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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
一章 始まりの街
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パーティー

 朝早くに起きた俺は食堂で仕事を始めていたレイナから了解を取ってレイナの部屋に行き、ベッドですやすや寝ていたバルをたたき起こした。そして朝の街を俺はバルを連れて歩いていた。

 別に散歩とかそういうのじゃなく、バルを自立させるべく俺の知る限りのクエストをコイツに叩き込んで金を稼げるようにするためだ。


 つかバルとレイナは同じベッドで一緒に寝てたのか?

 部屋には寝れるところがベッドの一つしかなかったから必然的にそうなるんだろうが。

 ベッドで寝てたバルは汚れた初期装備から可愛らしい寝巻きに着替えられてたし。あれって多分レイナから借りたんだろう。

 なんつーかレイナのやつ、かなりバルを気に入ってんのな。


 そして時折バルの兜の中から欠伸のような音が聞こえてくる。

 レイナも朝挨拶したらなんか眠たそうだったし、多分夜遅くまでガールズトークと洒落込んでいたんだろう。レイナは結構お喋り好きだからな。


「のうリュウよ。わしは腹が減ったのじゃが」


 まだ眠たそうな声が兜の中から聞こえてきた。

 眠たくても食い意地は張ってるのな。


「うっせ。これが終わったら宿に戻って朝メシにすっからちゃんと聞け」


 早くもへたり気味なバルを叱りつけ、俺はクエストの概要を語り始める。


「いいか? 今回俺らのターゲットは目の前にあるケーキ屋で売られている『お一人様1日お一つ限り!始まりの街限定特製プリンケーキ濃厚クリ~ムのせ』だ。それを10Gで買ってここから東に歩いたところにいる『甘党』のジュディに20Gで売りつけることが目的だ。結果このクエストで10G手に入ることになる。1日の食費と同じ値段だ。心してかかれよ」


「……それって転売とかいうやつではないかのう? なんというか気が進まんのじゃが」


「バカヤロウてめえそういうことはてめえ自身で稼げるようになってから言いやがれ。こちとら食うために必死なんだよ」


「む、むう、しかしじゃな……」


「しかしもかかしもねえんだよ。それに考えてもみろ。これをやればケーキ屋の売り上げには貢献し、ジュディには笑顔で感謝されるんだぞ。それでいて俺らは10Gの利益を出す。まさしくWINWINな関係じゃねえか」


「! そ、そうか。これは悪いことではない。むしろ感謝されるよい事なのじゃな!」


「おうよ。ほら、プリンケーキ代の10Gだ。後で返せよ」


「うむ! あっ、店が開くぞ! では行ってみるとするかのう!」


 バルは10Gを手にして店の中に入っていく。

 なんつーかチョロいな。


 きっとロクに理由も知らないままに転売はいけない事って知識だけ持って生きてきたんだろうな。

 悪い事を悪い事として鵜呑みにして何が悪いかをちゃんと教えない周りの環境が悪いのか。


 メシを食わせてやるといえば赤の他人にもついていくし、なんだかあいつの将来が心配になってくるチョロさだ。

 まあそんなこと考えてもしゃあないか。

 俺はあいつのかあちゃんでもねえし。


「おっと、ボーっとしてる場合じゃねえな。俺もケーキ買いに行くか」


 俺もバルの後を追うようにしてケーキ屋の中に入っていった。


 1日限定300個というこのレア食品はケーキ屋開店後30分以内に毎回売り切れる。

 それにもし買うなら列に並ぶ必要があるから開店後すぐに店にいなければならないんだよな。


 とりあえず今日は開店直前には来れた訳で、十数分で俺は限定プリンケーキを買えた。

 ケーキの入った箱を手に持ち、一足先に店から出たバルを探すと、バルは近くにある噴水広場のベンチで座り込んでいた。


「わりいな待たせちまって。俺もケーキ買えたからさっさといこうぜ」


「……」


 …………?


