせて、身動きが取れなくなった状態の間にアイテムボックスへ入れてしまえば手も足も出ないだろう。



 今回は相手が悪かったな。

 オレはどこかのだれかさんとは違う。


 相手が誰であろうと容赦なんてしないし、卑怯な手も使う。

 そうすることで仲間が助かるのならな。


「クリス、体は平気か?」


「は、はい~。なんとか~」


「そうか」


 本当はもう少しクリスを休ませておきたいところだが、残念ながらここは敵地だ。

 オレはクリスに肩を貸し、王城へと続く道を歩き始める。


「うふふ~、ヒョウさんから肩を貸してくれるなんて珍しいですね~」


「……そういえばそうだな」


「兄さん顔が赤くなってる」


「うるさい」


 オレはすぐ近くにあったクリスの顔と、逆側からクリスの肩を支え始めたみぞれの顔から目を逸らし、真っ直ぐ前を見据えた。


「先を急ぐぞ。どこかのだれかさんが寝ている今、オレ達が動かないとあいつの身が危ないからな」


 正直、あいつにとってオレ達の行動が良いものなのかどうかはわからない。

 オレ達が勝手にあいつの兄を殺すことを、あいつが知ったらなんと思うだろう。


 だがこのまま何もしていなければあいつが死んでしまう事は確かだ。


 ならオレ達は迷わない。

 オレ達はおまえの命のほうが大事だからな、リュウ。


 こうしてオレ達は仲間を助けるため、王城へと足を進めた。

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