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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
5番目の街
110/140

覚悟

 さっきからどうも体が軽い気がする。

 何か憑き物が落ちたような、ちゃんと地に足が着いているというか。


 自分の意思がダイレクトに自分の体に伝わるというような、そんな言いようの無い爽快感がある。

 なんでだろうか。


 まあいいか。そんなことはどうでもいい。

 今はバルを蘇生させることだけを考えよう。


 俺は地下から一旦地上へと戻ると、すぐさまメニュー画面を開いてマップを表示させてクリス達の居場所を探る。


 それを見ると、どうやら俺とバル以外のパーティーメンバー4人は今一緒に此方へ向けて移動している最中である事がわかった。


 だがどうも移動速度が速い。 

 シーナはともかくとして他の3人が早いのはどういうことだ?


 と、俺がそんな事考えてる間にシーナたちを示すマーカーがあっという間に俺の近くまでやってきて、シーナを視認できる距離になった。



 シーナがいた。



 俺はその時、なぜか胸が高鳴った。



 今はそんな時ではないというのに、俺はシーナを見て嬉しい気持ちで一杯になった。


「シーナ!」


 俺はシーナの名を叫ぶ。


「リュウ!」


 そしてシーナも俺の名を叫んだ。


 ああ、シーナだ!


 シーナがここにいるぞ!


「シーナ! 会いたかったぞ!」


「私もよ! それでバルはどこ!?」


「へ? あ、ああ、そうか」


 何を考えてるんだ俺は。

 今はバルの蘇生が最優先のはずなのに、シーナを見たら思考が吹き飛んでしまっていた。


 俺は心の中で反省しつつもアイテムボックスを出現させてバルを出した。


「バルのHPが0になった。早く蘇生させたいんだがクリス達はどこにいる?」


 そして俺はシーナにクリス達の所在を尋ねた。

 

 さっきまでクリス達もシーナと一緒だったはずなのに見当たらない。

 これはどういうことだ。


「ちょっと待ってて」


 そんな疑問を抱く俺に向かってシーナはそう言うと、シーナもアイテムボックスを出現させた。


 ……ああ、なるほど。


「! 『マジックシェアリング』」


「『リザレクション』!」


 シーナは自身のアイテムボックス内からみぞれとクリスを出してきた。

 そしてみぞれとクリスは横たわるバルを見るなりすぐさま魔法を発動させた。


 さっきの4人の異常な移動速度はシーナのアイテムボックスの中に入っていたから起こった現象だったのか。

 アイテムボックスを利用した特急便。まあ緊急の際には有効な手段だな。


「……どうやら間に合ったようだな」


 シーナのアイテムボックスから最後に出てきたヒョウがバルを見ながらそう呟いていた。


 間に合った。


 そう。


 バルの蘇生が間に合った。


 バルはクリスの魔法を受け、HPが全回復して顔に生気を取り戻した。


「これで一安心だな」


 俺はそんなバルを見ながらホッと一息ついた。


「バルのHPがいきなり0になった時はホントビックリしたわよ」


 そして俺の隣でシーナがそんな事を言っていた。


 そっか。

 パーティーを組んだ状態を維持したままだったからバルのHPが0になった時シーナ達もすぐ行動を開始できたんだな。


「ん……うぅ……」


「おっ、どうやら目を覚ましたみてーだな」


 俺がシーナ達の迅速な行動をそう分析していると、バルの目が薄っすらと開き始めた。


「あ、あれ? ここは……」


「ようバル。気分はどうだ?」


「え? りゅ、リュウさん? え? あれ?」


 どうやらバルは今の状況がよく飲み込めていないようで、俺らをキョロキョロ見回していた。


「ちょっと落ち着け。そんでてめえがさっきまで何をしていたか冷静になって思い出せ」


「は、はい……えと……確か私は……教会跡地の地下でリュウさんと一緒にキルさんとレアさんの2人と戦って……」


「それで?」


 俺はバルが思い出すようにさっきまでの出来事を話すのに相槌を打ちながら聞き続ける。


 この先は俺もバルに聞きたかった事だ。

 なんでバルがさっき死んだのか俺にはよくわからなかったからな。


「それで……私はレアさんの銃弾で吹き飛ばされて……リュウさんが……キルさんの花火玉を受けそうになっているのを見て……」


「それでバルはどうしたんだ?」


「それで……私はスキルを使ってリュウさんのダメージを肩代わりしました」


「…………は?」


 …………は?




 …………は?



 ちょ、ちょっと待て。


 つ、つまり、どういうことだ。



 つまり、バルが死んだのは俺の身代わりになったからと、つまりは、そういうわけか。



「な、なんでそんなことが……」


「……リュウさん達には話してませんでしたが、私は4番目の街を出発する際に1つのスキルを、『スケープゴート』を取得していたんです」


「す、スケープゴート……?」


「はい」


 な、なんだそれは。初耳だぞ。


「スキル『スケープゴート』はパーティーメンバーが受けたダメージをスキル使用者が代わりに受けるというスキルです」


「な……」


 なんだよそれ。

 それってつまり、俺らが受けるダメージは全てバルが受けるってことかよ。


「! ちょっと待って! それって確かHP寄りのタンクが使うようなスキルじゃなかった!?」


 と、バルの説明を聞いていたシーナが突然そんな事を言い出した。


「『スケープゴート』で代わりに受けるHPダメージは攻撃を受けたプレイヤーのHPダメージをそのまま受けるっていうスキルだったはず……それじゃああんたの自慢の防御力は全く意味を成さないじゃない!」


「はぁ!?」 


 なんだよそれは!


