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バッドエンドは大団円

 私は社交的な人間だ。

 故に人を頼ることも度々ある。

 だが、今回は流石に頼り過ぎた。言い訳がましいが、何だか何時もの調子が出なかった。

 しーちゃんが隣に居なかったことだけが原因ではない。きっと私は何かに気付いてしまったのだ。

 その何かが何であるかはもう知っている。

 私は自分に嘘を吐いていた。嘘が忌避すべき罪悪であるとは思わないが、嘘に依って、自分の大切な人を蔑ろにするのには罪の意識が付き纏う。

 私は真実が欲しいと言いながらも、その実、一番欲しいものはしーちゃんの笑顔だった。

 優先順位を偽ったことで、私はしーちゃんを蔑ろにしたのだ。許されざることである。何故偽ったかと言えば、これは最早子供みたいな理由で、恥ずかしかったからと言うそれに尽きる。

 だから私はジッとしていられなかったのだ。

 遂に気付いてしまった。いや、気付けたのだ。これは私にとって幸いなことだ。正に真実を掴んだと言うような心持ちだ。

 私は今、しーちゃんの部屋の扉の前に立ち尽くしている。大層心配を掛けただろうから、多少の緊張はある。

 しかし、悩む必要などないのだ。しーちゃんは優しいから何も聞かずに入れてくれるだろう。

 私もそれに合わせて彼を甘やかせば良い。

 いつだったか、椿ちゃんに、君は標くんを甘やかし過ぎだよと言われたことがあった。その時は得心行かなかったが、今なら何となく判る。

 きっとしーちゃんは彼女に、君は優しすぎるよと言われたことがあるに違いない。


 私は甘い。しーちゃんは優しい。美しいまでの鏡像関係。

 正しい道を歩んでこれたのはこの鏡写しのような関係だったからだ。そしてこれからも正しい道は続く。

 正しい道を歩み、行き着いた先で私たちはきっと不幸になる。不幸にはなるが、それはきっと幸福な未来への布石になり、そうして何でもない終りに辿り着く。私たちは何でもなくなるのだ。

 そうだ。だから私は家波標の家を訪ねなければならない。

 インターフォンを押す。

 出ない。

 もう一度押す。

 出ない。

 インターフォンで駄目ならノックだ。

 コンコンと扉を叩く。

 暫く待つと扉は開き、そこには私の恋人が驚いた顔をして立っていた。

 私はただいまと告げる。


 彼は不測の事態を無理矢理納得させたように、おかえりと言った。







——おわり

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