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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
最終章 王都
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解放

 ブラックドラゴン討伐。そして終、いや、修にぃとの戦いから2時間程が経過した。


 今、俺らは5番目の街へと戻り、ギルド会館の一室に集まっている。

 ここはユウ個人が借りているスペースなので、外部に俺らの会話が漏れる事はまずないだろう。


 この一室の中にいるメンバーは俺とユウ、そして謎の女のジン、ついさっき『解放集会』から抜けたという忍、それに装備類を全て剥ぎ取られて拘束された少女、レアの5人がいた。


「ようレア、気分はどうだよ」


「……あんまり良くないですねー。リュウさん凄い睨んでますしー」


 気絶していたレアを無理矢理目覚めさせたところで、俺はレアへと声をかけた。

 するとレアは多少調子が悪い様子ながらも、いつも通りの棒読みな口調で俺に言葉を返してきた。


「ちょっと俺らとトークしようぜ。俺はてめえとこうして話せる機会をずっと心待ちにしてたんだ」


「わー怖いー、これから一体何が始まるんですかねー」


「はっはっは、何も身構える必要なないさ。男女が集まり話し合いをする、いわゆる合コンだとでも思っておけばいいのさ」


「え!? 合コン!? どうしようお姉ちゃん! 私この服装で大丈夫かな!?」


「いや……今はそういうボケは全くいらねーよ……」


 姉妹揃ってボケるのを見て張り詰めた空気を一瞬緩めた俺は、ツッコミを入れつつ話の方向を修正しにかかる。


「今から行われるのは尋問だ。てめえらは俺らがする質問に嘘偽りなく答えろ」


「スリーサイズとかは自信があるから話せるけれど、体重とか初体験の年齢とか聞かれるのはちょっと……」


「いや誰もそんなこと聞かねーよ!? てめえちょっと黙ってろよ!」


 俺がシリアスな空気に持っていこうとするとジンはちょっかいを入れて俺を困らせる。

 さっきからコイツはこんな調子で俺の問い詰めから逃げおおせていた。






 俺は修にぃと神楽が消えた後、忍とジンを連行してユウ達と合流した。

 そしてユウに大まかな事情を話してこの部屋へと移動し、コイツらが持っている情報を洗いざらい吐いてもらおうとしたのだが、どうもジンがふざけすぎていて成果は芳しくないという状況だった。


 だから俺はひとまずレアをアイテムボックスから出し、縄でぐるぐる巻きにして変な真似ができないようにしてからきつけ薬を嗅がせて無理矢理起こした。

 今の俺ならたとえレアが『レンタルギフト』を使用しても簡単に制圧できる。

 アイテム類さえ使わせなければここから逃げられることはないだろう。


 まあ俺がチートスキルを手に入れたなんてことをレアは知るはずもないだろうが。

 けれどレアは、今の状況が自分にとって不利なのを悟ったのか、周囲を見回した後ふうっとため息をついた。


「まあ、ボクの目的は既に達成されているから、リュウさんに話しちゃいけない事もないんですけどねー」


「何? 目的が達成?」


 それは一体何のことだ?

