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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
5番目の街
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休暇の終わり

 俺らはメグと雑談を交わして別れた後、街の中を再び歩き回っていた。


「さて、次はどこ行こうか?」


 そして俺らの腹が大分きつくなってきて来た頃合いで、ユウは俺らの方へ振り返って次の目的地を訪ねてきた。


「そうだなあ……つかバルも自分が寄ってみたい所があれば遠慮なく言えよ?」


「えと……はい」


 ユウの相談に悩んだ声を上げつつも、俺はバルに声をかけてみた。


 しかしバルは俺の言葉にどうも反応が悪い様子だった。

 やっぱ俺らに気を使っているからだろうか。


「まあ、なんだ。無理に俺らに合わせる事もねえぞ」


「そ、そう言われましても……私はリュウさんに付いてきたかっただけですし……」


「とはいってもなあ」


 やっぱバルは俺らに気を使ってなかなか主張しようとしない。


 どうしたもんかな。

 俺はバルも一緒にいるならそれなりに楽しんでもらいたいのに。


「……ふふ、そうやっていると昔を思い出すよ」


「あ? 昔?」


 と、そんな俺らを見てユウが微笑みながらそんな事を言ってきた。


「うん。最近になってよく思い出すんだよ。昔はよく龍児の後ろに陽菜がついてきてさ、それでそのまま遊んでいたじゃない?」


「ああ……そんなこともあったな」


 あの時は俺の後ろにずっと陽菜がいて、どこにでもついてきたがる奴だったな。


「その頃はシンも一緒でさ、よく4人で遊んでたよね」


「そうだったか?」


 シンか、随分懐かしい名前を聞いたな。つかそれってすげえ前の事じゃねえか。

 7年以上は昔の事だぞ。もうアイツがどんな顔だったかも覚えてねえよ。


「そうだよ。忘れちゃったの?」


「あんま覚えてねえな」


「その分だとジンさんのことも覚えてない?」


「……俺は昔の事とか思い出したりするのが得意じゃねえからよ」


「……そうだったね。ごめん」


 俺があまり覚えてないというとユウは何故か謝りだした。


「なんでユウが謝ってんだよ。謝るのはむしろ昔の事をあんま覚えてない俺の方だろ?」


「あはは……確かにそうかもね。それに実のところ僕も殆ど覚えてないからお互い様さ」


「? そうかよ」


 どうにも歯切れが悪い言い方だな。

 まあいいか。とりあえず今はバルについてだ。


 と、思ってバルの方を向くと、バルは俺らを見て柔らかく微笑んでいた。


「なんだよバル。何かおかしいもんでもあったか?」


「い、いえ、そういうわけではないです」


「じゃあなんだよ?」


「……リュウさんは本当にユウさんのことを恨んでいないんだなって思いまして」


「あ? またその話かよ」


 そろそろその話は俺もうんざりしている。

 だがどうも今のバルは今までこの話をしてきた時の様子とは違うように感じられる。


「別に蒸し返そうというわけではありません。今までのお2人を見ていたら、なんだか意固地になっている私が悪いように思えてきちゃいましたから」


「そ、そうか?」


「はい」


 バルはニッコリ笑ってそう言うと、次にユウへと声をかけた。


「ユウさん。ユウさんはリュウさんを見捨てたわけでは無いんですよね?」


「! ……そうか、バルちゃんは僕がリュウを見捨てたと、そう思ってリュウを僕から守ろうとしていたんだね」


 流石はユウと言うべきか、バルの少ない言動から的確にバルの言葉の意味を悟ったようで、ばつが悪そうな顔をし始めた。


「そうさ。僕はリュウを見捨てたよ。本当ならこうしてリュウと気軽に話していい人間じゃないんだ」


 どうやらユウも俺を見捨てたという認識を持っていたようだ。

 もう水に流したことだから俺は気にしねえけどよ。


「でもリュウさんを置いて攻略を進めにいったのはそれが最良だからと信じていたからなんですよね?」


「それは……そうだけど」


「なら私からはこれ以上何も言いません」


「で、でも……」


「それにユウさんはこうして最前線のトップとして戦い抜いてきたんです。有言実行してたんじゃないですか」


 ……確かにそうだ。

 ユウは俺に言った事を忠実に守っていた。


 ユウは最前線で魔王と戦い続け、一秒でも早く帰還できるよう努力していた。じゃないと今のユウの地位はないはずだからな。


「へっ。俺は俺で苦労したけどよ、ユウもユウで苦労したんだろ? ならユウが卑屈になる必要なんてねえんだよ」


「リュウ……」


「そうだろ? バル」


「そうです」


 俺はバルが言いたそうにしていたことを先回りして言うと、どうやらそれは当たりだったらしい。

 だがそれに加えるようにバルは更に言葉を続けた。


「それに今までのユウさんを見ていて優しい人だということはよくわかりました。そしてリュウさんを置いていったのもユウさんにとって苦渋の選択だっただろうということもなんとなくですがわかりました。だから私もユウさんを許すことにします」


