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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
最終章 王都
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大魔王として

 ジンとの会話の後、俺とユウはそれぞれのパーティーメンバーが待機している部屋へと別れていった。

 理由はパーティーメンバーにジン達から得られた情報を共有するためだ。


 そして俺はその情報の全てを話した後、俺の事について、それに修にぃについても洗いざらいシーナ達に話した。


 ちなみに俺はジンから得た情報の中にある、プレイヤーの解放条件なんかも包み隠さず暴露した。

 ジンは出来ることなら喋らない方がいいと言っていたが、その理由はユウのような攻略最前線で戦ってきたプレイヤーがいきなりそんな事を言い出したら混乱が生まれるという可能性を危惧してのことだろう。

 今まで攻略最前線で戦っていたトッププレイヤーが悪名高い『解放集会』に寝返ったとか言われて吊るし上げにされかねないからな。


 けれどそういう理由なら俺はあまり気にする必要も無い。

 攻略組のユウが他のプレイヤーに話すと問題になるかもしれないが。


 だから俺は今俺が持つ情報の全てをシーナ達5人に話してしまうことにした。


「……リュウの人格についてはひとまず置いておくとして、だ」


 そして30分後、俺が話を終えると、まずヒョウが口を開いた。


「神……か、にわかには信じがたいな」


「だがこの世界のあり方を証明するとしたら信じるしかないんだろ」


「まあ……それはそうなんだが」


 やっぱり神という存在をいきなり信じろといわれても信じられるものじゃないか。

 俺もまだ半信半疑のようなところもあるしな。


「それに元の世界に帰る方法が単純にHPを0にすれば良かったというのも受け入れがたいな。この世界はあまりにリアルすぎて実行するには抵抗がある」


「だろうな」


 正直これも試すのは気がひける。

 HPを0にすれば帰れるって。なんというか、死ねば天国にいけますよ、とかそういうレベルで胡散臭く思えてしまう帰還手段だ。


 ゲームマスター兼この世界の神の1人が言った事でも、この方法は最後の手段にしておきたいだろう。


「……となるともうひとつの方法で帰るしかなくなるが」


 ヒョウはそこまで言うと、俺をチラッと見て気まずそうにしていた。


「俺が死ぬか、修にぃが死ぬか、か」


「……リュウがその兄との戦いで死んだ場合、リュウはどうなるんだ? プレイヤーは死ぬと元の世界に戻れるんだろう?」


「いや、俺と修にぃはもうプレイヤーとしてカウントされていないらしい。だから俺は死んだらそれで終わりだ」


 そう、これはジンが俺と修にぃの代理戦争をさせるという目的を明かした後に補足された事だが、俺と修にぃはカテゴリー的にはモンスターに分類される存在らしい。


 今までの魔王がモンスターであるのだから大魔王もまたモンスターであるということか。

 メニュー画面とかは普通に開けるものの、プレイヤーの仲間じゃないからか、いつの間にかパーティーも解除されててパーティーコマンドも使えなくなってるし。


 まあ実際のところはジン達が神楽との条件のすり合わせを行った際、神楽が互いに一対一で本気を出させるためにそういうモンスター仕様にしたらしいが。

 つくづくアイツは俺らをおもちゃ代わりにしたいらしいな。


「……そうか」


 ヒョウは俺の説明を聞いて、事はそう簡単には解決しそうにないことを知ったからか苦い顔をしていた。


「なあヒョウ。てめえは元の世界に帰るためなら俺を殺せるか?」


「!? りゅ、リュウ! あんたいきなりなんてこと言ってんのよ!」


 俺がヒョウに1つの問いかけをすると、そこへシーナが割り込んできて俺に詰め寄ってきた。

 確かに今の発言は突拍子もないが、聞かないわけにはいかないだろう。


「でもよ、実際それがてめえらにとって一番確実な帰還方法なんだぜ?」


「! リュウさん! 私たちはそんなこと絶対しません!」


 どうやらバルも俺の言いたい事がわかったらしく、シーナに続いてバルも声を荒げていた。


「私たちは自分が助かるためにリュウさんを犠牲にする事なんて絶対ありません!」


「……ああ、バルはそうだろうな」


 俺はバルに関してだけ言えば、そんな心配はしていない。

 俺を不意打ちして殺す、なんてことはな。


 バルはさっき、俺を文字通り命を懸けて守った。

 そんなことまでして仲間を守るバルが、今更こんな帰還手段を知ったからといって俺を殺しにくるなんて思えない。


「でも他はどうかわからねーな」


「リュウさん……」


 仲間に対してちょっとキツイことを言っているのは自覚しているが、だが実際甘く考える事は出来ない。

 試すかどうかは別として、大魔王を倒す以外の帰還方法を知ったコイツらやユウ達がいきなり俺を殺しにかかるという可能性はないと思うんだが、それは俺の希望的観測かもしれない。