 コイツが今まで何の目的も無く行動していたというわけでは無いだろうが、明確な目的があるとは思っていなかった。


「修児と龍児君の大魔王任命、だね?」


「そうですよー。魔王討伐が滞りなく終了して大魔王出現フラグもやっと立ちましたからねー」


 レアはジンの言うことを認め、コクコクと頷いていた。

 つまりレアはこの世界からの帰還条件に関わる大魔王の出現を目的にしていたという事か。


「大魔王の出現という目的さえ叶えば、あとはお二人が決着をつけるだけですからねー。どちらが勝とうがボク達はこの異世界から『解放』されますー」


「解放……か。てめえがその言葉を自分に使うなんてな」


 『解放集会』の使う『解放』とはすなわちプレイヤーのHPを0にするってことなんだからな。 

 HPが0になる=死ぬというこの世界では『解放』=死ぬってことになる。


 言葉のあやだってことはわかるが、コイツが使う言葉としてはあまりにふさわしくない。


「レア、その言い方では龍児君達に上手く伝わらないよ」


「あー、そういえばリュウさん達、正規プレイヤーの皆さんは知らないことでしたねー」


 と、俺がレアの発言に微妙な顔をしていると、ジンとレアが意味深な会話をしていた。


 何ことだかわからないと俺は言おうとして口を開くが、それより早くジンが俺を見て発言した。 


「龍児君、友也君、この事はできれば他言しないでほしいんだが、いいかい?」


「……いや、まだ何を他言しちゃいけないのか聞かされてねーし」


「今の段階じゃなんとも言えないよね……」


 俺とユウは揃ってどう反応していいかわからず渋い顔をする。

 口止めとかそういうのはは話の内容を言ってからにしてほしい。


 まあ実際のところ、他人に話すかどうかは結局その内容次第だが。


「それでもだ。多分これから言うことは、少なからぬプレイヤーに衝撃を与える内容だからね」


「……とりあえず話してみろよ。絶対に話さないとは保障できねーけどな」


「ふむ、まあいいか」


 俺が話の先を言うよう促すと、ジンはやれやれといった様子で首を振り、そしてゆっくりと口を開いた。


「君達は今現在、プレイヤーのHPが0になった時、どんなことが起こると思っている?」


「どうって……死ぬんじゃねーのか?」


「違う」


「は?」



「プレイヤーはHPが0になると、この異世界で魂の居場所を失い、私達が元いた世界の体に戻っていくんだよ」



 …………




 ……………………





 ………………………………









「つまりこの世界におけるプレイヤーの死は、元の世界への帰還と同義なんだよ」


「え……」


「そ、そんな、馬鹿な……」


 な、何言ってんだコイツは……


 そ、それじゃアレか……俺らは……


「僕たちは……何のためにここまで戦ってきたんだ!!!!!」


 俺が言おうとした台詞。

 それは俺の口から出る前に、隣にいたユウの口から発せられていた。


「ふざけないでくださいジンさん! そんな……そんな簡単な方法で帰れるんだったら、一体どうしてあなたは僕たちにそれをすぐに教えてくれなかったんですか!!!!!」


 ジンへ問いかける今のユウはいつもとは違い、怒りを前面に押し出して今にもジンに掴みかかりそうな形相だった。

 それを見て俺は自分がユウ同様怒るのではなく、逆に冷静になるのを感じていた。


「ああ、友也君の言うとおりだ。この事実を早い段階で公表していれば、君達はいらぬ苦労をかけずに元の世界へ戻ることが出来たんだから。本当にすまなかった」


 そしてジンは頭を下げ、俺らに謝罪の言葉をかけてきた。

 ジンも一応、このことを俺らに教えなかった事を悪く思っていたようだ。


 けれど、そうするとジンの言葉には腑に落ちない違和感があることになる。

 だから俺はジンに問いかける。


「なら、なんでてめえはそれを公表しなかったんだ? 何か理由があるんじゃねーのか?」


 コイツならあの神楽とかいう男と同様、プレイヤー集団に一辺に呼びかける事もできたように思える。

 俺の夢の中に出てきたり、スキルやクラスを好き勝手に改竄することができるんだから、それぐらいのこともコイツなら出来ただろう。


「それだとボク達が助からないからですよー、リュウさんー」


「何?」


 俺らの会話になぜかレアが割り込んできた。

 しかもレアは俺らに意味がよくわからない事を言っている。


「どういうことだよレア。てめえらが助からないって一体どういう意味だよ?」


「それは『解放集会』本来の目的にあたる内容ですねー」


