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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
最終章 王都
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代理戦争

「君達がこの世界にやってくる3日ほど前の事だ。フリーダム・オンラインゲームを開発する部門で働いていた私達の中に美神神楽みかみかぐらという1人の男がいた。

 彼は修児が連れてきた人材なんだが私や修児に負けず劣らずの優秀な人でね、アートディレクターとして私達と一緒にゲーム開発に勤しんでいた。


 そのころは良かった。

 天才若手クリエイター集団として周囲から期待されながら私達はゲームを作り、あと少しで先行版『フリーダム・オンライン』は完成するとして連日連夜開発室に缶詰状態だったが、あれはあれでなかなか充実した生活だった。


 おっと、話が逸れてしまったね。

 こういう話はあと10年か20年経った頃に振り返るものだった。失敬失敬。


 さて、確か神楽が私達と一緒に働いていたという話をしたところだったね?

 まあつまり、彼は元々私達の仲間だったんだ。

 修児が彼を紹介した時はやや傲慢な態度が目立って先行き不安だったのだが、彼の持つ美術的センスは間違いなく本物でね、それに年齢も私たちと近いということもあって、時間はかかったけれど彼は私たちの仲間として馴染んでいったんだ。


 けれど彼はゲームの完成が迫ったその日、休憩をとっていた私達に『重要な話があるから一度ゲームの中にログインしてくれ』と言い出したんだ。


 一体何故神楽は私達をゲームにログインさせようと思ったのか、その時はわからなかった。

 重要な話ならゲームにログインしなくてもできるだろう?と私達は首を捻ったよ。


 けれど私達は一緒にゲームを作り上げた仲間として神楽を信頼していた。

 その場にいた私達は全員、神楽の言うとおりログインした。


 そして私達は驚いた。


 私達の作っていたゲームの世界が、とんでもないリアリティーを持っていたからだ。


 頬を撫でる風の感触も、さらさらとした髪の感触も、現在のVR技術ではまだ再現不可能な技術だったからね。

 ログインしてすぐにわかったよ。


 この世界は異常だってね。

 でもその反面、わくわくしたんだ。


 考えてもごらんよ。

 自分達が一生懸命作り上げていた世界が、現実と遜色ないレベルで目の前に広がっていたんだよ?

 不思議に思っても、それで心をときめかせないわけがないじゃないか。


 でもそんな興奮も長くは続かなかった。この世界の風景を見て目を輝かせる私達のところへ神楽がやってきた。


 そして神楽は私達に『この世界は気に入ってもらえたかい?』と訊ねたんだ。



 そこで神楽は私たちに冷や水をかぶせてきた。

 神楽は自分が神に選ばれた存在だと私達に告げた。



 神楽は作り出してしまったんだよ。


 『フリーダム・オンライン』完成間近のゲームデータを利用して、一見するとかつてないほどのリアリティを持ったVRMMOゲーム、という風に見せかけた、私達の元いた世界とは別の世界、異世界を神楽は作り出してしまったんだ」

 





 俺とユウはジンの説明を聞き、複雑な顔をしていた。


 神楽が神としてこの世界を作ったというのも驚きだが、そもそもいきなり神という存在を出されても、現代社会を生きていた俺らにそれを受け入れる下地があるわけもなかった。


「……なんでそんな怪しい奴がてめえらと一緒に仕事してたんだよ」


 百歩譲って、その神楽という男が神的な力を使えたとしたなら、なんでソイツは普通の社会人としてゲーム製作に携わっていたんだという疑問がある。

 俺はうさんくさいものを見る目つきでジンに問いただした。


「彼曰く『所詮人の脳内だけで作り出せる世界には限界がある。だから私は大勢の人間の意志が混在する世界の器を捜し求めてきた』とのことだよ。つまり彼自身は全知全能とかそういうタイプの神ではなく、あくまで世界を創造できるというだけの神ということらしい」


「……へえ」


 世界の器、か。

 つまりソイツは自分だけでは作り出せない世界を求め、多くの人間が開発に携わったであろうVRMMOゲームに目を付けたということになるのか。


 だがやっぱり神という存在は受け入れがたい。


「本当はもう少し詳しく聞きたいとこだけどよ。とにかくこの世界は俺らが元いた世界と同様、1つの世界ということなんだな?」


「ああ、その通りだよ」


「この世界に元からいた住民は?」


「私達が配置したNPCをはるかに凌駕した人間性を持ち合わせている以上、彼らもれっきとした人間と言わざるを得ないだろうね。そして今も尚、世界の拡張と共に人は爆発的に増え続けている」


「世界の拡張?」


 なんだそりゃ?

 しかも人が爆発的に増え続けている?


