足代わり
「……あ」
「! リュウさん!」
「やっと起きたわね! リュウ!」
目が覚めるとそこにはシーナとバル、それにヒョウ、みぞれ、クリスの5人がいた。
「ここは……外か」
俺が起きた場所、そこは荒れ果てた教会跡地だった。
「何で……俺はここに……?」
俺は終に負けて地下の最深部で気絶していたはず。
俺が意識を失っている間に何がどうなったんだ?
「オレ達があの赤音という女性と戦っている間に5番目の魔王が解き放たれてな。その時に忍がお前を引きずってオレ達に寄越したんだ」
「そうか……」
まったく気づけなかったが、忍も実はちゃっかりあの場にいたのか。
というか終は今回も俺を見逃したか。
「! そうだ! 魔王はどうした!」
「……あそこだ」
「……!」
俺が慌てて魔王の所在を聞くとヒョウが一つの方向を指差し、俺はそれにつられてその方角へと目を向けた。
そしてそこには黒い竜、ブラックドラゴンが悠然と空を舞っている姿が見えた。
「今ユウ達があのドラゴンと戦いながら街の外へとおびき寄せている。オレ達も早く合流しよう」
「……ああ、わかった」
俺はヒョウの尤もな意見に賛同し、その場から立ち上がってブラックドラゴンの方へと足を向けようとした。
「ちょっと待って!」
しかしそのタイミングでシーナから声がかかり、俺はシーナの方を振り向いた。
「……なんだよ。今は一刻の猶予もねーんだぞ」
「そ、それはわかってるけど……その前に1つだけ聞かせてよ」
「何だよ?」
「あんた……さっき言ってたことは一体なんだったの? あんたが女ってどういうことよ?」
「…………」
その事か……
ちなみに今の俺は……うん、俺だな。
「なあ、シーナから見て俺ってどんな奴なんだ?」
「は? ええっと……あんたのことは目つきが悪くて口調も悪くて態度も悪い最悪な――だと思ってるわよ」
「なんだそりゃ」
心象最悪じゃねえか。
しかも最後の部分よく聞き取れねえし。
「でも……あんたは優しくて強くてカッコいいと……私はそう思うわよ」
「そ、そうかよ」
な、なんかそう言われると胸の奥が熱くなるな。
シーナも今の言葉を言って顔を赤くしているし、多分俺の顔も赤くなっていることだろう。
けれどシーナがこう言っているということは俺が……女ではないということになるのだろうか。
地下で戦った終も夢の中で会った女とあの龍にぃを名乗る俺も俺の事を陽菜ではないと言っているし。
だが俺自身は自分が女であるとしか思えない。俺だけは陽菜であるという認識を改めることはできない。
「……やっぱ俺は陽菜だな」
龍にぃを目指した俺ではあるが、俺は龍にぃそのものではないし、なれなかった。
それが今になって俺は佐藤龍児であると言われても俺にはどうする事もできない。
「ワリいシーナ。やっぱ俺は女だわ」
「いやだからあんたはどう見ても――だってば!」
うん。やっぱりうまく聞き取れねえ。
ただ何を言いたいのかはよくわかった。
しかしその認識を今更俺は受け入れることが出来ない。
「ひとまずこの話は後回しにしてくれ。俺も今の状況がよくわかってねーんだ」
「……わかったわ。あんたの様子を見る限り、どうも冗談を言っているって風でもないし……突拍子もないけど」
「ホントスマン」
「後で絶対この話はするからね」
俺がシーナに向かって真剣にそう言うと、シーナもひとまずその話を保留にしてくれた。
シーナにとっては俺への告白を有耶無耶にされたようなものだからな。
後で腰をすえてゆっくり話し合うのが筋だろう。
「……ん? 何の音だ?」
と、俺らがそんな微妙な会話をしていると、何かけたたましい音が遠くから聞こえてきた。
「……て」
俺がその音がする方角を見やると、そこから十数匹の鳥型モンスターとそれに跨るプレイヤー達が俺らの方へとやってくるのが見えた。
そしてそんな連中の先頭にいたのは……轟だった。
「よお……テメエら……元気そうだな……」
「てめえらもな」
教会跡地の警備時にもちょくちょく見たが、この鳥が轟達にとってのバイク代わりという事らしい。
まあこの世界にバイクとかは無いだろうからな。
そのは鳥は鳥なのに二足歩行で、それでいてダチョウとかそういうのでもなく鶏をかっこよくしたようなモンスターだった。
そんな鳥になぜか轟達は三段シートを付けて、更にマフラーやロケットカウルのようなものもゴテゴテと装着している。
「なあ、シートはわからんでもないがそれ以外の物にどんな意味があるんだ? 鳥なんだから排気とかしねえだろうに」
「今はお喋りしてる場合じゃねえだろ……」
「と、そうだった」
そうだ。
今はあのブラックドラゴンを倒すことが最優先だ。
ついついコイツの過多な装飾に目が行って思考をそっちに持って行っちまってた。
……ならコイツらは何でここに着たんだ?
