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飛び越えて、人生!

みきりです。

死んで生まれ変わって____私は神さまになりました。


どうしてこんなことになったのかは解らない。だけど、交通事故に巻き込まれて『あ、死ぬな』と思ったら痛みも何もなく、私は再び岩の洞窟の中で目を覚ました。白と赤の衣を合わせた縁起の良さそうな服に、まるで仏様が着けているような金装飾を纏う私は、まるで古い神さまのようだと思った。


そしてそれが真実だと解ったのは、岩の中で目覚めて五日後のことだ。

お腹も好かない、眠くも無い、排泄欲もない、そんな自分の体の変化に呆然とする日々を送っていると、唐突に声が聞こえたのだ。私が目覚めた岩の空洞、その向うから反響してくる声に最初こそ怯えたが、私は意を決して耳を傾けた。


「岩永の姫様、岩永の神さま、どうかこの地に豊作を齎してください」


(岩永の姫___?)

どうやら、それが私の名前らしい。


それから何度か、同じようなことが起きた。どうやら彼らは、この洞窟の先にある祠か何かに祈願に来ているらしい。彼らは小さな村に住む農民で、最近不作が続いているとか。


正直どうでも良かったけれど、何度も何度も来るのであまりに可哀そうになった私はためしに彼らが豊作になりますようにと一日中念じて見た。正直暇だった。お腹も空かないし、眠気もないのでやることがないのだ。そうしていると、三日後また彼らが来た。そうして彼らが報告する所によると、どうやら無事豊作になったらしい。偶然なのか、私が念じたからなのかは解らない。だけどまあ良かった、と私は岩の中でほっこり笑った。


それからというもの、味を占めた村民は何度も祠を崇める様になった。


やれ豊作、やれ雨乞い、やれ害獣駆除、いろんなことを頼んで来た。私も暇だったのでそれを叶えた。そうする中で、私は本当に自分には不思議な力があるのだと解った。どうやらこの身は、本当に神さまになってしまったらしい。


そうしてまた暫く立つ。すると、私はなんとなく覚えいていた気だるさが顕著になったことに気づいた。全身が岩のように重いのだ。何もすることがなく動かないでいたから、その変化に気づくのに遅れた。


気づいたら、私は一歩も動けなくなっていた。


どうやら、願いを叶える度に私の…精力的なものが奪われているらしい。こりゃたまらんと、私は仮眠をとることにした。治れ、治れ、そう念じて私は深い眠りに着く。


目が覚めたのはそれからしばらくしての事だった。身体は大分軽くなった、だけど外は酷い状況らしい。岩の洞窟深くまで響く叫び声に、何事かと耳を澄ませる。


「いやだっいやだ!暗いよ恐いよ!ここから出して!だして!」

(子どものこえ…?)


なぜ。そう思って耳を澄ませれば、もう一つ声が聞こえた。それは、良く祠に来ていた村の偉い老人の声だった。


「ならん、お前は岩永神さまに身を捧げるのだ」

「親もないお前をこれまで喰わしてやったんだ、文句を言うな」

「人柱となり岩永神さまに再びの祈願を」


「お前は贄だ。生きて村に戻ることは許さん、その時はお前を殺してやる___!」


なんてこった。

どうやら私が寝ている間にとんでもないことが起きているらしい。


私が転寝してぽっきり願いが叶わなくなったことに気づいた村人は、岩永姫わたしが生贄を求めているとなんとも斜め45度な発想に至ったらしい。そうして、その生贄として村の孤児が一人放り込まれた様だ。えー、ちょ、これどうすんのさ。


私は考えた。洞窟の奥深くにある岩のベッドの中で考えた。その間にも子どもの泣き声は熾烈を極めて、私は半場パニックに陥った。ほんとどうすんだよこれ!いや、でも待て。きっと村に残っている良心的な人が彼を迎えに来てくれるはずだ、うん。


……そう信じて2日が経った。いやね、ここ洞窟の中だけど解るんだよ。えっと、神さまの第六感的なあれで。壁にかけられた決して消える事のない蝋燭の炎の揺らぎを観察しながら、私は聞こえなくなった子どもの喘ぎ声にそわそわと体を震わせていた。ど、どうしよう…死んじゃったのかな…?


(もしかしたらもう助けが来たのかも…いや、でも…どうしよう)


うろうろと洞窟の中を歩くも、耳を澄ましても、何も変わらない。

私は考えて考えて、痺れを切らして岩の洞窟から初めて抜け出すことを決めた。


私が目覚めた岩の洞窟には、一つだけどこかに繋がる道がある。そこから何時も村の人の声がしたから、きっとどこかに繋がっている筈だ。私は洞窟の中に設けられた手燭を一つ拝借し、そっと洞窟の道を進んだ。道は幾つにも枝分かれしていたが、自然と足が迷うことは無かった。……そうして私は、小さな堂の中へと出ることができた。


そこは本当に小さなお堂だった。私が出て来た大きな岩穴を囲うようにして造られている。穴の前には注連縄が渡っており、蝋燭や果実など…多分お供え物的なものが沢山置かれていた。それを崩さないように慎重に歩く。外は夜らしく、堂の中は真っ暗だ。それをなんとか手燭で照らしながら見て回っていると、ふいに小さな塊が視界の隅を掠めた。


それはとても小さな子どもだった。

うす汚い布を一枚纏った子どもが蹲って倒れていた。目に見える色濃い死相に囚われる子どもに、私は卒倒しそうになる。ああ、なんていうこと!!私はなんてことを!!!


私はにべもなく、腕に絡まった領布ひれで子どもを包みこんだ。消え入りそうな子どもを抱いて兎に角自分の岩の洞窟へと戻った。その時、いろんなものを蹴とばした気がするけど気にすんな!ごめんね!片付けよろしく!!


洞窟へと戻った私は、何時も寝起きしていた岩の台座の上へと子どもを降ろした。私が巻いていた領布は不思議なもので、何故かふわふわと宙に浮く。その所為で今一子どもの暖になっていない。ああもう役立たず!!バシバシ叩いてなんとか落ち着かせる。


「えっと、と、とりあえず水…!それに、食べもの!たべものー!」


私は岩の洞窟を駆け巡った。

岩の道は様々な場所に繋がっていた。それが何処に繋がっているのか本能的に理解していた私は、必要なものをそろえて洞窟へと戻った。意識のない子どもに水を与えるのは大変で、なんどやってもうまくできない。果物も食べられるはずがなくて、せめて果汁でもと思い手をベトベトにしながら頑張った。それでも子どもは目覚めなくて、私はもう泣き出してしまった。情けないなさけない、私はなんて無力で勝手で、できそこないなんだろう。


子どもの骨ばった手を握り締めて、私は願った。元気になれ、元気になれ、元気になれ、そうやって何度も願った。すると体から何かが抜けていくような気がした。その所為で酷くけだるくなったが気になんてしていられなかった。私は願い続けた、願って、願って、……気づいたら、眠ってしまっていた。…力を、使い過ぎたらしい。



×袈裟〇領布です。

袈裟は坊主の衣裳です。領布は羽衣です。間違えました。

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