「君達は違和感を抱いたことはないかな? この大陸の地図がいまいち縮尺が合っていないんじゃないかってさ」


「……それならあるな」


 確かにある。

 俺は街から街へ到着するたびにどうしてこんなに時間がかかるのかという疑問を持っていた。


 特に4番目の街から5番目の街の間はそれが顕著だ。

 本来ならもっと早く到着できただろうに滅茶苦茶時間がかかり、途中で町や村まであった。

 これが普通にゲームの仕様だったなら規模があまりにでかすぎる。


 それに街で買った地図ならある程度間違いがあるのはご愛嬌で済むかもしれないが、メニュー画面から見るマップでも町や村が表示されないというのはよく考えると謎だ。


「この世界はリアルタイムで拡張し続けているのさ。本来ならこの大陸しかできていなかったはずなのに、船で海を渡れば別大陸に到着でき、そこには既に文明を持った人間が元から住んでいることになっているというような有様さ」


「あ? 本来ならって、大陸って元々ここしかなかったのか?」


「そうだよ。『先行版』だからね」


 ……先行版。

 それはあれか。フリーダムオンライン先行版のことを言っているんだよな。


 つまり本来なら、先行版のプレイに抽選で当たった俺らはこの大陸のみしか遊べなかったというわけか。


「ついでに言うと修児達が待っている王都も実は未完成だ。ゲーム的に設定がされていなかったためあそこにはこの世界の住民はおらず、立派な建物だけがある廃墟ような場所だ」


「おいおい……」


 それってどうなんだよ。

 もしもゲームとして俺らが遊べていたとしたら、王都に到着した次点でびびるぞそれは。


「しょうがないじゃないか。後は王都にNPCを配置するだけで完成というところで、私達はこの世界に閉じ込められたんだから。それに君達が王都にたどり着くまでにはアップデートでその辺も余裕で仕上げられると思っていたんだよ」


「ああ、そういうことか」


 神楽はゲーム完成直前にコイツら製作者達をこの世界に閉じ込め、そしてその後に俺らを招いたんだったな。それにネットゲームだし修正もワリとすぐできたりするのか。


「つかそれでよく俺らの世界で問題にならなかったな。普通警察沙汰だろ」


「ああ、うん。私達も最初はそう思っていたんだけれどね」


 俺の指摘を受け、ジンは頭をかきながらもそれに答えた。


「神楽の説明ではどうも人が元の世界から異世界にくると、元の世界の人間は存在というものが極端に薄くなるようなんだ。それだけで周囲は全く私達の異常に気づく気配がなかったそうだよ。それに私達と君達がこの世界に着たタイムラグは元の世界準拠の時間で言うとたったの3日だ。私達の失踪など、元の世界で特に問題が起きたというような扱いは受けなかっただろうさ」


「マジかよ……」


 存在って。

 どれだけ神楽という男の力は世界に影響を及ぼしているんだよ。


「救援とか呼べなかったのか?」


「どうやってだい? ここは異世界だよ?」


「う……」


 まあ……確かに異世界にいる人間を救出できるほど俺らが元いた世界は進歩してなんかいない。というか異世界や平行世界なんてものがあるということすら未だ仮説の域だ。


「それにたとえ外部に救援を呼べたとしても、君達プレイヤーがこの世界にくる事はなくなるだろうから私達は躊躇しただろうね。君達が来てくれないと私達がこの世界から出る方法が完全になくなる」


「? どういうことだよ」


 コイツらがこの世界から出る方法がなくなる?

 それはつまりコイツらが今までやってきたことと関係がある事なのか?


「そもそもてめえらの目的はなんだ? てめえらはこの世界から出ることが目的なんじゃないのか? そのためになんで俺らプレイヤーが必要なんだよ?」


 俺はジンに訊ねた。

 コイツの行動の核心部分、どういう理由で俺らに、俺に力を貸し続けていたその理由を。


「……この世界から元の世界に帰る方法には2通りある。1つはHPを0にする方法。ただしこれは君達、先行版をプレイするβテスター限定だ。社内でゲームをテストする私達αテスターは、その方法で帰る事は出来ない。そしてもう1つの方法、神楽と私が定めたゲームクリアをするというものがある。こっちの方法が本来唯一の帰還手段であり、君達βテスターだけでなくαテスターも帰ることができるんだ」


「ゲームクリア?」


「そう。大魔王を倒すことさ」


「…………」


 大魔王……か。


 それは修にぃと俺、どちらかを倒せばコイツらも解放されると、そういうわけか。


「ボクたち『解放集会』の目的も大魔王を出現させることにありましたー。僕たちは神楽の許す範囲でプレイヤーに手を貸したり、時には悪役としてプレイヤーに危機感を持たせて攻略を進めさせ、大魔王候補を見出すという仕事をしてたんですよー」