 俺の呼びかけにバルは反応を示さない。

 何かあったのかと周囲を伺うが怪しいものは何もなく、バルはボーっと噴水の方を向いている。


「おいどうしたんだよ?」


「…………」


 何かあったのか?

 俺はバルと目線を合わせるためしゃがみ込んだ。


「バル、何かあったん――」


 ……そして俺はバルの兜を見て気付いた。


「おい……手に持ってる箱の中身見せてみろ」


「うっ」


 バルの肩が一瞬はねた。


「なに、ちょっと確認するだけさ。だからほら、見せてみろ」


 俺はドスの効いた声でバルを脅し、それにバルは屈して恐る恐る俺に箱を渡してきた。

 渡された瞬間箱の重さで判っていたことだが、一応箱を開けて中身を確認する。


 ……箱の中は案の定空っぽだった。


「おい、中身どこやった」


「…………」


「おい、中身どこやった」


「違うんじゃよ」


「違わねえよ。中身どこやったかって聞いてんだよ」


「その……ここに来る時にケーキの箱を落としてしまってじゃな」


「ほほう」


「その時中身も盛大にグチャグチャになってじゃな……」


「それで?」


「……後始末をして捨てたんじゃ」


「うそつけ、てめえプリンケーキ食っただろ」


「っ!」


 俺の言葉にバルは肩をビクンと跳ね上がった。

 ビンゴじゃねえか。


「しょ……証拠がないのではそれはただの言いがかり――」


「兜の首元、クリームついてっぞ」


「!?」


 バルは慌ててクリームを拭おうとする。

 だがよく見えないせいか、兜に付いたクリームが取れていない。


「おおかた急いで食べようとした時に付着したんだろ。違うか?」


「……すいませんでした」


 犯人は遂に自身の犯した犯行を認める。


「いやな……箱を落としてしまったのは本当なんじゃ。それで中身は大丈夫かと心配になっての。でも箱を空けたらクリームがぐちゃぐちゃで……」


「これじゃあジュディに売れないと思って、それならわしが食べちゃおうってか?」


「そうじゃ……」


「はあ……ったく、めんどくせえやつだな。何気に供述に嘘とホントを混ぜて語ったあたりは筋が良いと褒めてやるよ」


 褒めて良い事なのかどうかは俺にはわかんねえけどな。


「しょうがなかったのじゃ……朝ごはんはまだ食べてないし、箱から漂う甘い香りは魅惑的じゃし……全ては欲に負けたこのよく鳴る胃袋が悪いんじゃ……」


 犯人は動機を語り、自らが起こした過ちにそっと涙を流す。

 いやまあ顔見えねーけどな。


「……でもプリンケーキおいしかったぞい」


 ……しかし自らの犯した過ちに対する反省の気配はなく、情状酌量の余地はないものと見られる。


「うるへーちゃんと反省しやがれ。そんなもん俺だって毎回食いたいと思ってたんだからな」


 この世界に来てから俺は甘いモンには餓えてんだよ。

 それでも毎日我慢して金を稼いでたってのに。


「じゃったらこの際、お主もケーキを食べてしまうというのはどうじゃろう」


 バルはそう言うと俺の方に顔を向けた。

 兜越しではあるが、なんとなく見つめられているのがわかる。


 …………。


「ちっ、しゃあねえなあ」


 俺はベンチにどっかと腰を下ろすと手に持っていた箱を開け始める。

 まあ今回くらいは別にいいさ。


「そもそも俺はもう10Gとかみみっちい金額とはおさらばできる力はあるんだ。だからこれを食ったって何の問題もねえ」


 それにバルだけ食ったってのも納得いかねえしな。


