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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
最終章 王都
129/140

見物

 あれからおそらく3日が経った。

 おそらく、というのは俺が時間を正確に把握していないからだ。


 今の俺は塞ぎこんでいた。


 塞ぎこみ、鬱々とし、自分の世界に閉じこもっていた。



 俺は……いや、俺らは、夢の中で背中合わせとなり、2人揃って俯いていた。




「なんで……てめえは……修にぃといきなり会おうだなんて……思ったんだよ……」


「だから……俺はシーナがいれば、何でもできると……そう思ってたって……何度も言ってるだろーが……」


「なんで……てめえは……修にぃにあんなこと言ったんだよ……」


「だから……ついカッとなって言っちまったって……何度も言ってんだろ……」


「なんで……ジンは……俺を庇ったんだ……」


「だから……俺が知るかっつの……」


「なんで……なんで……てめえまでずっとここにいるんだよ……」


「…………」


 俺らは白い空間でずっと同じ問答を繰り返していた。


 これはいわゆる自問自答というやつなんだろうか。

 まあそんなことはどうでもいい。


 今の俺らは2人とも、この夢から出るのを恐れていた。


 ジンが俺を庇った後何があったかは知らないが、俺らがこうして存在している以上、多分俺の肉体はまだ無事なんだろう。

 忍あたりが俺を逃がしたのだろうか。それとも修にぃが俺との決着に拘って俺を生かしているのか、どんな理由で俺が生きているのかはわからない。


 それを知るためには俺が起きる必要がある。

 けれど、今の俺らに起きる気力は無い。


 起きればまた修にぃと戦わなければならない。

 そして修にぃと戦えば今度こそ死ぬだろう。


 いっそのこと、俺はこのまま死んだほうが良いのかもしれない。

 俺が死ねば悲しむ奴もいるだろうが、プレイヤーは全員解放されて、このふざけた茶番を終わらせることができる。


 それに俺が死ぬという事は修にぃが生きるということだ。

 俺なんかより修にぃが生きていたほうがよっぽど良いはずだ。


 お父さんが死んで以来、俺には修にぃがどうしていたのか殆ど知らされていないが、修にぃが元の世界に帰れば陽菜のこともなんとかなるはずだ。


 修にぃが恨んでいるのは俺だけ。

 お父さんに捕まった俺を助けにきてくれた修にぃに心無い言葉をぶつけ、修にぃに守るよう頼まれていたはずの母を死なせてしまった俺だけを、修にぃは恨んでいるはずだ。


 だから陽菜は修にぃにとって今でも可愛い妹のはずだ。

 俺が死ねば1人取り残されることになる陽菜を、修にぃが放っておくはずがない。


 これは前回、俺がこの白い空間にいた時にもうっすらと考えていた事だ。

 もう俺には頑張る理由が無い。



 それなら、俺がここで死んだとしても、特に問題は無いだろ。



 俺はこの3日間あまりの時間でこの結論にたどり着き、来るべき断罪の時を待ち続けていた。






『……気を使ってしばらくそっとしておいてあげていたけれど、いい加減起きてもいいんじゃないかな?』


「「!?」」


 俺らが下を向き、膝の間に顔を埋めていると、どこからともなく女の声が聞こえてきた。


 その声は今更聞き間違える事もない。

 ジンの声だった。


「ジン! てめえ生きてたのか――」


『ジン”さん”だよ。君はもう少し私が年上のお姉さんであるということを弁えて会話しなさい』


「……随分元気そうだな……ジンさん」


 3日経ってもあいかわらずなジンの様子に、俺は内心喜んでいた。


 俺はもしかしたらジンが死んでしまったのではないかと心配していた。

 俺なんかを庇って、ジンは修にぃに殺されてしまったのではないかと思っていた。


 神であるジンがそう簡単に死ぬのだろうか。ジンが死んだ場合、ジンの魂は元の世界に帰れるのだろうか。と俺は疑問を抱いていたが、こうして俺らにいつも通りの調子で声をかけてきたということは、ジンは今も健在ということなのだろう。