「……そうかよ」


 そこでレアが俺らに『解放集会』の目的を明かしてきた。

 さっきコイツらの目的が自分達の解放だということを聞いていたが、『解放集会』がどんな意図でプレイヤーにちょっかいをかけていたのかこれでハッキリしたな。


 だがキルとか修にぃは『開放集会』の目的とは関係なく結構遊んでたような気がする。特にキル。

 まあコイツらも全員が全員同じ行動原理で動いていたわけじゃないだろうけどよ。


 俺はレアを横目で見て苦い顔をしつつ、さっきジンが言っていたことの中に気になる点があったのでジンの方へと向き直った。


「つか、神楽と私、だと? それは一体どういう意味なんだよ?」


「元々この世界に明確なゲームクリアは定められていないんだ。大魔王なんて存在も神楽が思いつきで私達に提案した事だしね」


 ゲームクリアが定められていない、か。


 つかそもそもMMOにはゲームクリアなんてないとか昔ユウが言ってたな。

 普通の家庭用ゲームとは違って大人数で遊ぶゲームだしな。


「少し話を整理しよう。流れはこうだ。神楽は最初に私達、ゲームの製作メンバーをこの世界に拉致し、この世界の素晴らしさを語った。そして私達をこの世界の管理者として永遠に住まわそうと、つまりは私達を誘拐してこの世界で共に暮らそうと神楽は告げてきたんだ」


 素晴らしさを語った、か。

 それは俺らプレイヤーにも最初あいつはなにか誇らしいものを語るような、凄いおもちゃを自慢する子供のような様子でこの世界を語っていたな。


 ようはそれを同じ事を神楽はコイツらにもしていたという事か。


「だが拉致された私達はたまったもんじゃない。私達にも元の世界での生活があるんだからね。私達は神楽に抗議し、即刻私達を解放するよう訴えた」


「まあ当然だな」


 俺らも最初さっさと現実世界に帰せというヤジが絶えなかったしな。

 つか、それがなかったら神楽は俺らをずっとこの世界に住まわせるつもりだったのか。

 なんか植民地の開拓のために強制的に送られる奴隷みたいな扱いだな。


「けれど私達の願いを神楽は聞き入れてはくれなかった」


「だろうな」


 じゃないとコイツが今もこうしている理由がない。

 そして俺らがいつまでもこの世界にいることもなかっただろう。


 神楽という男は俺らの事をなんとも思っていない。

 ただのゲームの駒。自分が遊ぶためのおもちゃ程度にしか考えていないんだろう。


「でもね、彼にも1つだけ誤算があったんだ」


「誤算?」


 ジンはそこまで言うと間をおいて、口元をニヤリとさせてから再び発言を続けた。


「彼はこの異世界の神ではあるが、ゲームマスターとして最高権限を保有していた私もまた、この世界の神と呼べる力を有していたんだよ」


「……そういうことか」


 今のでなんとなくコイツの目的が読めてきた。

 俺はその答えが出てくるのはすぐだろうと思い、口を挟まず相槌だけに徹した。


「彼にとって私という存在は完全に想定外だったんだろう。異世界化した『フリーダム・オンライン』では私の持つ権限でログアウト、帰還することはできなかったが、私にはこの世界のバランスを完全に崩壊させるだけの力があった。そしてそれを知った神楽はあらゆる方法を用いて私を排除しようとした。けれど私はそんな神楽から身を隠して、今までなんとか生き延びてきたんだ」


「へー……」


 神から逃げ切るとかコイツ結構とんでもないこと言ってるな。

 いやまあコイツも一応神なんだからそれは可能なのかもしれないが。


 それにこの世界のバランスを崩壊させる力か。

 確かにコイツは俺にチートスキルを渡してきたりしてきたことを考えるとそれも頷ける。

 極端なことを言ってしまえば、コイツはプレイヤー全員に俺に与えたようなスキルをばら撒いて、この世界のあり方を滅茶苦茶にする事だってできるんだからな。


 この世界を自分の好きにできると思っていた神楽にとって、ジンという存在は疎ましいものだったということか。


「そして私は姿を隠しつつも神楽や修児達と連絡しあい、そこで1つの案が出されたんだ」


 そしてジンは話の核心を語り始めた。


 1つの案。

 ジンはそこまで言うと俺に視線を定め、ゆっくりと口を開いた。


「神楽は神ではあるものの、修児の熱狂的信者でもあったがゆえの提案だ」


 そしてジンは告げる。



「神楽は修児の最強を信じ、修児を大魔王、ラスボスの1人として置き、私が選ぶ修児に匹敵するであろうプレイヤーと競わせるというゲームを提案してきたのさ。神楽が修児、私が正規のプレイヤー、つまり龍治君に命を預けた、神の代理戦争というゲームをね。そして負けた方の神と大魔王は元の世界に帰る事も許されず、完全な死を迎えることになる」



 ジンがこれまで俺に手を貸し続けていた理由。



 それは神と神の代理戦争を行うための下準備だった。

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