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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
最終章 王都
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自分会議

「おいクソッタレ。てめえ一体何やってんだよ」


 俺は目の前にいる俺の姿をした馬鹿野郎。バカリュウへ開口一番にそう言った。


「……見てたのかよ」


「当たり前だボケ。俺はてめえでもあるんだからな」


 俺は俺の感覚器官全てを通じ、このバカリュウがさっきまでやっていたことを全て把握している。


 そしてその時俺が俺の体を動かしていないという事はすぐにわかった。

 さっきまでのコイツがしていた行動は明らかに俺がする行動じゃなかったからな。


「てめえ何シーナといちゃついてんだよ。さんざんシーナに頭ナデナデされて最後は膝枕してもらって寝落ちとか舐めてんのか」


「は、恥ずかしいとこ見てんじゃねーよ! これは俺とシーナだけの思い出なんだからな!」


「俺とシーナの思い出とかキショいこと言ってんじゃねえよ!? てめえ本当に大概にしろよ!?」


 俺はこのバカに怒鳴りつける。

 もうコイツは痛々しくて見ていられない。


 人前でピーピー泣くわシーナにサカってるわ変な言動ばっかしするわ、コイツが俺のもう1つの人格なのだと思いたくない。


「特に男がそんな簡単に泣くなよ。人前では泣かないことが俺の流儀だってのによ」


「スマン。なんか自分を抑えられなかった」


 バカリュウも自分がシーナの前で泣いたのを恥じていたのか、手を合わせて謝罪の言葉を出してきた。


 ……まああの時泣いた気持ちはわからなくもねえけどよ。


 まさかあそこまでシーナが献身的な姿勢を見せるとは思わなかった。

 他の奴らの事を考えなければ、シーナの言葉で危うく俺も惚れそうだったぜ。


 だが他の奴らを蔑ろにしたところはいただけねえな。


「おい、てめえはもしかして、本当にシーナと2人で逃げるつもりじゃねえだろうな? だとしたらぶっ飛ばすぞ」


 シーナはコイツに2人で一緒に逃げようと言った。


 それはバル達を含めた全プレイヤーを裏切り、ゲームマスター兼神であるジンとも敵対するかもしれない行為だ。

 大魔王である修にぃから逃げ切れるとも思えない。途中で破綻するのが目に見えている。


「……そんなわけないだろ。そんなことしたらヤバイってことくらい……俺だってわかるさ」


 そしてコイツもどうやらちゃんとそれを理解しているらしく、小さな声ではあるが否定した。


 それなら一安心だ。

 さっきの流れ的に本気でコイツが逃げるんじゃないかと肝を冷やしたが、それはいらない心配だったようだ。


 だが……


「なあ、てめえはもう自分が陽菜じゃないってことを理解してるんだよな?」


「ああ……それももう理解してるさ。俺は佐藤龍児。有能な兄を持つ、無能な弟さ」


「それじゃあてめえは自分に妹がいるって事もちゃんと理解してんのか? 俺は陽菜のためにこの世界から出たいと思ってるんだぜ?」


「…………!」


 おい。


 今なんで驚いた顔してんだよコイツは。



 ……まさかコイツ。


「も、勿論理解してるっつーの! そうだよな! 俺の目的は陽菜を1人にしないことだったよな!」


「……おう、わかってるならそれでいいんだぜ」


 絶対コイツ忘れてたな。


 自分が陽菜だと思い込んでた弊害だろうか。

 コイツは俺と比べて陽菜への愛情が足りないような気がする。


 さっきシーナと交わした会話だってそうだ。

 俺は陽菜の元へ帰らないといけないのに、コイツは震えた声で俺は帰れなくてもいいのかとか言いだしてるしよ。


 帰れなくていいわけないだろ。

 俺が帰らなかったら陽菜は1人ぼっちなんだぞ。


 アイツにはもう俺しか家族がいないんだから。

 


