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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
5番目の街
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キルとレア

「ハア……ハア……くそっ……待てくそコラ!」


 俺らは走り続けるレアを追いかけ続けている。

 レアが逃げてからかれこれ5分以上は走り続けている。


 そのせいで俺やユウより身体能力で劣っているバルが遥か後方に置いてけぼりをくらっているが、今はレアを追いかけるのが重要だ。


「ハア……ハア……どこ行きやがった……?」


 だがそんな追跡も入り組んだ路地に入ったところで終了した。


 俺らはレアを見失ってしまっていた。


「リュウ……はあ……はあ……一体あの子は何者なんだい……?」


 AGIにそこまで大きく才能値を振っていないが俺の走りについてきたユウがレアの事を訊ねてきた。


「ハア……ハア……アイツは俺らの敵……『解放集会』の幹部でレアって奴だ……」


「う、うん……やっぱりそうなんだね……」


 一応俺はすでに一度ユウ達に知る限りの『解放集会』の情報を伝えてはいる。その中にはレアの情報も含まれる。


「……そうか……それならやっぱり彼女とも戦わなくっちゃなんだね……」


 だからユウもすぐにこの状況を理解してくれたようで、周囲に目を配り始めた。


「そういうこった……つか、出来ることなら生け捕りにしたいところなんだが」


 俺らは話ながらも周囲を虱潰しに捜索している。


 アイツらがここにいるってことはこの街の危機と同義だ。

 今まではアイツらの影がこの街で一切見られなかったから気を抜いていたが、レアがいた以上は『解放集会』が既にこの街に潜伏していると思った方がいい。


 だったらもう休みだなんだと言っている場合じゃない。俺らは迅速にアイツらの凶行を阻止しないとならない。


「……完全に見失っちゃったみたいだね」


「……そうだな」


 しかし俺らの捜索も無駄に終わり、レアを見つけ出す事は出来なかった。


「チッ……一旦バルと合流するか」


「だね」


 俺らは悔しい思いを抱きながらもひとまずそこでの捜索を打ち切って、バルのいる方へと戻ろうとして背後を振り返った。


 と、そこで見えたのは呼吸を荒くしながらも俺らに走って追いついてきたバルの姿があった。


「よおバル、てめえのほうから来たか。一旦戻ろうかってユウと話してたところだぞ」


「はぁ……はぁ……すみません、遅れてしまって」


「いや、俺らの方こそ置いてっちまって悪かった」


「ごめんね、バルちゃん」


 俺らは互いに軽く謝り、事態の確認を行うことにした。


「えと……それで……レア……さんの方は?」


「ああ……すまん、逃げられた」


「そ、そうですか……」


 俺はレアを見失ったことをバルに告げると、バルは顎に指を当て、そこで考え込むようなそぶりを見せ始めた。


「……どうしてレアさんはここまで逃げてきたんでしょうか?」


「なんでって、そりゃ俺らに偶然街で出くわしたから闇雲に逃げたんだろ?」


「……本当にそうでしょうか?」


「何?」


 バルが意味深な問いをしてくるので、俺はバルへ逆に問い返していた。


「バル、つまりてめえはレアが俺らの前に現れたのには意味があるって言いたいわけか?」


「……はい」


 バルはコクリと頷き、それに続いて口を開いた。


「レアさんは……その……私たちに見つかったくらいで逃げ出すような人じゃないと思うんです」


「どういうことだ?」


「えと……つまり、前に私たちの前に1人で現れたようにレアさんは私たちのことをそこまで脅威とは見なしていないんじゃないかと……思うんです」


「ああ……そういうことか」


 確かにバルの意見はもっともだ。


 レアはああ見えて強い。

