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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
一章 始まりの街
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プロローグ

「龍にぃ宛てに手紙着てるよー」


「手紙?」


 うだるような暑さの夏の朝、朝メシの食パンにイチゴジャムをふんだんに盛っていた俺に、妹の陽菜はそんなことを言ってきた。

 俺はその手紙を受け取ろうと手を伸ばしたが、陽菜は俺の目の前でそのまま手紙を読み始めていた。


「おい、勝手に読むなよ」


「いいじゃん別に減るもんじゃないんだし。……ふむふむ。『フリーダム・オンライン』……先行版プレイヤーに当選……へぇ~、龍にぃってゲームとか興味あったんだね」


「ちげえよ、それは友也に頼まれてたやつだ、俺のじゃねえ」


「あーなるほど、友ちゃんゲームとか好きだもんね」


「そういうこった」


 そうだ。

 これは俺のダチの倉橋友也に頼まれて、ゲームの先行版をプレイするための抽選に名前を貸して応募していたやつだ。


 ゲームのジャンルはVRMMO。ここ数年VR(ヴァーチャルリアリティ)技術の発展は目覚しく、ゲーム業界でも取り入れている企業が多くなってきていた。

 その中でもネットゲームのVR化への期待は十数年前流行ったラノベやら漫画やらの影響で相当根強いらしく、友也はその歴史について俺に熱く語っていた。まあ大体の内容は聞き流していたが。

 そうして出来上がった数あるVRMMOの中でもこの『フリーダム・オンライン』はとてつもなく大きな期待をされているんだとか。


 当選枠は1万人となっていて、俺は随分でかい規模のゲームだなと思いつつ本当にそんな集まんのかよと疑ってはいたのだが、応募した後に友也から聞いた話じゃ途中経過で応募人数は10万を超えたらしい。

 つまりはそんだけ期待されてるゲームだとかなんとか友也は更に熱く語り始めていたがその話もスルーした。


 まあ俺にはよくわかんねえけど倍率10倍以上なんだから友也の言うように凄いんだろうな。


「ま、当たった事を友也に教えてメシでもたかってみっかな」


「じゃあ今日の龍にぃのお弁当は無しでいいのかな?」


「それはそれ、これはこれだ。育ち盛りにゃその程度どうとでもなるんだよ。というわけで頼む」


「はいはい」


 俺は朝メシをサッとたいらげて陽菜から弁当を貰った。


「じゃあ先いくわ。戸締りには気をつけろよ」


「はーい、いってらっしゃい龍にぃ」


「おう」


 ドアを開けて外に出ると、朝っぱらだというのにまぶしい太陽がこれでもかというくらいに俺を照らしだした。

 日の光を浴びるだけで目眩のようなものが襲いかかってくるが、俺はそれだけで不登校するような軟弱でも不良でもないからそのまま学校に行くことにする。


「朝だっつーのにあちーなー」


 今日も最高気温を更新するんじゃねえのかな。


 そんなことを思いつつ俺はドアの鍵を閉めてアパートの階段を下り、俺の通う高校へと向かった。






「おーっす友也ー、この前言ってたゲームのやつ当たったぞー」


「えっ! それって本当かい龍児!」


「おうマジマジ。これ見てみろって」


 学校に到着して教室に入るなり、すぐに友也の姿が目に入ったのでさっそく朝の出来事を話して当選の手紙を友也に見せた。


「……どうやら本当みたいだね。凄いな、こんな低確率の抽選が二人とも当たるなんて」


「へ? 二人ともって……まさかてめえも?」


「そのまさかだよ、ほら」


 友也はそう言うと懐から俺の渡した手紙とまったく同じものを取り出して俺に見せてきた。


「マジか。なんだよ俺当たり損じゃねーかよ」


 俺は嘆息しながら教室の天井を仰ぎ見た。


「あはは、でもせっかくこうやって当たったんだから、この際それを使って龍児もVRMMOデビューしてみたらどうかな? 今回のゲームは今まで出た他のVRMMOとはクオリティが段違いらしいよ」


