致命
「おらおら逃げてるばっかじゃあたしらを倒す事は出来ないぜぇ!」
「リュウさん!!!」
「ぐ……うう……」
俺はコイツらと戦えない。
それが悲しいくらいに理解できてしまい、俺は苦悶の声を洩らすしかできなかった。
だが敵であるキルの攻撃が止むこともなく、俺らはキルが投げる花火玉を避け続けることしかできないでいた。
「どうしたリュウ! そんなんであたしらの大将を斃すつもりかぁ!? そんなへっぴり腰であたしらを倒すつもりかぁ!?」
「ふざけてますねー。あなたが戦わずに誰が僕らを倒すって言うんですかねー。教えて欲しいですねー」
「チッ……」
もはやキルとレアは言いたい放題だった。
だがこんな状況にしているのは俺だ。
確かに俺が戦わずに誰がコイツらを倒すんだって話だ。
俺はキルの攻撃が止むのを見計らって再び矢を放つ。
目標は……キルの右腕だ。
「……何度同じ事を言わせれば気が済むんですかねー」
そしてその矢もまたレアによって止められる。
やっぱりあの盾を突破するには威力が足りない。
あの盾を突破するには……少なくとも『オーバーフロー・トリプルプラス』は必要になってくる。
だが……だが……
「くっ……」
俺は決心がつかない。
これを発動させたらもう後戻りはできない。
俺は今までの俺のありかたとは決別する必要がある。
だが……その踏ん切りがどうしてもつかない。
「あーもー、そろそろいい加減イライラしてきましたねー」
そんな俺の様子に業を煮やしたのか、レアがそんな事を言い出してきた。
「ボクらに期待させておいてこの体たらくはちょっと擁護のしようがありませんねー」
期待ってなんだよ。
てめえらが俺らに何を期待してたっていうんだよ。
俺はそんなことを考えている間にもレアは銃を構えて言葉を紡ぎ続ける。
「……残念ですが、もう死んでもらいますよー。『ピアッシングショット』」
「キャア!」
「!?」
レアが突如、俺らの知らないスキルを言いながら銃を撃つと、その銃弾に当たったわけでもないのに近くにいたバルが吹き飛ばされた。
「よそ見してんじゃねえよぉ! 『デッドオアアライブ』!」
そして今度はキルが何かのスキルを発動させ、キルの周囲から黄色のオーラが漂い始めた。
するとキルは俺に向かって走り寄ってきた。
「! 何をする気だ!」
俺はレアから離れたキルへ向けて矢を放つ。
その攻撃は案の定キルの右肩に命中した。
今のはキルの悪手だ。キルは攻撃担当で自衛能力に乏しいのだから盾を持つレアから離れるべきではないというのに。
キルの行動を見て俺はそう思っていた。
だが、それは大きな間違いだった。
むしろ、今キルの意識を刈り取る攻撃を出来なかった俺こそが最も最悪の行動をとってしまっていた。
キルは……俺の矢を受けて体が吹き飛びそうになるのを堪え、なおも前進し続けた。
「そんな攻撃効くかああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁ!!!!! ギャハハハハハハハハ!!!!!」
「な!?」
俺の攻撃を受けてもキルは走るのを止めない。
俺に近づいてくるのをキルは止めない。
キルは俺の攻撃を受けてさえ狂笑を止めない。
その結果に俺は恐怖心を抱いた。
なぜキルは俺の攻撃を受けてああも平然としていられる?
今使用したスキルの効果によるものか?
それとも素で耐えたとでもいうつもりか?
