表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
5番目の街
109/140

全力

「な……んで……」


 俺はバルを腕で抱えながら、ただただ呆然としていた。


 一体何が起こったのかわからない。


 なぜバルが動かないのかわからない。


 なぜバルのHPが0になっているのかわからない。



 なぜバルが死んでいるのかわからない。



 俺はこの理不尽な結果がなぜ起きたのかわからず、バルを起こそうと体を揺することしかできない。


「バル……バル……起きろよ……起きろって……」


 俺はバルに声をかけ続ける。


 しかしバルは返事をしてくれない。


 俺はバルを揺する。


 しかしバルは目を覚ましてくれない。



 どうして、どうしてバルがこんな事に。



「あ、ああ、あああああ……」


 なぜこんな事になったのかはわからない。


 ただ、一つだけ言える事は、バルは、もう、死んでいるという事だけだ。


「あれれー、なんでバルさんのほうが死んでるんですかねー」


「そんなの知るかよぉ。リュウはリュウで戦う気失くしちまってるしよぉ」


 外野が何かを言っている。


 だがそんなことはどうでもいい。


 バルが死んだ。そのことだけが今俺に考えられる事柄だ。


 その事柄だけが今俺の意識を蝕み、苛む事実だ。


「バル…………」


 俺は泣きながらバルの名を呼び続ける。

 そうしていないと意識が保てなくなりそうだったから。


 俺は震えながらバルを揺すり続ける。

 そうしていないと悲しみと怒りでどうにかなりそうだったから。



「バル……ばる……」



 バルが死んだ。




 バルが死んだ。








 バルが……死んだ。




 俺は……俺は守れなかった。


 俺はバルを守れなかった。





 バルは俺が守ると誓っていたのに。


 バルが死にそうだったら俺が命を張って助けると、そう俺自身に誓っていたはずなのに。




 これは一体誰のせいだ?


 俺はこの悲しみを、この怒りを、一体誰にぶつければいい?


 終? レア? キル?









 俺?










 ああ、そうか。


 俺が悪かったのか。



 こんなところにまでバルを連れてきた俺が悪かったのか。


 いつまでもレアとキルに本気を出せなかった俺が悪いのか。



 傍に置いていればバルを守れると思い込んでいた、馬鹿な俺が全て悪かったのか。



「あ…………」



 なんだ、俺か。


 俺がバルを死なせたのか。






 そうか





 俺がバルを殺したのか。








































































「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」







































 …………?








 あれ?


 ここ、どこだ?


 確かさっきまでシーナと話してたはずだったんだが……



 ってまてまて。

 違う違うそうじゃない。

 一体いつの話だよ。


 今はレアとキルとの戦闘中だった。

 ボケてんじゃねえよ俺。


 俺はレアとキルの方を見た。


「あぁ? なんだぁ? いきなり叫んだと思ったらこっち見始めたぞぉ?」


「あーもしかしてバルさんが死んだことでやっとリュウさんも本気を出してくれるのかもしれませんよー」


「へぇ、なんで死んだのかはわかんねえけどよぉ、リュウが本気で戦うってんならあたしは別に構わないぜぇ?」


 ……バルが死んだ?