 一応俺らも4番目の街にいた頃より強くなってはいるが、それで俺らがレアを制圧できるかどうかはわからない。


 アイツの持つ『レンタルギフト』は驚異的だ。

 レアが組んでいるであろうパーティーメンバーは全員才能値を全振りしているから、アイツは5分間も擬似『オーバーロード』が可能なんだろう。


 少女であるから攻撃できないとかそんな事を抜きにしても、そんなレアを相手にして俺らが無事でいられるのか未だに確証が持てない。


 そしてそんなレアは俺らから積極的に逃げなくても良かったはずなんだ。


「……だがそうするとどうしてレアは俺らから逃げ出したんだ?」


 俺はバルとユウに向けてそんな疑問をぶつけた。


 レアは何故俺らから逃げたのか。レアは何故こんなところに逃げてきたのか。


「……まさか」


「! 何かわかったのか! ユウ!」


 考え込んだ状態からハッと顔を上げたユウに向かって俺とバルの視線が突き刺さる。


 そして俺らに向かってユウがゆっくりと首を縦に振り、恐る恐るといった様子で声を出した。


「この近くには教会跡地……魔王が封印されている区画がある」


「!」


 ……そういえばそうだった。

 俺は無我夢中でこの辺を走っていたから気づかなかったが、確かにここから走って5分としないところに教会跡地があるはずだ。


「……念のために行ってみるか」


「……そうだね」


 俺らは最悪の事態を考慮し、一旦教会跡地へと向かう事にした。






「……マジかよおい」


 俺らが教会跡地に着いた時、そこで警備をしていた連中は全て倒されて地に伏していた。


「おい! てめえら大丈夫かよ!」


「う……」


 俺は近くで倒れていた戦士風の装備をしたプレイヤーを抱き起こして軽く頬を叩いた。


 するとその男にはまだ意識があるようで、うっすらと目を開いた。


「言え! ここで一体何があった!」


 まだ意識のある男に向かって俺は問い詰めた。


 今は時間が惜しい。

 まだ幻痛が激しい様子だが、ここは無理にでも情報を吐いてもらう。


「ぐっ……い、いきなりここへ黒尽くめの集団が現れて……地下へと入っていった……」


「な!」


 やっぱりか。


 黒尽くめの集団というのはおそらく『解放集会』の事だろう。

 アイツらはとうとうこの街の魔王を解き放ちにきたってことか。


「……そいつらを追って……番匠グループも入っていった……早く……俺達も加勢にいかねえと……」


「……番匠達か」


 今日の警備担当は番匠がリーダーとして『ウォーリアーズ』、『魔女会』、それに『不離威打無』のメンバーが10名ずつ、合計30人ものプレイヤーがここで警備をする手筈になっていた。


 その30人は魔王との戦いを生き抜いた精鋭揃いだったはずだ。

 だが本気になった『解放集会』の前ではそんなやつらでも少しの足止めすらできなかったというわけか。



 ……クソッ。だったらどうすりゃいいってんだよ。

 俺ら100人余りが総出で24時間守りを固めるしかアイツらを止める手がなかったとでも言うつもりか。


 いや、今はそんなこと考えてる場合じゃない。


「早く……ギルドへ連絡を……」


「!」


 俺はその時気づいた。

 この男はギルドへ定時連絡を入れている『不離威打無』メンバーの男だという事を。


 つまり、おそらく今ギルドの方へは誰も救援を出せていない状況である可能性が高い。


 俺はその男を建物の壁にもたれさせてユウの方を向いた。


「ユウ! 俺とバルは先にここの地下に入るからてめえはギルド会館に戻ってそこにいるプレイヤー全員をここに連れて来い!」


「え、で、でも」


 俺の言葉を聞いたユウは目に見えてうろたえていた。

 けれどもこんなところでまごまごしている暇なんて無い。


「でもとか言ってんじゃねえよ! 今は時間が惜しい! 万が一の事になる前にこの下にいる連中を倒さないといけねえんだ! だがそのためには戦力がいる! それを『攻略組』のギルドマスターであるてめえがやらないで誰がやるんだよ!」


