第一章 旅立ち *4* お告げ
僕は夕べいけなかった町長の家に向かった。昨日の今日なのでエラノ―ルに合うのは恥ずかしいが、彼女と会えるのはこの先いつかわからない。今日ぐらいは自分の“恥ずかしさ”というものを捨てよう。
『ザインか――、遅かったな。まぁ、座れぃ。』
ノスは僕が入ってくるとすぐさま座るよう促した。周りを見渡すと誰もいない。エラノ―ルは・・・?僕は訊ねようとしたが、とにかくノスの話を先に聞くことにした。
『あぁ――美味しい紅茶はいかがかね?』
『頂きます。』
『砂糖とミルクは・・・?』
『砂糖だけ・・・大匙2杯。』
暫くしてノスの奥さんが“大匙二杯の砂糖が入った紅茶”を持ってきた。とほぼ同時にノスが口を開いた。
『ありがとう――。ところで、ザイン。君は昨日聖霊様にお告げを受けた。何故自分が?って、疑問に思わなかったかい?』
『いえ――、きっと僕の正体に関係しているんでしょうけど・・・。』
正直、何故僕が?なんてあのとき思わなかった。それよりも、“自分”が何処かに行ってしまう。それを泣いてくれた彼女たちがどれだけ自分のことを好いていてくれたのか。それを改めて実感し嬉しかった。
そして、――自分の記憶を探しに旅に出なさい。と言われたとき、“未知なる世界を見れる”とワクワクした。
全然、何故だ?なんて思っていないのだ。勿論、旅に出たい。とは言わない。ずっと平凡な人生を彼女達と送るのは楽しいはずだ。
『君は大変賢い子だね。やはり君は神に愛され不思議な運命を背負った子供――いや、昨日でもう大人か?――だよ。そして、恐らくこれからもね。』
『どういうことです?』僕はノスの長い話を聞いているのが煩わしくなって思わず訊ねた。
『焦るでない。ザイン。君はいつもちぃとばかし事を焦りすぎじゃ。何事も求めようとすることは大切じゃが、よく言うじゃろ?遥か南方の国の諺で“焦る者は損をする”とな。』
町長はゆっくりと僕を宥めるように言った。しかし、焦るな。というほうが無理な気がする。僕は気が長いほうじゃないし、何より知りたいのだ。真実を。
『でも――知りたいんです。できるだけ早く真実を。』
『君らしいのぉ・・・・。よかろう。教えてあげよう――君は婆やに子供を預け旅に出た両親の子供じゃないのじゃ』
『え?――』
一瞬、彼が名に言ってるか僕にはわからなかった。頭が混乱した
『混乱してるだろう?それはそうだ。今まで自分の両親は婆やに自分を預けて旅に出た。とばかり思っていたんだろう?しかし、それは違う。お前は、5年前の聖霊祭の日、不意に聖堂に雷が落ちお前がフワフワと浮かんで落ちてきたのじゃ――。ねじ神様の像の前に。』
『僕は――この町の住人じゃないって言うことですか?』
『そうじゃ。君は神から授かりし子なのじゃよ。神の恩恵を多大に受けておる』
流石に驚きを隠せない。神の恩恵を多大に受けている――、そんなことを言われても実感がわかなかった。
『ザイン――旅立ちなさい。あのお告げは本当だ。己の探究心を満たすために――記憶を求め、使命を果たすために旅立ちなさい。』ノスは笑った。『なぁに、寂しくなったらいつでも帰っておいで。この町は君の故郷だからの。』
『小父さん・・・・』僕は思わず目から涙が出た。『ありがとう――、ところでエラノ―ルは?』
『エラノ―ル――あぁ・・あいつなら・・・』小父さんの声を遮るように小母さんが叫んだ
『た、大変――エラノ―ルが・・・エラノ―ルが・・・・何処にもいないの・・・・』
エラノ―ルが・・・・?どうやら、まだ旅に出るのは早いようだ。僕はドアを開けると、彼女を探すべく町へと向かった。