千客万来
俺はブラックドラゴンを斃して経験値が入ったのを確認すると、スキル『ドラゴンロード』を解除した。
「……ぐっ」
『ドラゴンロード』を解除した途端、視界が揺れて俺はその場に膝をつく。
どうやら『オーバーロード』すらも超える極端なステータス上昇に俺の体が悲鳴を上げているようだ。
使用制限があるわけではないが、連続使用は控えたほうがいいかもしれない。
「ちょっと! 何あんた1人でドラゴン討伐してくれちゃってんのよ!」
「ん? ああ、シーナか」
俺がブラックドラゴンの骸の傍で体を休めていると、背後からシーナの声が聞こえてきた。
「てゆーか今の一体なんなのよ!? 『オーバーロード』じゃなかったわよね!?」
「ちょっと新スキルを手に入れてな」
「今のはちょっとってレベルじゃなかったわよ……」
「まあそう言うな。俺だってこのスキルがとんでもないスキルだってわかって使ってんだからよ」
だがやっぱ端から見ても次元が違うスキルであるとわかるか。
それに見た目に変化は無いからなおの事異様に見えたことだろう。
「リュウさん……えと……大丈夫でしたか?」
そして次にバルが俺の体を案じてきた。
バルは俺が魔王を斃した後すぐにその場に膝をついたことが気になるのか。
「ああ、大丈夫だ。はしゃぎすぎた感があるだけさ」
「そ、そうですか」
俺が大丈夫というとバルは安心したのかホッと息をついていた。
「リュウ! だ、大丈夫だったかい!?」
「……今度はユウか」
ユウもどうやら俺が単騎で魔王と戦っていたところを見て驚いているようだ。
「だから俺は大丈夫だっつの」
「そ、そう? というか今のは一体なんだったんだい? あのドラゴン、相当強かったように思えたんだけど……」
「あー……なんかもうめんどくさくなってきた。説明は後でするから今は休ませろ」
「う、うん……」
そう何度も聞かれると鬱陶しいことこの上ない。
今は魔王を斃したってことだけでいいだろ。
「どうやらリュウはお疲れのようだな」
「それなら回復魔法をかけましょう~」
「『マジックシェアリング』」
俺がユウに向かってぞんざいな態度でいると、傍にいたヒョウは苦笑してクリスとみぞれは俺に回復魔法をかけるべく魔法を使っていた。
……うん。クリスの魔法で俺の倦怠感も大分とれた。
相変わらず回復魔法は便利だな。
「サンキュー、クリス、みぞれ」
「いえいえ~」
「ゆーあーうえるかむ」
俺がクリスとみぞれに軽く礼を言うと2人も軽く声を返してきた。
「よう……随分暢気に話してるじゃねえか……」
そして今度は轟、番匠、メグの3人が俺らのところへやってきた。
なんか随分人が集まってくるな。
まあ魔王討伐が完了したからだろうけどよ。
「俺達は必死に戦ってたっていうのに……あんなあっさり倒しちまうなんてな」
「なんか……最前線を生き抜いてきたっていうアタシらのプライドがガラガラ崩れていくのを感じるよ……」
「そ、そうか」
轟はいつもと変わらない仏頂面だが、番匠とメグはそう言いながら苦笑い状態だった。
そういえばさっきまでコイツらはあの魔王との戦いで前線を維持することまでしかできていなかったからな。
それがこうもあっさりと終わらせられたのではコイツらにメンツも何もなくなっちまうか。
「ま、まあこうしてみんな無事でいられたんだから良しとしようよ」
「……ユウがそう言うならアタシも気にしないけどさ」
「ガハハ! 俺達もまだまだ精進が足らんということだな!」
ユウとメグ、番匠はそんな話をしながら笑いあっている。
どうやら俺が1人で戦って倒した事についてはそこまで気にしないことにしたようだ。
そのほうが俺も気楽でいいからありがたいんだけどよ。
