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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
5番目の街
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手詰まり

 レアとキルは強敵である。

 これは今までの経験から既にわかっている事実だ。


 キルの場合はまずLUK全振りの効果によって絶対命中のスキルがないと禄に攻撃が当てられない可能性が高い。

 これは俺にとってそこまで気にする事ではない。なんてったって俺の左手には必中のグローブが付いてるんだからな。


 だがキルの恐ろしさはそこではない。

 キルには街の外だろうが中だろうが関係なくプレイヤーのHPを1発で0にする脅威のアイテム『花火玉』がある。

 本来ならごく僅かな確率でしか起こらないというその効果もキルが使えば一撃必殺の攻撃手段へと変貌する。


 ゆえにキルとの戦闘では接近してはならない。

 キルが投げてくる花火玉を直接避けるにはそうする他ない。



 また、レアはある意味キル以上にやっかいな存在だ。

 レア自身の戦闘能力は低いのだろうが、それを補うかのように自作の装備品で身を固めている。

 今回は右手に銃を握り締めているが、左手には今まで見たことのない豪奢な大盾を持っている。あれもおそらくレアの自作だろう。


 そしてなによりレアにはスキル『レンタルギフト』がある。

 あれを使われたら最後、俺らに勝ち目はほぼ無くなる。

 なんてったってレアの『レンタルギフト』は俺の『オーバーロード』なみの性能のうえに5分という圧倒的な効果時間を備えているんだからな。『オーバーロード』が10秒なのを考えるとこれは絶望的な性能の差だ。

 まあ『レンタルギフト』を使用している間は他のパーティーメンバーがほぼ無力と化すというデメリットが存在するが、今はあまり関係ないだろう。


 レアへの対策は正直無い。

 スキルを発動させる事そのものを阻止する。そんなことが出来なければレアを止める術は無い。



 けれど……


「おい、『レンタルギフト』は使わねえのかよ、レア」


 俺はレアを見据えて疑問に思ったことを口に出した。

 レアなら初めからそれを使うのが最善であるはずなのに今は使う様子も見られない。


「うぷぷー。まあリュウさんが『オーバーロード』を使ったら使わせてもらいますよー。じゃないと勝負にすらなりませんからねー」


「そうかよ」


 つまりコイツは俺らを見下してるわけか。

 全力を出さなくても俺ら程度に負けることはないと、つまりはそう思ってるわけか。


 だったらいいさ。精々俺らを見下していろ。

 それがてめえの首を絞めることになっても知らねえからな。


「舐めていられんのも今のうちだ!」


 俺は弓を引き、レアの足に向けて矢を放った。


「無駄ですよー、そんな矢ではボクの盾は突破できませんよー」


 ……が、その矢はレアの持つ盾に防がれてしまった。


 俺の矢を受けてもその盾には一切の傷が付いていなかったところを見ると、相当硬い盾のようだ。


「というか今のはなんですかー、全然本気で射ってなかったじゃないですかー。舐めてるのは一体どっちなんですかー」


「ぐっ…………」


「それに今のは木の矢でしたよねー? ここまで来て今更木の矢ってどういうことですかー」


「…………」


 レアに痛いところを突かれた。

 実のところ俺は今の攻撃で本気を出していなかった。



 ……いや、出せなかった。

 俺は未だにレアに向けて矢を放つのに抵抗があった。

 今の矢の標準もレアの足に向けてのもので、もし当たってもレアを完全に無力化させるには至らなかっただろう。


「レアばっかり見てんじゃねえよロリコン! 次はこっちの番だぜぇ!!!」


 俺とレアの間に割り込む形でキルが立ちふさがり、俺らの足元に何かを投げてきた。


 あれは……花火玉じゃない?

 なんだあれは?

 