 その後結局ケーキをものほしそうにして隣に座るバルに半分食われたが、この世界にきて初めて口にした甘い菓子の味は最高だった。






「さてと……今回のクエストは失敗に終わったが、次に紹介するクエストは絶対成功させろよ。てめえの借金は今のケーキ代で更に増えたんだからな」


「そのことについてわしから一つ提案があるんじゃが、聞いてもらってもよいかのう?」


 不意のおやつタイムを満喫した俺らはベンチから立ち上がり、次に紹介するクエストがある場所へ移動しようとしていた時、バルはそんなことを俺に言ってきた。


「なんだ、言ってみろ」


「うむ。お主が紹介してくれるというクエストは1日50G程の収益なんじゃろう? じゃったら、町の外へ出てモンスターを狩った方が何倍も効率がよいのではないか?」


「つってもてめえ攻撃能力ねえじゃん」


「そこでわしからの提案じゃ。お主、わしを盾役として雇ってはもらえんかのう?」


「盾役? つまりてめえとパーティー組めってか?」


「ありていに言ってしまえばそうなるのう」


 パーティーねえ。


 俺がパーティーの誘いを受けると今まで碌な事がなかったが、コイツとならどうなんだ?


「わしはこの辺のモンスターでは傷一つつかん。それはわしがお主に会うまでずっと外で野宿していた時に確認済みじゃぞ」


 へえ、そいつはすごいな。

 つかコイツ1週間も野宿してやがったのか。

 外では命の保障はないのにすげえ根性だな。


「だから遠慮せずガンガン前に突っ込ませても平気じゃぞ?」


「だがなあ」


「わしが小娘だからと躊躇しておるのか?」


「そんなことはねえよ。いざとなりゃ女子供でも俺は容赦したりなんかしねえ」


 俺は女だからとか子供だからとかそんなことをうだうだ言う事はしねえ。

 そういうことを言われたら俺はガキの頃から聞き流すことにしている。

 まあそれで俺が無茶して大怪我した時なんかは友也や周りの大人たちに滅茶苦茶怒られたりしたんだけどな。

 そういう時はちゃんと反省している。後悔はしてねえけどな。


「ではやはりわし個人がダメなのかの」


「ダメなわけねえよ。俺だって攻めるしか能のない奴なんだぜ?」


 守るしか能のないお前を否定するならそれはオレ自身をも否定しちまうことになりかねねえ。

 だから俺はコイツのプレイスタイルを否定したりなんかしねえ。


「……それじゃあお主はわしを受け入れてくれるかのう?」


「おういいぜ。こうなりゃヤケだ。てめえが音を上げるまで使いまくってやるよ」


「あまり最初からハードなのは困る。お手柔らかに頼むぞい」


「てめえから誘ってきたんだ。つらくても我慢しろ」


「お主、優しいかと思っておったが案外鬼畜じゃのう」


「てめえが勝手に俺の事優しいとか勘違いしてたんだろ? 今更嫌だとかぬかすのは無しだかんな」


「言わぬよ。わしももう覚悟は決めた! さあ! わしをお主の好きなようにするがよい!」


「言われずともそのつもりさ。それと俺の命令は絶対だからな」


「わかった! わしはお主の命令なら何でもしてみせようではないか!」


「お? なんだ、てめえもノッてきたじゃねえか。いいぜ、その意気だ。俺も無理矢理は好まねえからな」


「元々わしから誘った事じゃからの。もはやわしに躊躇いなど無い! 受けのわしと攻めのお主が合わさればどんな事でもできるとわしは期待しておる! リュウよ! わしと一緒に行けるところまで行こうぞ!」


