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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
一章 始まりの街
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誘拐

 バルとパーティーを組んだ後、俺らは4時間ほど外をうろついてモンスターを狩った。

 モンスターの種類は巨大なネズミ、赤いオオカミ、好戦的な牛、派手な羽飾りで目に悪い怪鳥、それに俺の因縁の敵であるブタ公とかだ。


 一応ブタ以外のモンスターの行動も『レッドテイル』で荷物持ちをしている傍らで観察していたため、複数で突然襲われない限りは俺一人でも何とかなると思っていたが、盾役がいることで俺は1度も危険な目には会わずに狩りを終えることができた。

 1時間に5匹程度、合計20匹のモンスターを屠ったが、その20匹のモンスターの俺への攻撃は全てバルによって止められた。

 だから俺も安心して攻撃することができ、最初の1時間が過ぎて慣れてきたらその後はもうただの作業だった。


 正直バルの存在を舐めていた。

 バルと組むだけでこんなにあっさりとモンスターを倒すことができるようになるなんて想像していなかった。

 俺だけだったら危険と隣り合わせになりながらで精々5、6匹狩るのが限度だっただろう。


 まあいくら簡単に倒せるようになったといってもモンスターの群れとかは流石にスルーするしかなかったんだけどな。

 それでも一度に1、2匹なら安定した戦いができるようになった。


 それにバルは俺に攻撃方法が投球なのをキチンと理解してくれている。

 モンスターの攻撃を体で受けて動きを止め、その後俺が石袋を投げるタイミングを見計らって射線上から身を引いたりするなどちゃんと戦い方を考えていた。

 これは案外めっけもんだったのかもしれねえな。


「いやあ! これはなかなかによい戦果であったのではなかろうかのう!」


「ああ、そうだな」


 俺らはモンスターを狩った後にそう言いながら喜び合い、街の中に入ってパーティーを解散した。

 そしてモンスターから大雑把に剥ぎ取った素材を全て売り払った。


 ちなみに素材剥ぎ取りにはそんなに時間を掛けていない。

 こういう生き物の解体作業は血抜きとかして2、3時間はかかるという知識が俺にはあったんだが、どうもモンスターの肉は血抜きをしなくても味の違いはそんなに変わらないらしく、皮を剥ぐ作業と内臓を取り分けて肉を切り取る作業、それに爪や牙を抜くといった作業だけで終われる。

 それにそういった作業も絶対やらなくてはいけないわけでもなく、適当な大きさに切り分けてアイテムボックスの中にぶち込んでおいて、後で業者に引き渡せばそれなりの金になったりする。場合によってはモンスターの死骸をそのままアイテムボックスに入れて持っていってもOKだ。解体してない分安く引き取られちまうんだけどな。

 それとこれはそういった作業をしていたから気づいたことだが、どうもアイテムボックスの中に入れたものは時間が止まっているようだ。1日入れっぱなしにしていた生肉がそのままの鮮度で取り出せたことからそういう推測が成り立った。アイテムボックスマジ便利だな。


 そうして素材を売った俺らは宿に戻り、昼メシの天ぷら蕎麦を食っていた。

 そのついでにさっきまでの狩りで得た金と経験値を確認している。


 午前の狩りの結果、俺はレベル4、バルはレベル3にまでレベルアップをすることができた。

 レベルアップっつっても俺の場合はSTR、バルの場合はVITのみの上昇で、基本ノーダメージで一撃必殺な俺らにはレベルアップしたっていう実感はねえんだけどな。


 金の方も素材代込みで約800Gという結果で、山分けしても一人約400Gという今までにない大収穫だった。


 俺らはホクホク顔で蕎麦を啜る。

 折角でかい収入が見込めるようになった今、いつまでもここの安いメシを食う必要はないといえばないんだが、それでもなんとなくここでメシを食っちまう。

 まあ馴染みの店ってやつはそんなもんだよな。


 そんな感じでメシを食っていると、ガントが俺らの席にやってきて俺の隣に座った。


「なんだよお前ら二ヤついたツラして。何か良いことでもあったのか?」


「ああ、ちょっとな。それよりカウンターの方はいいのかよ」


「今はレイナに任せている。俺は少し休憩だ」


「ふーん。つかなんで俺の隣に座ってんの? 俺のえび天狙ってんの?」


「ちげーよ馬鹿。……ちょっとお前らに話があってな」


 ……話?


「なんだよそんな神妙な顔しちゃってよ。何か悪いことでもあったのか?」


「まあそうだな。悪い話だ。最近この街で若い女の子が何人も行方不明になってるんだ」


「若い女が行方不明? なんっつーか物騒な話だな」


「だろ? 行方不明になるのは夕方から深夜までの時間だそうだ。それに一人目撃者がいてな、犯人は複数の男だったらしい」


「ふーん」


 誘拐事件なんざよくある話だと思うが、とりあえずその時間帯に出歩くのはよした方が良いかもな。


 俺の対面に座っているバルは一応兜で顔がわからないとはいえ、中の人はまごう事無き美少女だ。

 万が一狙われる危険があると考えるとこいつを一人で出歩かせるわけにはいかねえし宿にいたほうが安全だ。


「わかった。つまりその時間になったら宿に帰って来いっつー訳だろ?」


「話が早くて助かるぜ」


「へいへい。バルも今の話聞いたな? そういう訳だから午後の狩りも夕方までな」


「…………」


「おいバル、聞いてんのか?」


「……許せぬ」


「は?」


 俺がバルに聞き返すと、既に蕎麦を食べ終えて兜を付け直していたバルはワナワナと肩を震わせて両手をバンっとテーブルに叩きつけ、椅子からガタッと立ち上がった。


「許せぬと言っておるのだ! この街のどこかにうら若き少女を連れ去る悪漢が潜んでおるということなのじゃろう? それを見過ごす事はわしはできん!」


「おいおい……」


 その悪漢にてめえも狙われるかもしれないんだぞ。

 コイツ本当にわかってんのか?


