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第一章 旅立ち *2* ねじねじの森

前述したように聖霊祭は年に一度開かれる祭典で、大まかな内容はまず村の聖堂まで皆で行進をし、神様に祈りをささげて、神子が呪文を唱えてお告げをする。そして、成人を迎える者達が一言述べて大合唱を始める。といった具合だ。僕はいつもただの参加者でしかなかったが今年は十五という成人の年を迎えるので、色々しなければならないことがあった。日が登る頃に聖堂に向かい、準備を手伝うのだ。

『おぅ、ザイン――早いな。』

僕が聖堂に到着すると、オストルドのお父さんがいた。オストルドはいないか?と辺りをキョロキョロしていると小父さんは言った。『俺の息子なら――おそらく、未だベットでいびきをかいて寝てるよ。』

聖霊祭の準備に遅刻寸前の息子を起こさないとは――、僕は笑ってしまった。

暫く時間が過ぎた――。お昼時になり休憩の時間になるとオストルドが家のほうから走ってきた。

『おいおい、もうお昼時だぞ。聖霊祭準備に遅れるなんてたいした度胸だな。』

『悪ぃ、お袋が寝坊したのを知って急に怒り出してさ。二時間ぐらい説教食らってた。恥をかけだってさ。もう十分恥かいてるっちゅうのによ。』

彼は苦笑した。よく見ると目が赤い。きっと、泣いたんだろうと思う。

『まぁ、いいさ。午後からはちゃんとやってくれ。ところで、昼飯食べたか?』

『もち。昼飯?いんや、あのおばさんは食べさせてくんなかった。』そう言うと彼は僕の弁当から肉団子を手で取ると口の中へ運んだ。『あぁ・・・うめぇ。誰が作ったの?これ。』

『エッエラノ―ルが、持ってって。って』僕は思わぬ不意打ちと、言ってることの恥かしさに赤面してしてしまった。

『なにそれ。羨ましい!』

彼は“羨ましすぎる罰だ!”と言うと僕の弁当箱を取り、残っていたご飯を全部平らげた。

『うん。ようやく腹の虫がおさまった。もう二食も食ってなかったもんな。』

オストルドは僕んちより遥かに貧乏だ。週三日は食べられない日があるし、何分四人兄弟だ。一人当たりにあたる飯の量が少なかった。

『ちぇっ、今回だけだぞ。』僕はいつもこうやって許す。彼が僕より遥かにお腹が空いてると知ってるからだ。

そうこうしていると、あっという間にお昼休みが終わり午後の準備が始まった。祭りは日が完全に没してからなためまだまだ時間はあったが、それでも残っている“祭り前にやらなければいけないこと”を全部こなそうとすればギリギリか時間が足りないくらいだった。僕達(僕とオストルド)は神子が首にかける螺旋花のねじばなのかんむりの材料を取りに村の北側にある“ねじねじの森”へ入るよう言われた。


婆ちゃんに聞いたことがある。昔、ねじねじの森はこの辺り一帯に広がっていた。それを、アースから来た裏切り者が開拓して町を作った。(当初は漁村アースに負けないように。という意味を込めて作られた為、“町”と名づけられた。)しかし、ねじねじの森には古くから神様が住んでいて開拓した者達に天罰が下った。

開拓の責任者が木が倒れてきて命をなくし、開拓に参加者達は次々に病魔に襲われた。

そこに、一人の少年が現れた。名を“エリンス”と言い父と母がアースで自己破産をし、泣き泣きこの町へ逃げてきた。彼の父は引っ越すときに自殺し、母は開拓事業に参加していなかった為、その家族は災厄から免れた。彼はねじねじの森の深部にある聳える岩山に向かい、町の住民の代表としてねじ神様に祈った。

『どうか、ねじ神様――我らの行いを許してください。もう、二度としません。たくさんお詫びはします。』

少年の思いが通じたのかそれから数日もしない間に開拓者を襲った謎の病魔は無くなった。そして、開拓した町の名は少年の名をとってエリンスと名付けられ、代償として“福”を失った。(しかし、神のご意思で仲の良さが増え、貪欲を消し去った。)そして、年に一度神への手向けとして聖霊祭が行われるのだ。聖霊祭が行われなかった年は人の命を手向けとして。

だから人々はねじねじの森には一年に一度しか近づかないことになっていた。

それでも、年に一度――螺旋花の冠の材料を取りにいくときは神秘的な出来事が起こると言われていた。

今日も神秘的なことが起こるのだろうか?僕は不安と共に微かな期待を抱いていた。昔から冒険が好きだった僕はこういうことには慣れっこだ。暗いのは平気だし、このスリル溢れる緊張感が俺の心を躍らせた。

しかしオストルドはびびっているようだった。入る前とは一転、さっきから辺りをキョロキョロ見回して僕の服を掴んでいた。

『ねぇ・・・早く――ここから出ようよ・・・。』彼の声は震えていた。

『ねじねじの冠って何で作るんだっけ?』

『ぇえ・・・と、森の中央にあるねじの大木の花・・・だった気がする。』

もう、森へ入って小一時間はたった気がした。しかし、辺りは真っ暗で目の前は殆ど見えなかったので、進んでいるかさえもわからなかった。

『イタッ!』

声と同時にオストルドの姿が見えなくなった。僕は焦らずゆっくりと後ろずさると、何かにぶつかる。立ち上がってからそれがオストルドの体だと言うことに気付いた。

『痛ぁ・・・・』オストルドは鼻を擦った。『しかし、ここ足場悪いなぁ。暗いし良く見えないや。急に歩くの怖くなったし。』

『全く。相変わらず、暗闇が苦手だな。お前は。』

『お前に恐怖心はないのか?』

『再三再四言ってるだろ?僕の心にあるのは未知なる事実を探求することだけさ。その為なら何処にだっていけるさ。』

僕はオストルドの手を手に取った。そして、一歩踏み出す。

『馬鹿!危ねぇ・・・・』

不意にオストルドのバランスが崩れ、僕を道連れに穴へ落っこちた。ヒュゥゥゥと風の鳴る音がして、気付いたときには微弱の光で照らされた洞穴にいた。

『ここは・・・・?』

僕は呟いたが返事する者は誰も居ない。洞穴の中で僕の声が木霊した。

あれ、オストルドは・・・?僕は気付き洞穴の奥へと進んだ。辺りは進むにつれ次第に明るくなっていき、大きな広間に出た。そこには天井から巨大な木の幹が地下に向かって伸びていた。

『ねじの大木・・・?』

その木は僕が生まれてこのかた、一度も眼にしたこともないような巨大な木だった。

あっ――と息を呑まれる圧倒感――。オストルドを探すことも忘れ心が躍った。

『・・・・!』

不意に甘い香りがした、僕はその場に倒れた―――、

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