セオリーは妄想
私は駅で合金鋼メロンを買い、電車へ乗ると、瓦礫の街へと戻ってきた。
瓦礫の街の地面を踏んで、そこではたと気付いた。
私が最初に飛ばされた部屋がなんだったのかと言うことを家奈美侯爵に聞きそびれていた。
まあ幾つか予想は立てているのだが、確認を取らなかったというのは大失態だ。探偵として失格と言っていい。友人達に顔向けが出来ない。
しかし今から戻る気にはなれない。流石に疲れてしまった。それに、今の私は真実を知ることよりもしーちゃんに会うことを優先したいと思っているのだ。
成長と見るかマイナス成長と見るか。いや、そんなことはどちらでも良いのか。一方が伸びれば一方が縮む。ただそれだけだ。
テクテクテクと私は歩を進める。
それにしても、あの部屋に置いてあったアルバムは家奈美侯爵が置いたものとしても、あの本が誰のものだったかと言うことについては正直な所かなり曖昧だ。家奈美侯爵は本を読まないと巷では噂されている。都市伝説のようなものなのだが、都市伝説であるからには現実なのだ。
本を読まない家奈美侯爵があんなに沢山のジャンルの本を持っているとは考えられない。
家奈美家で本を読む人間と言えば、しーちゃんの二人の姉と弟である冬人くんだけだ。そしてここからもう少し絞り込める。
次女の夏さんは漫画を読まない。本棚には漫画も数冊置かれていたので、彼女は外れる。となると、長女の春菜さんか、次男の冬人君のどちらかに絞られるのだが、そこから先を突き詰めることは出来ない。
春菜さんは心の所在を突き止める為の学問を専攻しており、冬人くんは医学を専攻している。本棚にはどちらの学問にも通ずる本が置かれていた。だから、推理はここで止まってしまう。
そもそも、あの部屋を家奈美家の全員が使用しているという可能性だってあるのだ。
いや待てよ。全員か。それが一番良い線を行っているかもしれない。
家奈美侯爵は本を読まない。と言うことは、家奈美邸には書斎というものがないのではないかと考えられる。家奈美侯爵にとっては最も必要のない部屋のはずだ。しかし学問を嗜む三人の娘達には必要不可欠。
だから、家奈美侯爵は娘達の為に、瓦礫の街のマンションの一室を買い取り、書斎として与えた。
そして、椿ちゃんから転送装置を買い取ると、私への想いが抑え切れなくなり、アルバムを作って書斎に置いた。
ふむ、筋は通っている気がする。
とは言うものの、確証もなければ証拠もない。全ては私の憶測だ。はっきり言って推理なのかすら怪しい。
まあそんなことは後で家奈美侯爵に確認を取れば良いだけの話だ。
私は思考を打ち切り、下水管へと入った。