「リュウは許せんと思わんのか!? 今こうしてわしらが蕎麦を啜っていた間にも、何の罪もない少女たちが悪漢共の毒牙にかかっているのやもしれんというこの状況を!!」


「まあ思わねえわけでもねえけどよ……それでてめえはどうするっつーの?」


「助ける」


「誰を?」


「攫われた少女たちをじゃ! こうしてはおれん。早速聞き込みの開始じゃ!!」


「あ! ちょ、おい!!」


 バルは宿の出口へと駆け出した。

 俺も追いかけるために最後まで残しておいたえび天を口に入れて走り出す。


「ごっそさん! 奥さんとレイナに蕎麦美味かったって言っといてくれ!!」


「あ、ああ。お前ら暗くなる前には帰ってくんだぞ!」


「おう!」


 ガントに別れを告げて俺はバルを追いかける。

 なんであいつ守ることしかできないのにあんなに猪突猛進型なんだよ。






「そんで? これからどうする気だよ」


「それは勿論聞き込みじゃ」


 俺はバルを捕まえて今後の方針を聞き出す。


「少女達が何時どこで行方をくらましたのかを調べれば悪漢共の潜伏先が割り出せるかと思ってのう」


「ふーん。それならまずどこの誰がいなくなったのか調べることから始めないとな」


「なんじゃお主。手伝ってくれるのか?」


「しょうがねえだろ。てめえを一人で街ん中ウロウロさせるわけにはいかねえし。顔を隠した不審者なてめえの聞き込みに俺が保護者として付き添うしかねえだろ。それによ、俺だってそれなりにこんな事件起きてほしくねえって思ってんだよ」


 俺はそう言ってニヒルな笑みを意識して作り出す。


 俺と関係の無い悪事を見過ごせねえわけじゃねえが、悪事を見過ごせねえ仲間に手を貸してやるくらいの事は俺でもするさ。


「なんだかんだ言いつつお主はやっぱり優しいのう」


「うっせ。つっても夕方までだからな。夕方になったら無理にでも連れて帰るからな」


「了解したぞい」


 俺の言葉をバルは承諾し、近くにいた人に誘拐事件について何か知っていることはないかと聞き始める。


 正直めんどくせえけど俺らはパーティーだからな。

 やろうとしていることは真っ当だし少しくらいなら付き合ってやる。

 これでまたユウに追いつくのが遅れるかもだが、目の前の悪事を放っておくのもこうして張り切ってる奴がいるのに何もしねえのも両方目覚めが悪いしな。


 そうして俺らは早速周囲の住民に聞き込みを開始した。






 2時間に及ぶ聞き込みを終了させ、俺らは朝来た噴水前のベンチに座って情報を整理していた。


 聞き込みの結果、行方不明になった少女は全部で4人だということがわかった。

 最初の犠牲者はパン屋の娘で4日前に夜、彼氏とデートをして別れたその後消息を絶ったそうだ。

 2人目は酒場の娘で2日前の深夜、酒場の手伝いをしていたはずが突然の行方不明。

 そして3人目と4人目は双子で防具屋の娘、夕方に防具屋にいる父親に会うために家を出てからその後足取りは掴めず。

 とりあえず行方不明者の情報をまとめるとこんなもんだ。


 パン屋の娘は夜にデートしてたなら彼女を家まで送ってやれよと彼氏に言いたいが、こんな事件は今までめったに起こらなかったらしく、最初の行方不明者だったこともあるのでしょうがねえのかな。

 2人目の酒場の娘も家の手伝いだったんじゃ仕方がない。多分呼び込みか何かしてるときに攫われたんだろう。

 そして3人目と4人目は夕方に2人一緒に歩いていたところを連れ去られたっていう話なわけだから前回までと比べると随分と大胆な犯行だな。


 そしてもう一つ重要な点が、4人の行方不明者が最後に目撃されたのはちょうどこの噴水広場近くという事だ。

 だからもしかしたら誘拐犯がこの周辺のすぐ近くに潜伏している可能性が高い。


 この広場の近くには朝に並んだケーキショップに2番目の行方不明者が働いていた酒場、それに俺らが普段泊まっている宿屋とは別の宿屋等が見える。

 防具屋はここからでは見えないが、5分ほど路地を歩いたところにある。


 そういえば今はなき教会もこの辺にあるそうだ。

 ゲーム開始直後に破壊された教会は、突然教会に光が降ってきたのを見て街の住民は神の怒りやら天罰やらと一時騒然となっていたとかなんとか。


「そんでどうよ。何か事件解決に繋がるようなもんはあったか?」


「うーむ。まだじゃ、まだこれだけでは悪漢共を捕まえられん」


「それじゃあ次は病院のほう行ってみっか。昨日犯行現場にいたっていう目撃者が入院してんだろ?」


 そう。ガントが言っていた目撃者というのは現在病院にいるらしい。


 なんでも昨日の夕方ここの近くの狭い路地を歩いていると、犯人達が被害者の双子を拉致しようとしていたのをちょうど目撃し、止めに行ったら逆に返り討ちにあってしまったという話だ。


 命に別状はないが重症とのことだ。

 だから今会えるかどうかわからないが、とりあえず行ってみる価値はあるだろう。


「ふむ、そうじゃの。その目撃者から話を聞ければ悪漢共の人相や背格好などもわかるやもしれぬ」


「うし、決まりだな。じゃあ行くぞ」


「うむ。わかった」


 俺らはベンチから立ち上がり、目撃者の入院する病院へと移動した。

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