「どうやら今回も無事、魔王を倒せたようだね。佐藤龍児」
「「「!」」」
そして、俺らの目の前に終達が現れた。
終、赤音、ニャルル、それに忍が、俺らの目の前に現れた。
「……何もてめえらまで集まる必要はないだろうに、よっぽど俺らに構ってほしいんだな、終?」
「言うねえ。さっきあれだけズタボロにしてやったっていうのにさ」
「うっせ」
てめえらにかける言葉なんてこんなもんだ。
てめえらは俺らの敵なんだからよ。
「ニャハハー♪ それで終さん。予定通りアレはニャルルちゃんが貰っちゃってもいいですかニャー?」
俺が終達を見てうんざりしていると、さっき俺が斃したブラックドラゴンの死骸をニャルルが指差しながら終に訊ねていた。
「ああいいとも。好きに使ってくれ」
「ありがとうですニャン♪ 『ストレージ』」
そして終が許可を出すと……ニャルルは何かの魔法を唱え、ブラックドラゴンの死骸が綺麗さっぱり消え去った。
「……おい、今何しやがった」
「何って、ただ単に収納しただけですニャン♪」
「あ? なんだそりゃ。ソイツを何に使う気だよ。さっさと返せコラ」
何他人が狩った獲物を横取りしてんだコイツらは。
コイツらはマナーだとか法だとかを気にしない集団だってのはわかってるけどよ、目の前でいきなりそんなことされたら俺だってカチンとくるぞ。
「どうせ今までも魔王の死骸には興味を持っていなかったじゃないか。なら貰ったって別に構わないだろう?」
「…………」
……まあ確かにそうなんだけどよ。
もしかしたら魔王の死骸は素材として高く売れたのかもしれないが、あまり自分が斃したとかそういう主張はしたくなかったから、斃した後に死骸をどうこうするという事もなかった。
4番目の魔王だけは素直に俺らだけで斃したと胸を張って言えるから素材を剥いでいってもよかったんだが、あの時は終との決戦が控えていたため、即座に町へと引き返したから死骸は放置した。
だから魔王の死骸とはあまり縁がなかった俺らではあるが、コイツらにくれてやる道理もない。
「……ねえ、この人たちは……もしかして……」
と、俺がニャルルの行動に苛立ちを覚えていると、隣からユウの声が聞こえてきた。
……そういえばユウ達は終達と初対面か。
けれども、『解放集会』にどんな奴がいるかそれなりに特徴を伝えてはいるから、ある程度推測は可能だろう。
特に赤音とニャルルはわかりやすい。
シノビ系の装備は見た目のかっこよさからそれなりに見かけるため忍の装備はそこまで違和感は無いが、赤音やニャルルのように着物やメイド装備を着ているプレイヤーは稀だ。
一応4番目の街でそれっぽい装備も売られてたりしているが、袖や裾が大きい着物もフリフリなメイド服も動きにくさが目立ち、戦闘で装備するには向かないというネタ装備的な扱いを受けている。
動きやすさを考えた着物装備やメイド装備もあるっちゃあるが、それは大分簡素な物になっている、あるいはかなり大胆な衣装となっているため、あまり好評ではないらしい。
そんな理由もあり、着物、メイド装備を着た赤音とニャルルはとても目立つプレイヤーであるといえる。
ちなみに終は何を思っているのかわからないが、どこの店でも売っているような見た目はパッとしない量産型の服装を好むのか、無難な装備すぎてあまり印象に残らない。
「……ああ、多分てめえの想像通りだろうよ」
それでもニャルルがいる以上、ユウが考えている事も間違ってはいないだろうと思い、俺はユウの想像を肯定した。
「コイツらは……『解放集会』だ」
そして俺は終達を睨みつけつつ、そう断言した。
終はそんな俺と視線を合わせ、ただただ虚しい無感情な笑みを浮かべていた。




