第一章 旅立ち *5* ペンダント
ここは何処だろう? 私は尋ねるように呟いた。
ここ?ここは“――”よ。
なにか、言ってるようだ。私には聞こえなかった。
どこにあるの?貴方はだれ?
貴方の町よ。私?私の名は――
誰かがそこまで言いかけたところで私はまた意識を失った。
僕は町を駆け巡り、エラノ−ルの名を大声で口ずさんだ
『エラノ―ル!エラノール!!何処にいるんだ?』
町中の人が振り向いた。僕は構わずその名を繰り返した。けれども、返事は返ってこない。姿も見えなかった。
いったい何処にいったのだろう?
この町で彼女が行きそうなところは限られている。ふと、昨日の泣き顔が脳裏に浮かんだ。
ねじねじの森だろうか?
それなら、町の中心と反対方面だ。僕はまた彼女の名を大声で叫びねじねじの森のほうへ引き返した。
ねじねじの森――
太古からその森の中に入ることは聖霊祭の日を除き、恐れられ、禁じられてきた。
正直、森の目の前まで来たとき僕は躊躇した。
また、気を失ったらどうしよう。本当に森の中にエラノ―ルがいるのだろうか?
確かにエラノ―ルがここにいる。っていうのは僕自身の予想であって彼女がここにいる“明確な理由”はない。
でも、もし彼女がここにいないとすれば、少なくともグッと命がまだある確率は高くなる。
でも、本当のことを言えばそうでなかったのかもしれない。心の奥底で“エラノ―ルがいるのはねじねじの森”という理由もない確信が渦巻く。僕はねじねじの森に入った。
やはり暗い。昨日、入った時はオストルドがいる。という安心感と“今日は入らなければいけない日。ねじ神様の逆鱗に触れることはない”という妙な納得からくる安心が恐れを半減していた。
しかし、今はそんな安心という守りもなく、僕は怖くなった。けれども、“もしエラノ―ルがこの中にいたら”と思うと進まなければならない。僕は奥に向かってゆっくりと進んだ。
できるだけ扱けないよう足に気を配ったつもりだったが、限がない。思った以上に凸凹してる。この前一度しか転ばなかったのが不思議くらいだ。
『エラノ―ル!!』
僕は大声で叫んだが、森の中で木霊しただけで返事は返ってこなかった。
やっぱりいないのだろうか?いやいや、昔・図書室の地図で見た限りねじねじの森はエリンスひとつ分くらいの大きさがあった。もっと先にいるかも知れない。
『エラノ―ル!!・・!』
不意に転んだ。地面にぽっかり穴が開いてる。よく見ると昨日転んだところにそっくりだった。
『危ね・・・・』
僕は起き上がるとさらに先に進んだ。
暫く、何の変哲もない唯の林道が続いた。徐々に暗闇に目も慣れ始め、入り口よりだいぶ見えるようになった。ふと、足を止め空を見上げる。
真っ暗な空――完全に木で覆われていた。
『大木か・・・?』
ふと、前に視線を落とすと先のほうに大木が見えた。僕はそれに向かって進んだ。
ザッ・・・ザッ・・・
身の丈ほどの草を掻き分け、大木の前に出た――。
一面金色の光に包まれた広場・・・・空を見上げると眩しい陽光が目に入った。
『こんなところが在ったなんて・・・・』
僕は眼が慣れるまでしばらく俯いていたが目が慣れ前を見ると人が倒れているのが見えた。
『エラノ―ル・・・・・?』
僕はすぐさま駆け寄った。寝息を立て眠っている――。僕は安心し安堵の息を漏らした。
『――ん・・・んぅん・・・ザイン・・・君?』
『よかった。無事だった――・・・』
思わず僕は彼女を抱きしめた。目から涙があふれ出た。
『ここ――どこ?』
『ねじねじの森の中だよ――。心配かけやがって・・・・』
『ザイン君・・・私ね。決めたの。』彼女は言った。『勇気を出してザイン君と別れよう。って。この町のことを心配しなくてもいいように旅立たせてあげようって。』
彼女は僕の首に螺旋の花で作ったペンダントをかけた。どこから来たのか気がつくと僕らの周りには動物達が集まっていた。
『ねじねじの森にこんな綺麗な場所があったなんて・・・・知らなかった』
『きっと、ねじの神様が知らせなかったんだと思う。こんな綺麗な場所を――動物達の楽園を――知らせたくなかったから。』
そうなのかもしれない。僕は妙に納得してしまった。
『ありがとね。ザイン君』
彼女は僕の頬にキスをした。そして最後に大木にお礼を言い、クスっと笑う。
『じゃぁ、戻ろっか!』