 そして俺とゆかりのない大多数のプレイヤーは俺1人の犠牲で元の世界に帰れると知ったら、多分容赦なんてしないだろう。

 大魔王、モンスターになった俺は常にプレイヤーに狩られる危険性をも抱えてしまったと言える。


「……そうだな、念のためリュウはプレイヤーは信じず、共に行動する事も控えた方がいいかもしれないな。オレ達含めて」


「ちょ!? ヒョウ! あんたも何言い出してんのよ!? ふざけてんの!?」


 ヒョウは俺の置かれた状況を理解したアドバイスをくれているが、シーナはよくわかっていないのかヒョウに対して怒りだしていた。


「だが今のリュウはプレイヤーにとって最後の関門だ。リュウを殺す理由のないプレイヤーはいない」


「そ、そうかもしれないけど! 何も私達まで疑わせてどうすんのよ!」


「そうですよヒョウさん! 私たちがリュウさんを裏切るようなマネするわけないじゃないですか!」


 ヒョウとシーナが口論をしているところにバルも加わり、場は一気に険悪な空気となっていた。

 こんな状況にしたのは俺のせいだが、コイツらが言い争うのは俺の本意じゃない。


「ヒョウさんは自分が助かるためならリュウさんを裏切るんですか!?」


「いやそうじゃない……オレもリュウを裏切るつもりはない。……だが、リュウはそういった心構えでいったほうがいいということだ。大魔王として」


「大魔王として……か」


 ヒョウの意見は尤もだ。

 今の俺は討伐する人間でありながら討伐される側の人間でもあるというかなり危険な立場にいる。


 それにその危険はもしかしたらコイツらにまで伝染する可能性もある。

 ないと信じたいが、一部のプレイヤーがバル達を人質にとって俺を殺そうとしてくる、なんてこともありえる。

 だから俺は一旦コイツらとは距離を置いたほうがいいのかもしれない。


 ……いや、それは考えすぎか?

 俺自身、疑心暗鬼に陥っていて何が一番正しい行動なのかわからない。


 けれどこのままバル達に言い争いをさせるのが良くないことだけはわかる。

 俺は感情的になっているバルにひとまず落ち着くよう言おうとして口を開いた。


「ま、まあまあ~、皆さんとりあえず落ち着きましょ~」


 と、俺が声をかけようとした時、クリスが先にヒョウ達の間に入っていた。


「ちょっと皆さん、今は色々な情報が一度に入っていてこれから何をどうすればいいかわからなくなっているんですよ~。ここで一旦休憩でも挟みませんか~?」


「……そうだな。その方がいいだろう」


「……そうね」


「……はい」


 どうやらクリスの提案でヒョウ達も話をひとまず切り上げて考える時間をとることにしたようだ。


 今のクリスの提案はありがたい。

 色々とコイツらに話したが、俺自身もまだ全部の内容を飲み込めたわけじゃない。


 特に俺が修にぃと戦わなくちゃいけないなんてことは、な。





 結局、俺らは外で夕食を黙々と食した後、時間も時間だったため話はまた明日という事になった。


 ただ、俺はシーナ達とは別の宿に泊まることにした。


 別にシーナ達が俺を殺すかもしれないなんてことを考えているからの行動ではない。

 けれど俺の立ち位置があやふやな状態で、仲間と一緒にいることもできない。


 俺自身が何か変わったというわけでもないが、今の俺は大魔王だ。

 シーナ達以外にもプレイヤーが多く泊まる宿で一緒に寝るのは控えたほうがいい。


 一応俺は大魔王として申し分ない力を持っている。

 全ステータスを上限まで引き上げられるスキルを得た俺は、不意を突かれなければ他のプレイヤーが束になって殺しに来ても返り討ちに出来る。

 それはユウ達が苦戦していたブラックドラゴンを瞬殺できたことからもわかる。


 だがそれはそれはあくまで不意を突かれなければだ。

 普段の俺は腕っ節が強いだけの人間だ。


 装備品である程度防御も固めているが、その辺のモンスターやプレイヤーに1発貰えばそれでお陀仏になる可能性が高い。

 そのことをヒョウも理解しているようで、俺にプレイヤーが普通なら使わない、この値段設定が馬鹿高い宿に泊まることを進めてきた。


 ここならプレイヤーに襲撃される事もまずない。

 たとえ襲ってきたとしても寝込みを襲うなどの不意打ちはできない。


 それを理解した俺は、この長かった一日を終えるべくベットの中に潜り込んでいた。


「修にぃ……か……」


 そして俺は兄の存在を思い出していた。


 俺は修にぃの姿を直接見たことにより、本来あるはずのあらゆる記憶が蘇った。


 俺が佐藤龍児であること、俺には修児という兄がいること。



 それに、俺が修にぃを裏切ったこと。



 俺は、ベットのシーツで全身をくるみ、凍えるような感覚を必死に打ち消そうとした。












































「おーい! リュウー! いるんなら返事しなさいよー!」


「…………?」


 俺が眠れずにベットの中でふさぎこんでいると、部屋の外からドアを勢いよくドンドンと叩く音と、やたらうるさくも俺にとっては落ち着く声が耳に入ってきた。

 俺はのろのろとベットから起き上がり、鍵を解除してドアを開いた。


「あ、やっと出た。遅いわよまったく」


「……シーナ?」


 ドアの向こうにはシーナがいた。

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