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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
5番目の街
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攻略会議

 俺らが迷宮に入ってからおよそ4日が経過した。ユウ達からすれば5日か。まあそれはどうでもいい。

 とにかく、本来ならどれだけ急いでも1週間はかかるとされていた迷宮探索だが、俺らは余裕を持たせた状態のまま4、5日という期間で地上へと帰還することができた。


 そして俺らは街へと戻り、早速ユウに迷宮内で話した事についての準備を行うことになった。


「それじゃあリュウ、僕達は一度ギルド会館へ戻るね。まあギルドマスターが全員いればすぐ話し合いの場が設けられると思うから」


「おう。頼んだぜ」


 俺とユウはそこで拳をぶつけ合い、一時分かれて行動する事にした。


 俺らは街の中で何か変化は無いかの情報収集。ユウ達はギルドマスターらを集めるという役割分担だ。

 とは言ってもユウ側はばらけて行動するみたいだけどな。


 ユウ、トト、マキ、みみはギルド会館へ行き、静、ドラは物資の補給をしに街の中を回るのだそうだ。


「それじゃあユウ、私たちは補給が終わった後好きに行動させてもらうわね」


「話し合いについても俺たちはユウが言っていた方針に異存は無いからね」


「うん、じゃあ後は任せて」


 と、その分かれるタイミングで静とドラがユウにそんな話をしていた。


「なんだ? 静とドラは何か用事でもあるのか?」


 俺は2人が物資補給以外にもやることがあるのかと思い、気楽にそう訊ねてみた。


「そうよ。いわゆる大人の時間ね」


「……あはは」


「……そういうことかよ」


 聞かなきゃよかった。

 くそっ、充実してんなこの2人。


 そうして静とドラは人ごみの中へと姿を消していった。


「街にいる間は2人っきりにさせてあげようっていうパーティー内での配慮だよ」


「そういうもんか」


 まあ彼氏彼女といいつつ四六時中他のパーティーメンバーがいたんじゃ乳繰り合う時間も禄に取れないだろうしな。

 こういう安全な街の中にいる間にメンバーと別れて色々なものを発散しているんだろう。


「まあなんでもいいさ。俺らもそろそろいくぜ」


「ああ、うん。またね」


 そうして俺らはバラけて行動を開始した。


「……それで私たちはどうすんの?」


 ユウ達の姿が完全に見えなくなったところでふとシーナが俺に小声で話しかけてきた。


「どうって普通に情報集めだろ。組み分けはこの前と同じでいくぞ」


「……ふうん。わかったわよ」


 俺の言葉を聞いた時、シーナをどこか寂しそうな様子を滲ませていた。


 ……コイツとは迷宮の一件以来あまり話していない。

 というかどんな話をすりゃ良いってんだ。


 結果としてはシーナがデレましたの一言で済むのかもしれないが、それで今後どう俺らの関係が変わるのかはわからない。

 それにシーナ自身、あれ以来俺と直接顔をあわせずらいようで、俺がシーナのほうを向くと顔を赤くしながらそっぽを向かれてしまう。それを見るとやっぱあのときのは戯言としてお互い水に流した方がいいんじゃないかというような気がしないでもない。

 まあその辺はわからん。とりあえず時間が経てばある程度俺とシーナの間に流れる微妙な空気も薄まるだろう。それまでは大人しくしていようと俺は心の中で決めた。






 街の様子は俺らが迷宮に行ったときと同様特に問題はなかった。


 教会跡地にも一応寄ってみたが、そこには目立たない程度に街の騎士団連中が監視を行っており、俺らの事も話は通っていたようでその場の状況を簡単にだが教えてくれた。

 その情報でもやはり異常無しとのことで、怪しい人影も見当たらないとか。『解放集会』は一体何してんだ?