 …………




「……それじゃあ次だ。てめえは修にぃと会ったらどうする?」


 俺はこの世界で再開したもう1人の家族、修にぃについて、コイツにどうするかを訊ねた。


 俺はどうしても元の世界に帰らなければならない。

 だが俺が元の世界に帰るには修にぃを殺す他ない。


 俺が修ぃを殺す。


 あらゆる意味で不可能だ。


 俺はどうあっても人を殺せない。

 それは4番目の街にいた頃、終……修にぃとの戦いでよくわかった。


 今まで自分を誤魔化しつつもここまで戦ってきたが、やはり俺は修にぃとは違って人に本気の殺意を向けることなんてできなかった。


 しかし今、俺の目の前にいるコイツの方は、どうもそうではないようだ。

 俺より覚悟が決まってるというべきなのか、ただ単にコイツにそういうことへの忌避感が足りないだけなのかよくわからないが、コイツは終を殺す勢いで殴り倒していた。


 いや、復活はしたが実際終は一度死んだんだ。

 だったら、コイツなら修にぃ相手でも本気で殺しあう事ができるのだろうか。



 ……それはわからない。

 他人を殺すことと、自分の兄弟を殺すことを同じように考えてはいけないだろう。


 修にぃとは数年ぶりの再開だ。

 だから多少身近な人間という感情を持ちづらくなっているかもしれないが、それでも家族だった人間を殺すのに躊躇いが生まれないはずがない。 



 そして最大の問題が修にぃ自身の実力だ。


 確かにコイツは一度、終だった修にぃを倒している。

 だが俺にはそれが修にぃの本気だったとは思えない。


 多分修にぃはこれまで手加減をしていた。

 だからこれから先、修にぃと戦うのならあの時以上の強さを想定しておかないと痛い目にあいかねないだろう。


「修にぃと会ったらか……正直な話、どうすればいいかわかんねーな」


「そうか……」


 どうやらコイツも俺と同様、修にぃをどうするかで悩んでいたようだな。

 修にぃを殺さなければ帰れない。だが修にぃは強い。それに俺が修にぃと本気で戦えるかどうかもわからない。


 これでは手詰まりだ。

 だが修にぃから逃げる事も許されない。

 明日になれば俺は何かしらの結論を出さなければいけないだろう。


「……そうだ、忍だ」


「忍?」


 俺は修にぃと行動を共にしていた1人の少女を思い出す。


 篠崎心。この世界では忍と名乗ったかつての幼馴染。

 アイツと話せば修にぃのことについてよく知っているかもしれない。


 修にぃがこの世界で何をしたいのかを詳しく知ることができるかもしれない。


「明日の朝一番に起きたらすぐ忍のところへ行くぞ。そして修にぃのことで知っていることがあればなんでもいいから聞き出すんだ」


「修にぃのことを……か」


「ああ。多分修にぃの目的も俺ら同様、この世界からの脱出なんだろうが、それ以外で修にぃが何をしようとしていたのかを俺らはまだよくわかってないような気がする」


 修にぃは自分たちがこの世界から解放されるために俺らプレイヤーにあえて敵対するような行為をした。

 それは俺らプレイヤーを団結させ、後続プレイヤーの危機感を煽って成長速度を上げるという目論見があってのことだろうと思うのだが、それにしてはイマイチ結果がよくないように思える。


 実際のところ、プレイヤー救済という面も持ち合わせているから解放集会の目的としては正しかったと言えるだろうが、積極的に街の魔王を解き放ったのはやりすぎだ。

 あれのせいで攻略最前線にいたプレイヤーを追いかける後続組がどれだけ死んだかわからない。下手すりゃ最前線のプレイヤーも全滅して後続プレイヤーも狩られてで、ここまでこれるプレイヤーがいなくなる可能性だってあっただろう。


 修にぃが解放集会のトップとして動いていたにしては博打すぎるような気がしてならない。

 まあ結果的には俺が魔王を順々に倒していけて、俺が大魔王に任命されたのだから修にぃの思惑通りに事は運んだと言えるのかもしれないが。


 だが俺はもっと修にぃのことを知らなければいけないような気がする。

 そのためには修にぃの身近にいた忍と話をしてみるのが一番いいだろう。



 ……つうか。



「なあ。俺ってどうすれば表に出られるんだ?」


「そんなの俺が知るわけねーだろ」


「だよな……」


 さっきまではこのバカリュウが俺の体を動かしていた。

 なら次目覚めた時は俺が表に出ることになるのだろうか。



 こんな、何もできない俺が出てくることになるんだろうか。




 ……いや、そうとは限らないか。

 俺らはそんな規則正しく人格交代をしていたわけでは無いだろう。


 前にシーナが言っていた「俺がシーナをおちょくらない」ということから察するに、どうもここ最近は俺がずっと出張ってたっぽいしな。

 案外これから数ヶ月間はコイツの方が表に出続けるのかもしれない。



 そうすれば……コイツがなにもかも全部解決してくれるんじゃないだろうか。



「……とにかく俺とてめえ、どっちが出てきたとしても起きたら即忍のところへ行くぞ。忍はギルド会館にいるはずだからな」


「わかった。でも起きるのは絶対俺の方だかんな。てめえに出番はくれてやんねーぞ」


「ああ……期待してるぞ……」


「?」


 俺はそれだけを言い残し、このよくわからない夢の世界から消え去った。


 正直言って、自分自身とこうして会話できるとかどれだけオカルトなんだよと思わないわけでもない。

、だが、こうして俺の代わりに俺をやってくれる奴がいるというのはとてもありがたい。



 おかしな言動をするのが玉に瑕だが、できることなら俺はコイツにずっと俺を任せておきたい。





 俺はもう……表に出たくはない。

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