「本来の目的?」


「はいー。まあ何割かは本当にプレイヤー救済のため、というのも含まれていたのですがー」


 プレイヤー救済……か。


 コイツらの目的はプレイヤーを殺すことで元の世界に返す、というものだったが、さっきまでならその目的は俺らと相容れない理念だった。

 何故なら俺らが死んだ時、元の世界に帰れるなんて保障はどこにもなかったからだ。


 けれど今は違う。

 この保障は今、目の前にいる女、ゲームマスターであるジンの証言で成されてしまった。


 もしかしたらジンが嘘をついているという可能性もなくはないが、この場面で意味のない嘘をコイツがつくとも思えない。

 まず100パーセント、この話は本当だと考えていいだろう。


 そして、そうすると俺らを今まで散々苦しめてきた『解放集会』は、本当にプレイヤーを解放するために活動をしていたという事になる。


 ただ、そうであるからといって、俺の中で『解放集会』のイメージがよくなるというわけでもない。

 コイツらは確かにプレイヤーを救済したかもしれないが、同時にこの世界に元から住む多くの人間を殺した。


 街に魔王を解き放った以上、コイツらにはその罪がある。


「……それで? その本来の目的ってのは一体なんなんだよ?」


 だが今はその話は置いておく。

 コイツらになにかしらの罰を与えるにしても、それは話を聞いてからだ。


「ボク達の目的はですねー、ボク達が元の世界に帰ることなんですよー」


 しかしレアは、俺らに先ほどと同じ、よくわからない答えを返してきた。


「? どういうことだよ。元の世界に帰りたきゃHPを0にすれば帰れるんじゃなかったのか?」


 レアの発言は明らかに矛盾している。

 目的を果たす方法が既にわかっているのにそれをしないとはどういうわけだ。


「リュウさんのいう帰還方法は正規のプレイヤーのみに当てはまるものなんですよー。まあそれも神楽さんが教会を壊して蘇生システムがおかしくなったからこそできた抜け道ではあるのですがー」


「???」


 レアの言っている事が全くわからない。

 俺はその場で首を傾げ、補足説明をしてもらおうと、ジンの方へと目を向けた。


「……まずさっき私が言った君達の手っ取り早い帰還方法だが、それは元々なかった裏道のようなものなんだよ」


「裏道?」


「神楽が教会を壊してしまっただろう? あれと同時に神楽は、プレイヤーのHPが0になった瞬間に教会で自動蘇生されるという蘇生システムも歪めてプレイヤーを蘇生できなくしたんだけど、その後私が手を加えて、この異世界で体を失ったプレイヤーが元の世界に帰れるよう法則を書き換えたのさ」


「……マジかよ」


 コイツさらっと凄いこと言ってやがるな。

 法則を書き換えるとか、言い回しがまるで神の所業みたいじゃねえか。

 つかコイツ、そんなこともできたのかよ。


「……そんなことができるなら、生きている僕達を元の世界に返すことだってできたんじゃないですか?」


 そしてユウがそのジンの言った内容に反応し、ある意味尤もなことを訊ねていた。


 確かにそうだ。

 そんなことができるなら俺らをHPのあるなしに関係なく、元の世界に返す力なり権限も持ってるんじゃないのか?


「それは無理だ。この世界との繋がりが弱くならない以上、プレイヤーはこの世界に縛り付けられる。この世界の住人として君達が生きている状態では、どうあっても私の力で帰す事は不可能だった。それにこれは神楽との約束で、大魔王が出現するまでこの事は絶対口外しないという条件で見逃されている例外だ。彼が駄目だと言ったら、こんな例外は作れなかった」


「……そうですか」


 ジンの答えを聞き、ユウはガッカリとした様子でため息をついていた。


 つまり神楽にとって死んだプレイヤーは興味の対象に無いからお目こぼしさせていただきましたってことか。

 前にもジンは自分じゃ俺らプレイヤーをログアウトできないとか言っていたが、やっぱその辺の権限は神楽の方が上ってことになるのな。


「つかもしかして俺と……修にぃが戦ってどっちかが死んでも、元の世界に俺らは帰ることができるのか?」


 俺はジンの説明から嫌な予感を抱きつつも、一縷の望みに賭けてそんなことを訊ねた。


「……いいや、大魔王役に選ばれた人間は死んだらそれでおしまいだ。蘇生することも元の世界へ帰ることもできない。これは私達の事情に詳しい修児が本気を出せるようにするという神楽なりの配慮だよ。プレイヤー解放の裏道を口外しないというのも、プレイヤーに危機意識を持たせて大魔王が出現するまで真剣に戦ってもらうという理由からだろう」