「ほら……さっさと乗れよ……」
「あ?」
そんな俺の疑問が顔に出ていたのか、轟は俺が訪ねる前に用件を語りだした。
「ユウからの要請でな……ここにテメエらがいるから連れてきてくれだとよ……」
「ユウがか……」
「オレタチを足代わりに使うなんてよ……後でユウには焼き入れねえとだな……」
轟はそう言うと小さく舌打ちしてから顎をクイッと動かして後ろへ乗るよう促してきた。
「その鳥2人乗りして平気なのか?」
「問題ねえさ……俺の『ナナハン』はテメエを乗せた程度でばてるような玉じゃねえよ……」
ナナハンて。
……いや、もうツッコむのはよそう。
俺は轟に言われるまま轟が乗っている三段シートの後ろに跨った。
そしてそれを見てシーナ達も他の『不離威打無』メンバーの鳥に跨っていつでも出発できるという状態になった。
「それじゃあいくぜ……ピリオドの向こう側へ……!」
「お、おう……」
こうして俺らはブラックドラゴンを追いかけるべく、けたたましい音を振りまきながら移動を開始した。
どうやら足としては申し分なく、ブラックドラゴンを追いかけているうちに俺らはあっという間に街の外へと飛び出した。
「パラリラパラリラ~!」
「ヒャッハー! どけどけどけーい!」
「ブォーンブオンブオンブォンブォーンブオンブオンブォン!」
「…………」
……ただ、俺らの周りにいる『不離威打無』メンバーから謎の音が発せられているのが滅茶苦茶うるさい。
てめえらうるせえよ。
なに口でそれっぽい音出してんだよ。
「あぁ……? ありゃあなんだ……?」
と、俺が音にげんなりしているところで前方から轟の声が聞こえてきたので俺は前を向きなおした。
「魔王の置き土産か……」
するとそこに小型の黒いドラゴンの群れがあるのが見えた。
だがどうやらユウ達は本丸の方を追いかけていったようで人の姿はない。
「突っ切るか……」
「いや、それより一掃した方が安全だろう。ヒョウ! みぞれ! やっちまえ!」
「了解! すまないが前に出てくれ!」
「了解。……『マジック・インフィニティ』」
後ろにいたヒョウとみぞれに声をかけるとヒョウの乗っていた鳥が加速して俺らの前へとやってくる。
それを見つつみぞれも早速『マジック・インフィニティ』を発動させて、準備万端な状況となった。
「俺らが通る道だけは凍らせるなよ!」
「わかっているさ! 『アブソリュート・ゼロ』!」
そしてヒョウは最強の魔法を発動させる。
『アブソリュート・ゼロ』。4番目の街から今までの旅の中で、攻撃の領域までをもある程度指定できるようになったヒョウの切り札だ。
今のヒョウにかかれば俺らが走り抜ける地面を凍らせず、モンスターだけ倒す事だって造作もない。
「こいつは……スゲェな……」
「だろ?」
パーティーメンバーが褒められてるんだ。
パーティーリーダーとしちゃ鼻も高いってもんだぜ。
轟が感嘆の声を上げているのに気分を良くし、俺はニッと笑う。
「先を急ごうぜ! 轟!」
「ああ……ここからは全力疾走だ……!」
どうやら街の中ではある程度速度を落としていたらしく、目の前に障害物も無くなったことで轟は更に速度を上げて遠くに見えるブラックドラゴンとの距離をグングン縮めていった。
、そうして5分後、遂に俺らはユウ達とブラックドラゴンに追いつくことが出来た。