「リュウさん! 下がって!」


「お、おう」


 バルは念のために俺の前に出て、その何かとの距離をとるよう叫んでいた。


 そして足元に転がったものを見て俺は眉をしかめた。


「サイコロ?」


 キルが投げたものはサイコロだった。

 そのサイコロは6の目を出してその場に止まったのを俺は見た。


「な!?」


 と、その直後、そのサイコロは突然大爆発を起こした。


「くっ! うぅ……」


 バルはその爆発をなんとか盾で防ぎきって事なきを得たが、今の爆風をもろにくらえばひとたまりも無かっただろう。

 一応街の中であるはずだから肉体的にはダメージ0でも、あの爆風に全身を焼かれる際に生じる痛覚はあまり考えたくない。


「ギャハハ! そのサイコロは出た目が大きいほど爆発力が上がるっていうネタアイテムさぁ! まああたしは6の目しか出したことないんだけどなぁ!!!」


 キルはそう言いながらも俺らに向かってサイコロをばら撒き始めた。


「うぉ、『ウォールガード』!」


 バルはそれを見て前へ走り出し、サイコロが俺らのところへ届く前に『ウォールガード』でサイコロと俺らの間に壁を置いた。

 そして数秒後、サイコロの動きが止まって次々に大爆発を起こすのを見て俺は顔を引きつらせていた。


「あーもー、キルさん何やってるんですかー」


「あぁわりぃわりぃ。ちょっとはしゃぎすぎたぜぇ。ギャハハハハ!!!」


 爆発の連鎖が終わると、煙幕の向こう側からレアとキルの声が聞こえてきた。


 ……どうやらアイツらはこの爆風の中でも健在だったようだ。

 レアがキルの前に出て、大盾の後ろに隠れてサイコロの爆発をやり過ごしていたみたいだ。


 結果的にレアに守られる形になっていたキルは、それでも狂笑を止める事はなかった。


「てめえ馬鹿だろ! ここは地下だぞ! 生き埋めになりてえのか!」


 そんなキルに俺は怒鳴り散らした。


 ここは地下。もし爆発で天井が崩れてきたら戦闘も何も無くなる。

 俺らは全員仲良く街の地下で生き埋めだ。それで死ぬのかどうかわからねえが、積極的に試してみたいとは思わねえ。


「そんときはそんときさぁ! 運が無かったと諦めるんだなぁ!」


 だがキルは俺の警告を無視してサイコロを手に持つ。

 おそらくキルはバルの『ウォールガード』が切れた時点で再びサイコロを投げるつもりなんだろう。


「ふざけやがって!」


 俺はそんな様子のキルに向けて弓を構える。

 アイツは危険すぎる。早急になんとかしないと街の中だからとか言ってられなくなる。


 もうなりふり構っている場合じゃない。

 相手が女だからといって攻撃できないなんて言っていられる状況ではない。


 覚悟はついさっき済ませた。

 たとえそれが俺の流儀に反することであったとしても。


 俺は苦渋を味わう思いでキルへ矢を放つ。


 ……が、その矢はまたしてもレアによって弾かれてしまった。

 俺が矢を放つモーションに入ったのを見てレアは既に動き出していた。


 こうなるのは明らかだったか。クソッ。


「キルさんー。その攻撃方法はボクもダメだと思うんでやめてもらえませんかねー?」


 しかし、大盾の向こう側でレアはキルに苦言を呈していた。

 やはりレアも今の攻撃はマズイと思っていたか。


「んだよぉ。そういうさがる事言うんじゃねえよぉ」


「さがろうがあがろうがダメなものはダメですー。ボクらの目的は終さんのサポートなんですからそれを覆すような行為は慎むべきですよー」


「ケッ、わかったよぉ。それじゃあいつも通りコイツで勝負すっかぁ」


 どうやら2人の話し合いはレアの方に軍配が上がったらしく、キルは渋々といった様子ではあるがサイコロをポケットにしまいこんだ。

 だがその後キルが手に持ったのはあの脅威のバグアイテム、『花火玉』だった。


「この試練では特に何か制限されてたわけじゃねぇから別に殺しちまっても文句は言われねえよなぁ?」


「多分大丈夫だと思いますよー。死んだら死んだで終さんは残念がると思いますけどねー」


「一応候補はまだいるんだからわざわざコイツに固執する必要もねえってのになぁ」


 ……どうやらキルは俺らを殺す気でいるようだ。


 というか候補? なんだそれは?


「考え事なんてしている暇ないですよー。『スパイラルショット』」


 と、俺がキルの発言に疑問を抱いていると、レアが右手に持ったリボルバー式の拳銃をバルへ向けて発砲した。


 するとその銃弾はバルの盾に命中し……バルの盾にヒビを入れた。


「え……」


 そしてその攻撃を受けた衝撃でバルの『ウォールガード』も割れ、俺らとキルたちの間にあった壁がなくなってしまった。


「おらくらええええええぇぇ!!!!!」


「!」


 その結果に一瞬気を取られた俺に向かってキルが花火玉を投げてきた。


「リュウさん危ない!」


 が、その花火玉にバルは反応することができ、俺の前に立って花火玉の攻撃を代わりに受けた。


「バル!」


「う……だ、大丈夫です!」


 俺が声をかけるとバルは気丈に振る舞いキルたちの方を向いた。


 だが今の攻撃でおそらくバルのパッシブスキル『鉄壁』が発動したはずだ。

 つまり今の攻撃を俺同様バルも受けることはできなくなった。


「くっ!」


 これでこちらの余力はもはや無いことを認識しつつ、俺はキルに矢を向けた。


 キルさえなんとかなればこの場はどうとでもなる。街の中で唯一殺傷力のあるキルさえ倒せれば。

 そんな思いを矢に乗せて、俺は矢を放つ。


「だからそんな攻撃じゃボクのガードは崩せませんよー」


 しかしその攻撃もレアにあっさりと弾かれてしまった。


「『オーバーロード』を使わないでいる理由はわかりますが『オーバーフロー』さえも使わないでいるなんてボクらを舐めてるとしか言えませんねー」


「う……」


 レアのもっともな指摘に俺は呻くような声しか上げられない。


 矢を放つ覚悟だけではまだ足りない。


 ここが街の中だということで実際には殺せない事はわかっているが、それでも俺は全力を出すことに躊躇いを持ち続けてしまっている。

 だったら俺は、この2人を殺すつもりで攻撃をするくらいの覚悟が必要なんだろう。


 だが……それが俺にはできない。

 正直、俺がここまでフェミニストだったとは思わなかった。女と敵対するだけで俺の指は振るえて汗がダラダラ出始めている。

 特にレアはダメだ。レアと戦うだけで俺は気分が滅入る。


 そんな状態から無理矢理矢を放つ事はできても、それは精々足や肩といった部位で1発で意識を飛ばせるような所では無い。

 それがレアにもなんとなくわかっているのだろう。俺が狙える箇所を重点的に警戒している様子だった。


 結果、俺らは不利な状況に立たされていた。


「そんなんじゃあたしらを倒すことなんかできないぜぇ!!!」


「くそっ!」


 そしてキルは俺らに向けて花火玉を投げ続ける。

 俺らはそれに当たらないよう左右へ常に走る。


 今はこうしていることしか出来ない。

 バルには申し訳ないが、俺はどうしても本気が出せない。


 俺にとって、この状況はもはや手詰まりだった。

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