 まあ街が平和ならそれでいいんだけどよ。


「それでは第14回攻略会議を始める」


 そして今、俺はユウと共にギルド会館の会議室にて集まっている。


「仕事が速くて助かるぜ」


 俺はユウを見ながら独り言を呟いた。


 ここにいる人間は俺とユウだけではない。

 この街までユウ達と共に魔王と戦ってきた歴戦の有志達、『不離威打無』のギルドマスターゴウ、『ウォーリアーズ』のギルドマスター番匠(ばんじょう)、『魔女会』のギルドマスターメグという3ギルドの長が揃っていた。


 今この場には最前線で戦ってきた4人のトッププレイヤーと俺の5人が椅子に座っていた。


「なんだい? ユウが直接アタシと会いたいって聞いたからここに来たっていうのに、余計な奴らも紛れてるねえ」


「ガハハ! まあそう言うなよメグ。ユウの坊主が招集をかけるって事はこうなるのもわかってたことだろ?」


「テメエら……うるせえぞ……ユウが話できねえじゃねえか……」


 俺の目の前では黒い魔女服姿の高身長な女性、メグと、上はハッピで下はニッカズボンのゴツイ男、番匠、それに俺がギルド会館に行った時に会う事が出来たヤンキー、轟が次々に言葉を交わしていた。


「それじゃあ早速本題に入ろうか」


 だがユウのその一声で3人は口を噤みユウの話を聞く態勢になった。


 なんだかんだでコイツらは攻略を優先する奴らなんだな。


「皆を集めたのは他でもない。ここにいるプレイヤー及びギルドに所属しているプレイヤー全員の力を借りたくてこうして呼ばせてもらった」


「それは知ってる。アンタがアタシらを全員呼ぶくらいなんだ。人手が必要なんだろう?」


「うん、そのとおり。今回は人数がいる」


「迷宮では数が多いと逆に動きが取れなくなるって話じゃなかったか?」


「いや、迷宮の方はもう攻略したよ。魔王も討伐したし」


「ほお……予定より大分早かったな……」


「まあね」


 ユウは3人のギルドマスター相手に物怖じせず話を続ける。


 3人ともユウより年上で気が強そうなのに良くやれてるようじゃねえか。

 コイツもこの世界に着てから成長してんだな。


「今回は迷宮の魔王ではなくこの街の魔王についての話だ」


「この街の魔王?」


 ユウは3人に街に潜む魔王について語った。

 そして俺が話の途中で補足を入れ、これまで街で出てきた魔王の脅威度も含めて出来る限りの情報を共有する。


 その話を聞くギルドマスター3人は真剣そのものだった。


「……へえ。アタシらが最速で攻略を進めていた後ろではそんなことがあったんだねえ」


「その反応は既に俺がもうしたぜ……」


「あらま、珍しくアンタと気が合ったってことかね」


「ガハハ! まあたまには良いじゃねえか」


 メグと轟が互いを見てため息をしていると、それを見ていた番匠が快活な声を出して笑っていた。


 だがその笑いもあっという間になくなり、表情に真面目さを取り戻して番匠は声を出す。


「……それでその話は本当の事なんだな?」


「ああ……全部本当の事だ。街の中に魔王が現れた事も、魔王が現れてプレイヤーや街の住民が大勢死んだこともな」


「そうか……どおりで後続プレイヤーが来ねえはずだよ」


 番匠は頭をガシガシ掻きながらぼやいていた。


「それじゃあやっぱ昨日の奴が言ってたことも全部本当の事だったか……」


「昨日の奴?」


「ああ、昨日フィリップって奴が俺達に会いにきてな、俺達に今話したことと似たような事を話していきやがったんだよ。街を警護する役目の奴だったから一応話は聞いてな、そんで念のため既に俺達の方でも教会跡地へ人員を出している」


