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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
5番目の街
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最強の男

 俺らの目の前に解放集会の終、赤音、ニャルル、忍の4人が現れた。

 そしてその4人は俺ら100人あまりのプレイヤーを見ても、何の躊躇も抱かずに自己紹介を始めた。


「一応おれたちのことを知らないプレイヤーも多くいるだろうからじこ紹介をしておこうか。おれたちは『解放集会』。きみたちをこの世界から解放するための組織のものだよ」


 終はいつもの無表情でそう言いながら、両手を広げて俺らに言葉を放ち続ける。


「どうやら今回は被害らしい被害は殆どないようだね。これじゃああの魔王を解き放った意味もなかったかな?」


「な……!」


「魔王を解き放った……?」


「それじゃあ……まさかあいつが……?」


 終の言葉を聞き、周囲が俄かにどよめき始めた。


 無理もない。


 俺も2番目の街でコイツから聞かされたときは頭が怒りで染め上がったしな。

 いきなり怒声を終に浴びせないだけ、ここの連中は冷静だとも言えるが。


「……それで? なんでここに着やがったんだ、終」


 俺はひとまず息を落ち着けて終に問いただした。

 何故てめえはここに着た。何故てめえは怖がらない、と。


 てめえは俺ら、もっと言えば俺が恐ろしく感じないのか。

 このタイミングでコイツらが出てきたという事はさっきまでの俺もちゃんと見ていたはずだ。


 しかしそれを見て尚も終は怖気づくこともなくここへとやってきた。

 その真意を俺は掴めない。


「なんでって、そりゃあ君と決闘をするためだよ。佐藤龍児」


「だから俺の事を何も知らないてめえが俺を龍児と呼ぶな。つか、決闘だと?」


「ああそうさ。大墓地で約束していたじゃないか」


 あれか。

 ついさっき終と戦ったことでその話は終わったものと思っていたんだが、どうやら違ったようだな。


 だが……


「てめえ今のを見てなかったのか? 言っておくが俺は今の戦い方をてめえにする事だってできるんだぜ?」


「だろうね。それになぜあんな圧倒的な戦闘ができたのかもおおよそ想像は付いている」


「何……?」


 想像が付いている?

 それに俺が『ドラゴンロード』を使う事にも反応が薄いだと?


「てめえ……マジで言ってんのか?」


「大マジさ。今の動きを見る限りステータスを上限、カンストにするスキルだ。それにおそらく今使ったスキルには使用制限なんてものも無いのだろう? 使いたければ使えば良いさ」