どちらにしても恐ろしい事に変わりは無い。
そして俺とキルの間には5メートル程度の距離しかない。
もはや花火玉を当てるには十分といっていい距離だ。
「『スタンショット』」
「え……」
だがそんな俺にダメ押しとでもいうかのように、キルの後方からレアが俺を狙撃してきた。
その攻撃はダメージを負うものではなかったのか、俺の肩に当たったはずなのになんら痛みを生じさせなかった。
しかし……何故か俺はその場から動けなくなった。
「ギャハハ! ナイスサポートだぜレアぁ!!!」
「あーはいはいー、さっさと終わらせちゃいましょー」
そんな俺を前にしてキルとレアは気楽に言葉を交わしていた。
「さぁて。これでゲームオーバーだぜぇ。リュウぅ」
キルは俺の目の前に花火玉を見せつけ、そんなことを言い放ってきた。
……ああ、やっちまった。
これは本当に詰みの状況か。
どういうわけか俺の体は一切動かない。
そして即死効果の花火玉を持ったキルが目の前にいる。
もはやどうしようもない。
……いや、どうしようもないとか、ふざけた事言ってんじゃねえって話か。
この状況はなるべくしてなったんだ。
全ては俺がコイツらと戦いたくないと、傷つけたくないと、そんな甘っちょろいことを考えていたからこそ起こってしまった事だ。
全部俺が悪い。
全部……俺の覚悟が足りなくて起きたんだ。
「りゅ、リュウさん!!!!!」
バルが後ろで叫んでいる。
ああ、バルにまた変な責任を持たせちまうかもしれねえな。
本当は俺が悪いのによ。
「すまん……バル」
俺は唯一動かせた口からそんなことを小さく言う事しかできなかった。
「謝るくらいなら最初からあたしらとちゃんと戦えばよかったのによぉ」
そんな俺の言葉はキルに拾われ、全くもって反論のしようのないことを呟いた。
全く、全くもって言い返せねえよ。
俺は決定的な過ちを犯した。
その結果俺は死ぬ。
その結果に俺は何の言い訳もでき――
「あんたの後でそこのガキもすぐ解放してやっからよ」
……ちょっとまて。
今、解放するとかいったか?
誰を? ガキを?
もしかして、コイツは、バルの事を言っているのか?
バルを、どうするだって? 解放? なんで?
解放ってアレだろ? つまり殺――
「あばよぉ、リュウぅ」
そしてその時は訪れる。
キルは、俺目掛けて花火玉を投げ、俺の目の前で虹色の火花が散った。
「…………」
「あぁ?」
しかし、俺は生きていた。
花火玉をぶつけられて、俺は、生きていた。
「おいおいぃ、まさかハズレかよぉ」
キルはそんな事を言いつつ再び花火玉を取り出そうとしてかポケットに手を入れた。
だがその間に俺の体は自由を取り戻し、キルから若干の距離を開ける事に成功した。
「はは、なんだ、こんなこともあるのか!」
俺は今起こった幸運に、珍しく神へ感謝して叫んだ。
「バル! 心配かけた! ここからはもう絶対迷ったりなんかしねえ!」
そうだ。
もう俺は二度とこんなミスは犯さねえ。
覚悟がなんだ。流儀がなんだ。俺がなんだ。そんなもの、ドブに捨てちまえ。
今、俺は目が覚めた。
今俺がやらなきゃいけない事はバルを守る事なんだ。
それ以外の事は全てどうでもいい。
今俺がやらなくちゃバルの身が危ないんだ。
俺はそんなことも失念していた。
キルとレアを倒さなくちゃバルの身が危ういのなら俺は自分の流儀を曲げる事もいとわない。
そして……キルとレアがバルを殺しにくるのなら、俺は2人を殺す気で戦う事ももう躊躇わない。
俺は、俺は、もう兄のようになれなくてもいい。
俺は、俺でなくなってもかまわない。
手段を選ぶな。目的を履き違えるな。過程を無視しろ。結果を追求しろ。
今、俺はバルを守る為だけに戦うんだ!!!!!
「バル! ここからが本当の戦いだ! 気合を入れなおし――」
俺はそう言いながらバルの方を振り返った。
「……え?」
俺が振り返ったその先には、バルが横たわっている姿が見えた。
「ば、バル!?」
そんなバルの様子を見て俺は今が戦いのときであるというのにも関わらず、バルの方へと駆け出した。
「バル! バル! どうしたんだ! しっかりしろ!」
俺は倒れているバルを抱き上げ、バルの顔を見た。
その顔には、もはや生気はなかった。
「な、なにがおこったんだ……? 一体……バルに何が……」
強く揺さぶっても一向に動かないバルを見て俺は混乱するしかなかった。
一体何が起きた?
バルの身に何が起きた?
なんでバルは動かないんだ?
これじゃあまるで……
「!!!!!」
俺は 視界の左上を見た。
バルのHPは――0になっていた。