「つってもなあ、バイトもあるからそんなプレイする時間とれっか微妙だし、VRやる環境揃える金もねーしなぁ」


「息抜き程度にやってみてもいいんじゃないかな? 来週から夏休みでちょうどいいタイミングだしさ、もしやる気があるなら僕の持ってるVR機器を貸すよ」


「そうするとてめえがゲームできなくなるんじゃねえの?」


「いや、実は最近発売された新機種を買っていてね、龍児に渡すのは以前に使っていた物だから遠慮しなくていいよ」


「ほえー、なかなかブルジョワってんなコラ」


「別にそんなんじゃないよ。凄い高い時期もあったけど、ここ数年はVR機器も価格競争でどんどん安くなってきてるしね」


「ふーん。まあタダでできるんなら、いっちょやってみっかな」


「そうこなくっちゃ!」


 俺がゲーム参加の意思を伝えると友也は満面の笑みを俺に向けてきた。


 ちなみに友也は贔屓目なしで言ってかなりのイケメンだ。

 もし今の笑顔が俺じゃなくどこか他の女に向けられたらほぼ高確率で落とされるだろうってくらいだ。ゲーム廃人の二次元崇拝者じゃなけりゃこいつが今でも童貞だなんてこたあなかっただろうよ。


 ……いやまあこれは卵が先か鶏が先かっていう話か。今となっちゃ別にどうでもいい話だ。


「一緒にパーティー組んで遊べば絶対楽しいと思うよ。……そうだ、今のうちに役割も決めておこうよ」


「んあ? 役割?」


「うん、敵に攻撃するアタッカーとか攻撃をひきつけるタンクとか味方を回復するヒーラーだとか……龍児はなんとなくだけどガンガン攻めたい派だよね?」


「おう、やられるまえにやるのが俺の流儀だぜ」


「じゃあやっぱりアタッカーだね。僕はそうだな……守り重視のタンクでいくよ」


「んだよ。てめえもアタッカーになって二人で攻めて敵を蹴散らそうぜ?」


「バランスを考えないと強い相手には勝てないよ。まあパーティ編成によっては僕もアタッカーやってみようかな」


 そして俺らがそうやってゲームの話をしているうちに予鈴が鳴り、話の続きはまた後でということになった。


 ……しっかし俺がVRMMOねぇ。


 一応前にゲーセンで1回だけVRゲームはやったことがあるが、そのときはどうもうまく体が動かせなくてすぐゲームオーバーになったんだっけか。

 友也が言うには少し慣れが必要だとか言ってたが、はたしてうまくできんのかねぇ。VRに限らずゲームもそんなにやったこともねーし。

 まあ精々友也の足を引っ張らない程度に遊んでみっかな。






 当選の手紙が来てから数日経った。

 今は日曜日の午後0時55分、フリーダム・オンライン先行版サービス開始5分前といった状況だ。

 今日のバイトは偶々午前だけだったので、それについて連絡をした友也に『それならサービス開始直後にゲーム内で会おう』と誘われたから俺は時計を見ながら残り5分という待ち時間を今か今かとそわそわしながら待ち続けている。


 なんだかんだでやると決めたらワクワクするもんだ。別に俺はゲームが嫌いなわけじゃねえしな。

 既にこの日のために友也から機材を借りて設置も完了している。

 メシは食ったし便所にも行った。よくわからんVR機器のヘルメットも既に装着済みだ。


 そんな俺をじと目で陽菜が見つめていた。


「……なんかすごい楽しそうな顔してるよ龍にぃ」


「そ、そうか? 俺はいつもこんな感じだぞ?」


 いかん。ワクワクしているのが顔にまで出始めているのか。

 こういうのは表に出さないようにするのが俺の流儀だってのに。


「まあいいけどね。龍にぃは趣味とか全然ないし。たまにはしっかり遊ぶのも龍にぃには必要だと思ってたしね」


「お、おう」


 な、なんだよ、てめえは俺のかあちゃんか。もういねえけど。


「晩御飯までには戻ってきてね」


「わかったよ、かあちゃん」


「かーちゃんっ!?」


「変な風に俺を気遣うからだ……っとそろそろ時間だ。んじゃなんかあったら呼べよ。じゃあな」


「まったくもう……行ってらっしゃい龍にぃ」


「おう」


 別にどこか外に出かけるわけでもないがそんなやり取りをして、時計が1時になったのを確認しつつ俺はフリーダム・オンラインのソフトを起動した。

 それと同時にVR機器による催眠効果がかかって俺の意識は現実の世界から電脳の世界へと旅立った。


 さあゲームの始まりだ。





 そして俺は後に後悔する。

 なぜ俺はゲーム開始直後にプレイしてしまったのか。

 なぜ今日は午前中にバイトがきり上がってしまったのか。

 なぜ俺は友也からVR機器を借りてしまったのか。

 なぜ友也は最新のVR機器を購入してしまったのか。

 なぜ倍率十倍以上の抽選に当たってしまったのか。

 なぜ俺はそんな抽選に応募してしまったのか。


 そんないくつかの偶然と俺の興味本位が俺を殺し合いの世界へと導くのだった。

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