「…………」


 ドンピシャで当てやがった。

 そしてそんな推測が立っているにもかかわらず俺と戦うというのか。


「どうせおれも『オーバーロード』を使う。それなら10秒でカタをつければいいだけさ」


「……そうかよ」


 終はレベル99の才能値一極型だ。おそらくSTRは上限に達しているのだろう。

 そしてそこから繰り出される『オーバーロード』は俺の『ドラゴンロード』状態と同じということになる。


 それなら確かに10秒全力で戦えれば問題は無いのかもしれない。

 俺がその10秒間、コイツと全力で戦う気があればというただし書きが付くが。


 俺がかつてのレアのように10秒間逃げ回るかもしれないと、あるいは10秒間守りに入るとコイツは思わないのか。


「……それなら俺から言う事は何もねーな」


 だが俺はそのことを終に聞くことはない。


 聞く意味は無い。


「そうかい。それじゃあ始めようか」


「ああ」


 終はそうして手に持った銀色の剣を構える。


 それに対して俺は――


「……どういうことだい? 龍児」


「だからてめえが俺を龍児と呼ぶな……これは見てのとおりさ」



 俺は……剣を捨てて拳を握り、ファイティングポーズを取っていた。



「元々俺は弓兵でもなければ剣士でもねーんだよ」


 そう。

 これが俺本来のスタイルだ。


 俺には弓も剣も似合わない。


 拳。


 それだけさえあれば俺は戦えるんだ。


「……なるほど。おもしろい」


 終はいつも通り全く面白いと思ってなさそうな表情と口調でそう言うと、終もまた剣を捨てて拳を構えた。


「実はおれもこっちの方が得意でね。才能値といい、まったくもって気が合うようだ」


「うっせ。グダグダ言わずにさっさと始めるぞ」


 こうして俺らは対峙する。


 100人あまりの観衆を前にして、俺は今度こそ終と決着をつける。


「『ドラゴンロード』!」


「『オーバーロード』」


 俺らは同時にスキルを発動させた。



「ッ!」


「へっ」


 スキルを発動させた俺は全力で、全速力で終へと近づき、そして終の左頬を殴り飛ばした。


 そして俺は間髪いれずに後ろへ吹き飛ぶ終に追いつき拳の雨を降らせる。



 殴る、殴る、殴り続ける。


 終の制限時間、10秒が経過するまで全力で殴り続ける。



 終は俺が10秒間守りに入るとでも思っていたのだろう。

 終は俺が街の外じゃ人相手に全力が出せないとでも思っていたのだろう。



 そんなこと、あるわけないじゃねえか。



 俺は対等な戦いで終に勝たなければならない。

 故に俺が10秒間逃げ続ける事も守りに入る事も論外だ。

 俺は最初から終が全力で戦える10秒以内に決着をつけるつもりでいた。


 また、俺は街の外で全力で戦えないなんてこともない。

 俺が街の外でコイツらと戦う覚悟なんざ、とっくの昔にしていることだ。



 そして終は俺が全力で詰め寄ったのに一瞬反応が遅れていた。


 ほんの一瞬ではあったが、それは致命的な一瞬であった。


 終は俺に致命的な隙を見せたばかりに、俺の攻撃をまともに受けてしまった。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


 俺はその後の10秒間、終を殴り続けた。


 殴って、殴って、殴り続けた。



 これは俺1人で戦わなくてはいけない事だ。


 他の誰にもやらせるわけにはいかない。



 それは俺自身へのケジメのために。


 それは今まで終に殺された無念を俺が晴らすために。



 それはプレイヤーがプレイヤーを殺すという罪を被るのが、俺1人で良いがために。



 俺は、終を殺すつもりで殴り続けた。



「か……は……」


 そうして10秒が経過した。


 それと同時に、終から迸る黄金色のオーラが消えうせ、終はその場に崩れ落ちた。


 俺はその姿を見下ろし、戦っている間に遠くへと離れてしまったユウ達の下へと戻るために終に背を向けた。


 終が生きているかどうかなんて確認するまでもない。


 俺は終を殺す気で殴った。


 その結果どうなったかなんて、確認するまでも無かった。



 こうして俺は遂に終を打倒し、俺の中で1つの決着を見た。

















































「やっと終を倒したか。佐藤龍児君」


「!?」


 俺の目の前に1人の男が現れた。


 その男は、ただ当たり前のことを確認しただけというように、やっと終を倒したか、と、そんなことを言い放った。


「だから言っただろう? これで賭けはおれの勝ちだ」


「いや、まだ私は負けていない」


「え……?」



 そして……俺の後ろで終の声が聞こえてきた。


 俺は咄嗟に振り向く。


「な……」


 終がそこにいた。


 終がそこに立っていた。


 終が、無傷なままそこにいた。


「ど……どうして……」


「? ああ、実のところおれたちは死ねないんだ。『自動蘇生』がかかっているせいでね」


「は……?」


 自動……蘇生……だと……?


「だがそれも今日で終わりだ。そうだろう? 神楽」


「ああ、どうやら佐藤龍児は君と対等に戦える逸材のようだ。約束は果たそう。『クラスチェンジ』」


 目の前に現れた謎の男は終とそんな会話をすると、俺と終から眩い光があふれ出した。


「っく……な、なんだ!?」


 俺はその光に一瞬目がくらみ、終から目を離してしまった。




「……はぁ……やっと元に戻れたか」




 そして俺が次に終を見た時……終は……終……は……




「どうだね? 久しぶりに元の体を取り戻せた気分は」


「ああ、最高の気分だ。俺の目の前にてめえがいなければもっと最高の気分になるんだけどな」


「まあそう言うな。それに君も龍児君に身元を明かさなかったことから推察するに、先程までの姿も君なりに有効に使っていたのだろう?」


「うっせ。それは結果論だ。あんな姿じゃなければ俺だって正攻法で攻めてたんだよ」


「そうかね?」


「そうだ」


 終がいたところには別の男がいた。



「よう」



 その男は




「久しぶりだな。つってもさっきまで俺は終としててめえと会ってたんだけどな」




 その男は、その男は……














「修……にぃ……」


「そうだ。俺は佐藤修児。バカな弟を持つ、てめえの兄だ。龍児」




 ニヒルな笑みを作りつつ……俺に向かってそう言った。

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