 ジンが生きていたことにホッと胸をなでおろしつつ、俺らはジンに怒鳴った。


「おいコラジンさん! てめえ何思わせぶりに俺を庇ってんだよ! しかもそれから今まで全然音沙汰無いしよ! 俺がどれだけ心配したかわかってんのか!」


『はっはっはっ、随分な言い様だねえ。流石のお姉さんもイラッとしちゃうよ』


「うっせ! こうやって俺らと話せるんならさっさ話しかけろよ! てめえ今まで何してやがった!」


『私かい? 私はまあ……色々あってね』


 俺らがジンに問い詰めると、ジンは何かをはぐらかすように答えた。


『とりあえず私のことはどうでもいい。それよりも今は外の事についてだ』


「何? 外?」


『君達が眠り続けている間にも周囲は変化をし続けているという事さ』


「いやまあ……そりゃあ当たり前だが」


 世界は俺を中心に回っているわけではないことなんかわかりきってる。

 俺が眠り続けていても、世界は眠ることなく動き続ける。


 だがこうしてジンが俺に知らせてくるという事は、俺の周りで何か大きな動きが起こり始めるということなんだろう。


『結論から言うと、ニャルルが5番目の街を襲撃してきた。眠りこけている君を倒しにね』


「ニャルルが……?」


「つか5番目の街? 俺は今、5番目の街にいるのか?」


『そうさ』


 俺らが疑問形の声を出すと、ジンは一言で肯定した。


『これは彼女の独断だろうね。でも彼女は1人でも君を倒せると踏んだんだろう』


「おいおい……決着は俺と修にぃでつけるんじゃなかったのかよ」


『それは神楽や修児の理想なんだろうが、絶対というわけでは無いよ。全員が全員、君と修児の決着を悠長に待ち続けられるほど気長ではないのさ』


「……そうかよ」


 まあ修にぃと決着をつけずに俺がやられたとしたら、それは俺が修にぃと戦うまでもない小さな存在だと、そういう風に神楽も考えているんだろう。

 俺がやられそうになっても神楽が助ける義理もない。その結果ジンも排除できるんだからアイツも納得するか。


 だが修にぃのほうはどうなんだろうか。

 修にぃは俺がこんなやられ方をして、はたして納得するのだろうか。

 俺は未だ修にぃが俺とどう決着をつけたいのかが、完全には理解できていない。


『それで君はどうするんだい? 早く起きないとニャルルに殺されてしまうかもしれないよ?』


「…………」


「…………」


 ジンの言葉を受け、俺らは2人揃って俯く。

 外がどうなっていようと、今の俺らにはもうどうする事もできなかった。


「……ここでニャルルにやられるなら、それはそれでいいんじゃねえかな」


「どうせ俺じゃ修にぃには勝てないし、戦えない……もうやるだけ無駄なんだよ……」


 俺らは既に諦めていた。

 自分という存在を確立できなかった俺らは、自分が生きることを既に諦めていた。


 俺では修にぃに勝てない。

 ならもう無理にこの戦いを長引かせることなどせず、大人しく殺されるというのも1つの選択肢だろう。

 俺が死ねばプレイヤーはこの世界から全員解放される。俺がさっさと死ねば、それはプレイヤーのためにもなることだ。


 巻き添えをくらうジンには申し訳ないが、それは俺なんかを手助けしたジンの方も悪いという事で諦めてもらうしかない。


『……そうかい。これじゃあ君を庇った私も浮かばれないねえ』


「なんだよ……てめえももう死んだ気分になってんのか? 表現が死人みたいだぞ」


『まあ……そのようなものさ』


 ……なんだその言い方は。


 まあいい。

 もうどうでもいいことだ。


 もう俺が立ち上がることは無い。

 ここで静かに最後の時を迎えるだけだ。


『それじゃあ最後に外の世界を一緒に見ていかないかい? 今君達の仲間が動き出しているよ』


「……仲間?」


「! シーナ達の事か!」


『その通り。彼女たちの戦いを、見る気はあるかい?』


 アイツらの戦い……か。


 アイツらはもう、自分たちが生き死にのかかった戦いをしているわけじゃないことを知っている。

 この世界にいるプレイヤーは、今本当にゲームをプレイしているようなものだ。


 生き死にの戦いをしているのは俺と修にぃだけ。そして実際に死ぬ可能性があるのも俺と修にぃ、それにジンや神楽だけという状況だ。


 それならある意味安心してアイツらを見ることができるな。

 ここで神の視点というものでアイツらを見守るのも悪くは無い、か。


「……見てみるか」


 それにアイツらが今何をしているのかも興味がある。

 俺がこんな調子でアイツらは一体どうしているだろうか。


『よし、それじゃあお姉さんと一緒に高みの見物としゃれこもうか』


 ジンがそう言うと、俺らの目の前に、四角に切り取られた青い画面が現れた。

 そしてその画面はすぐさま1つの映像を映し出す。


 そこに映った部屋にはバルやシーナ、ヒョウ、みぞれ、クリス、そして部屋の隅で座り込むユウと、目を赤く充血させた忍の姿があった。

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