 ……ああ、そうか。そうだった。

 バルは死んだんだった。

 俺のせいで。


 バル、ゴメンな。俺が不甲斐なかったばっかりに。



 すぐにクリスと合流して蘇生させてやるからな。



「今は休んでろ、バル。俺が後で絶対に起こしてやるからな」


 俺はバルにそれだけを伝えてアイテムボックス内にバルを収めた。


 そして俺は立ち上がった。


「わりいけど急用ができた。とっとと終わらせてもらうぞ」


「あぁ?」


 俺がキルたちに向けてそう言うと、キルは怪訝な顔つきで俺を見ていた。


「おいおいリュウぅ。あたしらを相手にしてとっとと終われるわけ――」


 キルは俺の言った事に反論をしようとしているようだ。


 でもそんなの聞く必要ないな。


「『オーバーフロー・トリプルプラス』!」


 俺はキルの言葉を無視してスキルを叫びながら発動させ、そして即座に弓を構えてレアに矢を放った。


 狙いは……レアの目だ。


「!!」


 俺が容赦のない攻撃をしたのによほど驚いたのか、弓を構えた時に見たレアは驚愕といった様相だった。


 けれどもレアは俺の攻撃にもキチンと反応し、俺の矢が届く前にその大盾でガードした。


 そしてその瞬間、俺は囁くような声でもう1つスキルを唱えた。



「……『オーバーロード』」



「くっ………!」


 俺の攻撃力7倍という矢の攻撃を盾で受けてレアは苦悶の声を上げた。


 たとえその盾が高性能でも俺の本気を受け止めきるには本人が脆弱すぎたようだ。

 レアは矢を受けて数メートル後ずさっていた。


 だがそれでも耐えたか。

 まあそれは別にいいか。

 今の攻撃はただの目くらましだからな。


 レアは今の攻撃を受けるので手一杯で俺を見る余裕がなかった。


 というより俺がレアの目を目掛けて矢を放ったせいで、あの大盾が邪魔になり、俺から目を離さざるをえなかったというのが正しいか。



 それは一瞬の出来事だった。


 しかし今の俺にはその一瞬でも十分以上の価値がある。


 俺は『オーバーロード』を発動した瞬間、キルの懐に入り込んでボディーブローをお見舞いした。


「ガッ!?」


 どうやらキルも俺が今ここで『オーバーロード』を使うとは思わなかったらしく、抵抗らしい抵抗も無くあっさりと俺の攻撃はキルに決まった。


 だがここで気を抜くわけにはいかない。

 今ここで最も脅威なのはレアの持つスキル『レンタルギフト』なのだから。


 だから俺はキルが壁に叩きつけられるよりも早くレアへと走り出した。


 この一瞬の隙こそが今俺に残された唯一のアドバンテージなのだから。


「な!?」


 そして俺はレアの元へとたどり着く。


 俺がすぐ近くに来た事によほど驚いたのか、レアは目を丸くしていた。


「『レンタルギフ――」


「おせーよ」


 レアは俺を見てすぐにスキルを発動させようとしていたようだ。

 なかなかいい判断力だ。


 けれども今回は俺の勝ちだ。

 俺の拳のほうがレアがスキルを発動させるより早い。



 そう、俺の拳がレアの顔面に入る方が早かった。



 レアは俺の拳を、攻撃力7倍の状態の俺の全力をモロに受けて背後にあった壁面まで吹き飛んだ。

 そしてレアはその壁を壊し、半ばめり込むような形となった。


 街の中だから死にはしないだろう。だから俺も気兼ねなくぶん殴れたわけだか。


 しかし一応確認はしておこう。

 俺は壁からレアを引き抜いて様子を見た。


 と、そこで10秒が経過したらしく、俺の周囲から黄金色のオーラが消えてなくなり始めた。

 

 でもまあ問題は無いか。ひとまずレアとキルは倒したわけだし。

 こうして見る限りではレアも気絶しているようだしな。


 コイツには本当に手を焼かされた。

 恨み言をいくら言っても言い足りない。


 ただ、今はレアの処遇を決めるよりもバルの蘇生の方が先だ。

 一応アイテムボックス内に入れているからもしかしたら『リザレクション』の制限時間、死んでから10分以内という制約を突破しても問題ないとは思うのだが、万が一にも10分を過ぎて蘇生できなかったという事態になったら目も当てられない。

 試す気にもならないから早くクリス達と合流しないと。


 俺はひとまずレアを完全に無力化させるべく、銃と大盾を剥ぎ取ってからアイテムボックスの中へと封印した。

 レアが着ている防具類は後でレアを取り出した時にでも済まそう。その時も気絶しているだろうしな。


 さてと、次はキルか。


 俺はキルが吹き飛んだ方向へ目を向けた。


「ゴホッ……ギャハハハ……どうやら……甘く見ていたのはあたしらだったみたいだなぁ……」


「な!」


 キルは……俺の攻撃を受けて尚、立ち上がっていた。


「嘘だろ……なんでてめえ立ち上がれるんだよ……」


「……こんな攻撃で……ゴホッ……あたしがやられるわけないだろうがぁ!!!!!」


 キルはふらつきながらも俺に怒鳴った。


「あたしは! この程度でやられるような玉じゃないなさぁ!!! ギャハハハハハ!!!!!」


「マジかよ……」


 そしてキルはいつも通りの狂笑を続け、俺を睨んできた。


 なんて奴だ。

 俺の攻撃をまともに受けて立ち上がる奴がいるなんて。


 今の攻撃はまごう事無き俺の全力だった。

 そしてその攻撃は間違いなくキルにダメージを与えた。さっきまで咳き込んで足もふらついていたのがその証拠だ。


 だが今のキルにそんな弱弱しい様子は一切無い。

 まだ幻痛に悩まされているはずなのにそんな様子を全く見せない。


 どんだけタフなんだよコイツは。本当にLUK全振りか?


「しっかしよぉ……さっきまではあたしらと戦うのに躊躇してただろうに、突然容赦がなくなりやがったなぁ、リュウぅ」


「あ? 何いってんだ。俺がてめえらに容赦なんてするかよ」


 俺は2番目の街の段階で既に覚悟を決めている。

 今更躊躇を抱くわけがないだろ。


「……そんで? まだ俺とやりあうつもりなのかよ?」


 そして俺は弓を構える。

 キルとの距離は十分に離れている以上弓矢を放てる俺の方が有利。

 また、さっきまで盾役をしていたレアがいないことでキルはもう俺の矢から逃れる術は無い。


 もはや俺の勝ちは揺るがない。

 俺はキルへ言外にそう伝えた。


「……いんやぁ? 今日のところはリュウの勝ちってことで良いぜぇ? あたしらの目的はあんたがこの先に進む資格があるかどうかを見極めるためだからなぁ」


「どういうことだよ?」


 さっきもコイツらは試練だのなんだのとわけのわからないことを言っていたが、俺はコイツらが何を考えているのかさっぱりわからない。


 だが、俺のそんな疑問にキルは答えず、ポケットから赤い玉を取り出した。


「それはあたしらの大将かレアにでも聞きなぁ。あたしはここらで退散するぜぇ。『テレポート』」


「!?」


 そして突如、キルは姿を消した。

 まるでどこかにワープでもしたかのように、元々そこには誰もいなかったかのように、キルは一瞬でその場から姿を消した。


「……なんだったんだ一体」


 俺は一人、そう呟いた。


 けれどこの場を引いてくれたのはありがたい。今はバルの蘇生を優先したかったからな。


 俺は来た道を引き返してクリス達のもとへと急いだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