「う……わ、わかった! すぐ戻ってくるからね!」


「おう!」


 この中でならユウがギルド会館まで走るのが速い。

 間に合うかどうかわからないが、とにかく誰かが仲間を連れてこなくちゃ『解放集会』の集団と対抗できない。


 俺の言う事に納得したのか、ユウはそう言ってギルド会館へ向けて走っていった。


 と、そこで一旦足を止めてユウが俺らに向かって叫んだ。


「絶対無理はしないでよ! リュウもバルちゃんも生きて元の世界に帰るんだからね!」


 ……そんなことか。

 ユウは俺らをこの場に残していくことを不安に思っているんだろう。


 俺はニヒルな笑みを意識して作りつつ、そんなユウに向かって言い返す。


「当たり前だ! 俺らは何があっても絶対生き延びる! だからさっさと行け! ユウ!」


「ああ!」


 俺とユウはそんなやり取りをし、それぞれ別行動をとる事になった。



 そして俺はバルの方を向いた。


「……さて、勢いでてめえまで巻き込んじまったが、付いてきてくれるか? バル」


 今更であるがバルの意思を確認するため、俺はバルに聞いてみた。


 まあバルがどんな返事をするかなんて今までのコイツを見てればわかるんだけどよ。


「勿論ついていきます! 私がリュウさんを守るんですから!」


 バルは今までに無いくらいしっかりとした口調で、俺にイエスの回答をしてきた。


 ……そういえば始まりの街でも俺とバルは2人で教会跡地に足を踏み入れたんだよな。あの時はレイナを助けるためにだったが。


 そしてあの時もバルは俺を守ると自信たっぷりに答えていたな。兜がある状態でだったが。

 そう考えると今兜をしていないバルは始まりの街からここまでの旅路を経てかなりの成長を見せているんじゃないだろうか。

 何がバルをここまで成長させたのか俺にはよくわからないが、これはバルにとっては良い事なんだろう。


「そうか。それじゃあ盾役は任せたぜ、バル」


「はい!」


 俺とバルはそうしてアイテムボックスから装備一式を取り出して装着した跡、教会跡地にある地下通路を駆け下り始めた。



 ……だが俺は1つの疑問を抱いていた。

 レアが現れた事と、ここの教会跡地を襲撃された事に繋がりが見えていないという疑問を。



 けれどそんな疑問もあっさり解消された。


 俺とバルが駆け下りていき、その先にあった通路を走りぬいたところにある大部屋で、レアとキルが俺らの目の前に立ちふさがったからだ。


「あははー、お久しぶりですねーリュウさんにバルさんー」


「ギャハハ! 本当よくもまあこんなところにノコノコやってくるよなぁ? ぇえ?」


「!」


 ……なるほどな。

 俺とバルはまんまとレアに釣られてここまできたということか。


「……何のために俺らをここへ呼んだんだよ」


 俺はレアを睨みつけ、事の真意を問いただした。


「うぷぷー。それはですねーリュウさんに試練を与えようかと思った次第なのですよー」


「試練……?」


 なんだよそれは。

 まるで今まで俺は試されてたようじゃねえか。




 ……いや、試されてたか。

 俺らはいつだって終達に魔王を介して試されてきた。


 それがどういった理由なのかはわからない。

 コイツらに勝てばその辺の理由もわかるのだろうか。


 ……わかんねえだろうな。

 多分コイツらを倒しても教えてくんねえだろうし。


「この先では終さんたちが5番目の魔王の封印を解除していますー。なのでリュウさんはそれをどうにかして食い止める、あるいは解き放たれた5番目の魔王を倒してその後に待ち受ける終さんを倒すことが求められますよー」


 レアははまるでゲームをしているかのような気軽さで、そんな事を俺に言ってきた。


「なるほどな……つまりこの先に終もいるってことだなあ!!!!!」


 そして俺は大声を出してレアとキルを威嚇した。


 てめえらは邪魔だ。そこをどけという意志を込めて。


「おっとぉ、ここから先へは遠さねぇぜぇ? 通りたければあたしらを倒してからにしなぁ!!!」


「そういうことですー。これも試練の一環ですからねー」


 だが俺のそんな心の声も届かず、キルとレアは武器を取り出して戦闘態勢に入る。


「くそっ……しょうがねえ、戦うぞ! バル!」


「はい!」


 こうして俺とバルはキルとレアとの戦闘を開始した。

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