「フィリップか……」


 アイツもできるだけプレイヤー連中とコンタクトを取ろうとしてたって事だな。

 俺がアイツを焚きつけたのにもそれなりの意味はあったか。


「ユウ坊の話が終わったら議題に出そうと思ってたことなんだがよ、同じことだったか」


「そうだな」


 結果的にユウが話を通す前に番匠率いる『ウォーリアーズ』は事態の重さを受け止めて既に行動を開始していたという事か。


 まあ街存亡の危機的状況だからな。利がなくとも動こうと思う奴は動くもんか。


「ついでにお前達の事も聞いてるぜ。『冒険者』の『ドラゴンロード』」


「あ? 『冒険者』?」


 『ドラゴンロード』は俺の別称だからわかるが『冒険者』ってなんだよ。


「お前達のパーティーは『冒険者』って名乗ってんだろ? 違ったか?」


「あ、そっか」


 そういえば俺はフィリップにそんな事を言っていたな。

 プレイヤーという謎の単語を使うのを避けて呼んだ名だったが、どうやら話が摩り替わって俺らのパーティー名として認識されちまってるのか。


「その名称は俺らプレイヤーを表すために咄嗟に考えた名前だ。別に俺らはパーティーとして名乗ってるわけじゃねえよ」


「そうなのか」


「そうだ。プレイヤーなんて言ってもこの世界に元々いた人間には伝わんねえだろ?」


「まあ、確かにそうだな」


 番匠は俺の話を聞いて深く頷いていた。


「そういやあ俺達も最初の頃は街の住民に俺達の事を説明しようとして失敗してたっけな」


「それってただ単にアンタが怖がられてたがけじゃないのかい?」


「う、うるせえ! 別に俺は怖がられてなんてないぞ! 怖がられるのは轟達のほうだろ!」


「オレタチは……周りがどう思うかなんて関係ねえな……オレタチはオレタチの道を突き進むだけさ……」


「……みんな、話が大分逸れてるよ」


 番匠、メグ、轟が本題とかけ離れた話をし始めたところでユウが割って入り、方向修正を施していた。


 今までの会議でもコイツらはこんな感じで進めてきてたんだろうな。

 仕切る役目であるユウの苦労が窺えるぜ。まあ今の流れは俺のせいではあるけどよ。


「……それで、『ウォーリアーズ』は教会跡地の警備に人員を出すことには賛成という事でいいのかな?」


「おういいぜ。つっても四六時中俺達だけでやれるわけじゃねえけどよ」


 ユウは番匠に確認を取り、その問いに番匠はそう答えていた。


「人手が足りないってんならオレタチも加勢するぜ……ユウもこの話に乗るつもりなんだろ……?」


「うん、勿論だよ」


「ならオレタチ『不離威打無』も乗らせてもらうぜ……」


 そしてその番匠の応えに乗るように轟も賛成の意を示した。


 元々コイツはユウの同意があれば動くと言っていたようなものだったからな。

 こうなるのも当然か。


「それで? あとはメグんとこだけになったがどうするよ?」


「ここでアタシらだけ降りるなんてこと言えるわけないだろう。いいよ。アタシらもその話に乗るさ」


「ガハハ! そうこなくっちゃいけねえよな!」


「ちょ! そんな馬鹿力で叩くんじゃないよ!」


 番匠はガハハと笑いながらメグの背中をバシバシ叩いていた。

 それに対してメグは抗議の声を上げている。


 まあメグは明らかに後衛で番匠は前衛の才能値だろうからな。

 街の中だから一応問題ないとはいえあれは大分痛いだろう。


「ふう……それじゃあ全会一致で5番目の魔王復活を阻止するという方向でいいね?」


「ああ……問題ねえだろ……」


「おお、それでいいと思うぜ」


「いつつ……アタシも大丈夫だと思うよ。事情を話せばメンバーもきちんと動いてくれるだろうしね」


 ユウの最終確認に轟、番匠、メグは次々合意していく。


「よし、では今後、4ギルド混合で教会跡地の警備をする。リュウもそれでいいね?」


「ん? おう、いいぜ。俺らも協力を惜しまねえ」


 俺はユウの問いかけに答え、俺らも助力することを伝えた。


「わかった。これでおよそ100程のプレイヤーで警備をやりくりできるようになるね」


「それなら数十人規模で警備が出来るし無理の無いローテーションが組めそうだな」


「そうだね。それじゃあ早速警備について細かいところを決めていこうか」


 そして俺らはその後、教会跡地警備の持ち回りを決めていった。


 本当はこの街の騎士団連中も交えて話が出来ればもっと細かいことも決められたんだけどな。

 まあそれは後で話を通そう。



 こうして俺らは『解放集会』に対抗すべく『攻略組』、『不離威打無』、『ウォーリアーズ』、『魔女会』と手を組むこととなった。

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