「おう! それじゃあまずは宿屋に戻るか」


「うむ!」


 俺らはそこで話を切り上げ、朝メシを食うために宿屋へ戻った。


 こうしてソロだった俺はバルと組むことになった。

 モンスターを攻める俺にモンスターの攻撃を受けるコイツ。

 まあ役割分担ができてるんだからうまくいくさ。


 話を切り上げた時、周りから俺らを見ていたような視線を感じたが多分気のせいだろう。






 宿屋に戻って朝メシを済ませた俺らは早速街の外へと足を運んだ。


「のうリュウ。雇われる側じゃからあまり強くは言えんのじゃが、わしに経験値は分けてくれんのかのう」


「は? 一緒に戦う以上は報酬も五分五分だろ」


「じゃったら何ゆえパーティー申請をわしに寄越してくれんのかのう……」


「パーティー申請?」


 何だそれ。

 初耳だぞ。


「もしかしてお主、パーティー申請を知らんのか?」


「知らん」


「ほほう。つまりお主も今までぼっちだったということじゃな?」


「ぼっちじゃねえよ! ここに来てから俺もう2回はパーティー組んでるし!」


 いかん。

 最初のユウたちとのパーティーとは組んだといえるのか微妙なところだが、つい見栄を張ってそれもカウントしてしまった。


「じゃったらなぜパーティー申請を知らんのじゃ?」


「あ? パーティーつったら一緒につるんで敵をボコればそれでパーティーだろ?」


「全然違うわい。それじゃと敵を倒せないヒーラー等が経験値を獲得できんではないか」


「マジか」


「マジじゃ」


 知らなかった……。

 てっきり俺はヒーラーなら味方回復してればポンポン経験値稼げるもんだとばかり思ってた。


「パーティーリーダーが仲間に申請を送って、それを仲間が承諾すれば晴れてパーティーが成立し、モンスターを倒した際に得た獲得経験値と獲得ゴールドが山分けされるようになるわけじゃよ」


「そうだったのか……」


「ちなみにパーティーを組める人数は最大7人までじゃ」


「ふーん……7人!?」


「ど、どうしたんじゃ? いきなり声を荒げて」


「ちっ……あいつら……」


 俺が4日ほどパーティーを組んだ『レッドテイル』は俺がパーティーに誘われる前から7人のパーティーだった。

 つまりあいつらはどのみち俺を最初っからパーティーとは認めてなかったって事だ。

 あいつらとはもう縁が切れているし俺なりの流儀でけじめをつけたつもりではあるが、なんっつーか初心者の俺を馬鹿にしていたようで無性に腹が立ってくる。


 ……そういえばユウたちのパーティーは俺を数えないと6人だったな。

 初めは俺をパーティーに入れようとしていたことがそれでわかる。


 まあ今となってはどうでもいい事か。

 あいつらはあいつらで今頃俺の代わりになるメンバーを入れて仲良くしていることだろう。

 ふん、俺も俺でパーティー作って追いついてやっから今に見ていろ。


「何でもねえよ。それでどうすれば申請を送れるんだ?」


「それはじゃな、まずメニューを開いてすぐのシステムの欄にじゃな……」


 俺はバルから申請の仕方を教わった。

 そしてすぐさまバルに申請を送る。


「うむ、どうやらちゃんとできたようじゃの。では承諾っと」


 バルが空に浮いた承諾しますか? というメッセージのイエス欄を押すと、俺の頭の中でポーンと音が鳴り響き、『パーティー申請が承諾されました』というメッセージが目の前に浮かんだ。

 すると左上にある俺のHPを示す緑色のゲージの下に別の緑色のゲージが表示される。

 そのゲージの横には『バルムント』という文字が書かれているのでおそらくこれはバルのHPゲージなんだろう。


「どうじゃ? これが本当のパーティーというものじゃよ?」、


 バルは胸を張って両手を腰につけ、えっへんというような擬音が聞こえそうなほど威張った様子で俺の方を向いていた。

 フルフェイスヘルムのせいで顔は見れないが、その中の顔はさぞかし立派なドヤ顔なのだろうと思うと、そこはかとなくムカつく。


「調子に乗ってんじゃねえよ。無い胸張っても迫力に欠けんだよ無乳」


「私の胸はこれから育つんだ。馬鹿にするなぶっ殺すぞ」


「いきなり口調崩してキレんな! こえーよ!」


 まあとにかくそんなこんなでパーティー申請も無事完了して、俺らは真のパーティーになった。

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