「バルちゃん……」


「当然だが俺も気にしてないからな。だからこれでもうてめえはこの事で卑屈になる必要はねえからな?」


「リュウ……うん……うん!」


 ユウは俺らの言葉を聞くと、右手で目元を拭った後力強く頷いてきた。


 こうして俺らが抱えていた問題は完全になくなった。


 迷宮内でもうこの話は片付いたと思っていたが、バルはまだそのことについて考えていた。


 だがそれもユウの人柄を見て考えを改めたようだ。

 これはユウの日ごろの行いが良かったからか、あるいはバルが成長したからか、どっちなのかはわからない。


 しかし今これで俺らは真に何の気兼ねなく接することができるようになったのかもしれない。

 俺は今までバルを気にしながらユウと話していたような気がするが、それももうなくなることだろう。


 そしてバルもユウを許すと言った以上、ユウともちゃんと会話ができるようになるのだろう。

 ……それはそれで微妙に嫌だな。






「さてと、俺らの話はこの辺にしてだ、やっぱ俺らの食道楽につきあわせっぱなしってのも気がひけるからよ、次の店はバルが決めてくれよ」


 俺は話を切り上げ、バルに向かってそう言った。


 このまま今日を終わらせるんじゃバルもつまらないだろうしな。バルが気になった店をいくつか回っていきたいと思っての発言だ。


「えっと……その……」


「なんだ? 歩き回ってる最中とかどこも行く気にならなかったか?」


「いえ、そういうことは……」


 バルは俺の問いかけに言葉尻を濁しつつもそう答えた。


「なんだ、やっぱあるんじゃねえか。それじゃあそこ行こうぜ」


「わ、私はリュウさんが行きたい場所に行きたいです」


 が、バルは俺にそんなことを言ってきた。


「俺が行きたい場所? おいおい、そんなんじゃあバルが行きたい場所にはなんねえしつまんねえだろ」


「いえ、なります! 私はリュウさんと一緒にお出かけできるだけで楽しいです!」


「そ、そうかよ。まあそこまでバルが言うなら俺の好きなところに行くけどよ……」


 なんか今のバルの発言は彼氏彼女が代わり映えしない場所でデートでもしている時に使われそうな事でちょいもにょるな。

 まあ今は俺とバルだけでいるわけじゃなくユウが同伴してるけどよ。


「……ユウもそれでいいか?」


 だから俺はユウにも問いかける。

 次の店は俺の基準で決めて良いかと。


「ふふ、僕も勿論オッケーだよ」


 何が勿論なんだよ。別に良いけどよ。


「……それじゃあいくぞ。ただし俺はわりと適当に次に行く店を決めるからな。文句は言うなよ」


「わ、わかりました」


「うん、いいよそれで」


「……はぁ」


 俺は2人の先頭に立ってため息をつきながら再び雑踏の中へ踏み込んだ。


 つっても俺にどこか行きたい所があるわけでもない。しばらくはぶらつくか。




「…………ん?」


 そして俺は見てしまった。


 見つけてしまった。



 人ごみに紛れて俺らを見る者を。金色のツインテールをなびかせたその少女を。



 レアが俺らを遠くから見ているのを俺は見つけた。



「アイツ……!」


 そのレアの姿を視認した瞬間、俺はレアに向かって走り出した。


「ちょ、いきなりどうしたのさ、リュウ」


 そしてそんな俺に追従する速度で並走しながらユウが訊ねてきた。

 また、俺らの後ろからバルも遅れながらではあるがなんとかついてきている。


「俺らの敵が現れた! アイツらは、『解放集会』は街の中にいる!」


 そんな2人に聞こえるように俺は走りながらも大きな声を出した。


「……なるほど。もう休息している暇はないってことだね?」


「そういうことだ」


「……わかった。僕も気を引き締めなおすよ」


 俺の言葉を聞きユウは腰に常時装備しているらしき剣に手をかけて前を向いた。


 こうして俺らの短い休暇は終わりを告げた。

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