「いらねー配慮だな……」


 なんで神楽って男はそんなことをしてんだよ。

 よっぽどアイツは俺と修にぃを殺し合わせたいのか。いや、俺と殺しあいたいのは修にぃの方か。


 俺の隣にいたユウはその話を聞いて更に落ち込んでいた。

 俺もユウと同様にガッカリしていたが、さっきまでの説明で1つの解答が頭の中に浮かんだ。

 それは俺がさっき終……修にぃを倒したときに言っていた「おれたちは死ねない」という言葉の意味についてだ。


 普通あの場面で言うなら「死ねない」ではなく「死なない」だろう、と思うが、今の話を聞くとまさしく「死ねない」と言ったほうが意味としては正しくなる。


 この世界で死んだら元の世界に帰れるのに、死んだ直後には自動で蘇生されるなど呪い以外の何物でもない。

 そして「おれたち」と言ったからにはおそらくレアや忍なんかも同じ状態になっているんだろう。


 また、今の修にぃは大魔王としてクラスチェンジを果たした。

 ジンの発言が真実なら、今の修にぃは倒せば死ぬことになるんだろう。


 だがそれを俺はできるのだろうか。

 俺は、修にぃと戦うことができるのだろうか……


「……というか魂とか異世界って、一体どういう意味なんですか。さっきからジンさん達の言葉には違和感を覚えます。だから、今更ですが聞かせてください」


 俺が本筋とは違ったことを考えていると、どうやらユウもどこか別の事が気になりだしたようで、ジンに新たな問いかけをしていた。


「この世界はゲームにしては精巧過ぎます。まるで本当に僕達とは違う世界であるようだ。ジンさん、ここは一体どこなんですか? 本当に仮想の世界なんですか?」


「……その話は君達にとってどうでもいいことじゃないかい?」


「いや、俺も興味がある話だなそれは」


 この世界は一体なんなのか。

 それは俺も聞けるなら聞いてみたい内容だ。


 俺とユウは揃ってジンに視線を送った。


「……君達は、神という存在を信じるかい?」


「神?」


「そう、神様。私達の世界を作った神様は、本当に存在すると君達は思うかな?」


 ……一体何の話だ。


 神様?

 そんなの俺は信じない。


 俺がユウの方を向くと、どうやらユウも神などという存在を信じるほど信心深い奴ではないらしく、首を横に軽く振っていた。


「信じねーな」


「うん、僕も信じないね……」


「そうか」


 俺らが2人共信じないという答えを出すと、ジンは特に何でもなさそうに一言そう言って頷いていた。

 恐らくジンも俺らがこう言うとは思っていたんだろう。


「結論から言うと、神は存在する」


 だがジンは、それでも尚俺らにそんなことを告げてきた。


「神は確かに存在し、神こそが世界を作り上げたのさ」


「……スマン。言ってる意味が全然わからないんだが」


 コイツはあれか。

 何かの宗教家だったのか。


 いきなり、何を、言い出してんだよ。


「そのまんまの意味だよ。現にここまで、この異世界を旅してきた君達ならそれを十分理解してくれると思うんだけれどね」


「…………っ!? ま、まさか……」


「……どうしたんだよ、ユウ」


 ジンの説明で何かを理解できたのか、ユウは驚愕といった表情でジンを見ていた。


「ああ私ではないよ、この世界を生み出したのは別の人物だ」


「そ、それじゃあ一体誰が?」


 ユウがジンに訊ねる。

 だが俺はこの話の内容が上手く飲み込めない。


 というより、飲み込みたくない。理解をしたくない。

 何故ならそれがひどくとんでもない意味を持っていると、さっきまでの会話から既に推察できてしまっていたから。



「神楽という男さ。彼は私達の世界から派生してこの異世界を作り出した、正真正銘、この世界の神様なんだよ」



 けれど俺のそんな悪い予感は的中し、ジンはこの世界の始まりを俺らに語った。

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