 それじゃあバルは俺らが攻撃されたら即死亡の可能性大じゃねえか!

 バルは俺ら同様HPに才能値振ってないんだぞ!


「なんでそんなスキルを取得したんだよ! 言え! バル!」


 俺はバルに詰め寄った。


 このスキルは明らかにバルと相性が悪い。

 にもかかわらずバルはそのスキルを取得した。


 その真意を聞き出すために、俺はバルの両肩に手を乗せて問いただす。


「そんなスキルを使ってもバルが死ぬだけじゃねーか! 俺らはてめえ以外1回の攻撃でHPを全損しかねない紙装甲なんだぞ!」


「……だからこそです」


「何?」


「だからこそ私がこのスキルを持つ意味があるんです」


 俺の問いかけにバルは静かに応じ、言葉を紡ぐ。


「リュウさん達が攻撃されるという時、それは私が守りきれなかった時です。……そんなことは絶対にあっちゃダメなんです!」


「バル……」


「私は盾としてみなさんを絶対に守るって誓ったんです。これは……このスキルは、その覚悟を鈍らせないためです」


「…………」


 バルの告白に俺らは誰も声を出せない。


 無理もない。

 俺もバルのあまりに重い覚悟を聞いて何も言えなくなっちまったんだからな。


 バルは俺らを文字通り命を懸けて守り通すと告白し、そしてその覚悟を今さっき俺らに見せつけたんだ。

 そのあまりにも重く、強い意志を否定する言葉は、俺らには出せない。


「なんで……なんでそんなに……てめえは強いんだよ……バル……」


 俺はかろうじて出せた声でそんなことを訊ねた。


 そしてバルは俺らにはっきりと答える。


「私がリュウさん達を守らないといけない、守りたいと思ったからです。それ以外に理由なんてありません」


「!!!!!」


 ……ははは。

 そうか。そうだったのか。


 バルは自分に出来ることに、守ることに全力を注いでいるのか。


 バルはいつだって俺らをどうしたら守れるかを考え、守れなかった時は涙を流していた。

 そんなバルだからこそ4番目の街でこの背水の陣とも呼べるようなスキルを手にした。


 もう守れなかったと言わないために、守りきれないなんて言わないように。自分で自分を戒めたんだ。


 このスキルがある限りバルは奥の手として俺らのダメージを肩代わりする権利を得る。

 そしてその権利はバルにとって、ある種の楔としての役割を果たしたんだ。


 この街にくる前にバルのパフォーマンスが飛躍的に向上したのもそのためか。


 このスキルがある限り仲間を守れなかったなんて事は言わせない。守れなかった時は自分が死ぬ時だ。

 バルは、そんな決意を持って今までを戦い抜いてきたんだ。そりゃあ嫌でも上手くなるさ。



 ……それにひきかえ俺は何だ?



 俺は敵を倒す事が役目のはずなのに、終には負け続けてレアやキル程度の敵にさえ手こずる始末。

 全くもって情けない。


 今の俺は、バルに顔向けできない。


「……てめえの覚悟はよくわかったぜ、バル」


「りゅ、リュウ……」


 俺の隣でシーナが何かを言いたそうにしている。

 多分バルの覚悟を見て、俺にそれを否定してもらいたいんだろう。


 てめえは盾役だが、なにもそこまでする必要は無い。

 自分の命に代えてでも守る必要は無いんだ、と。


 だがシーナは何も言わない。


 気持ちはわかるぜ。てめえもバルと同じ盾役だからな。


 盾役であるシーナがそんなことを言い出せばバルはもしかしたら怒るかもしれない。

 別にシーナも命を張れっていうわけではないが、いざというときにコイツは俺らを見捨てるかもしれないというような不信感を与えかねない。


 それは、俺らの命を預けられる盾役2人にとって最も致命的な不和となる。

 そうなれば連携も何もあったもんじゃない。そうなれば戦闘の流れも悪循環を生み出すだろう。


 故にシーナは何も言えない。

 そして代わりにパーティーリーダーたる俺が言えと、そう圧力をかけてきている。


 だが俺は否定しない。

 というよりも……否定するだけの資格がない。


「バルがそこまでの覚悟を持っているなら、今の俺は何も言わねーよ」


 俺はバルにそれだけ言って再び教会跡地の地下へと続く階段に目をやった。


「妙なところで時間を食ったな。早く終を止めにいくぞ」


「はい!」


「……ええ」


「……ああ」


「了解」


「……了解です~」


 バルとみぞれ以外の連中から聞こえる声は小さい。

 俺がバルに何も言わないことがよほど気にかかるのだろうか。


「……いつものあんたならバルに説教の一つや二つしていた場面じゃないの? リュウ」


 と、俺らが地下への階段を駆け下りる最中にそんなことをシーナは俺に囁いた。


「今しなきゃいけねーことは終達を止めることだろ。バルへの説教なんて後回しだ」


「……後で絶対バルの考えを改めさせなさいよ」


 ああ、それは勿論さ。


 さっきまでの俺はバルの事を否定できるだけの資格はなかった。

 でもそれはあくまでさっきまでの俺にはだ。


 その資格はこれから作る。



 『解放集会』を、終を、俺が斃す事によってな。

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