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第一章 旅立ち *1*運命 

僕の名前はザイン・アイット。僕の夢は冒険家になること。

偉大なる海の沿岸の町エリンスに住む十五歳だ。趣味は日記で、色々なことを想像することが好きだ。僕に親はいない。なんでも、五年くらい前俺の親は俺を婆やに託し旅に出たらしい。でも、五年以上前の記憶が俺にはなかった。

というより婆やによると既に託されたとき記憶が無かったらしい。

その日も俺は町に一つしかない図書館で本を読み耽っていた。

表題Fil de memoire(記憶の糸)。三世紀以上前のブリオ公国の有名な作家が書いた話だそうだ。名作中の名作でとある王国の王子が徐々に記憶がなくなっていく庶民の娘と恋に落ちる話だ。何度か読んだ小説だが、何度見ても面白い。

“私は思い出を残すことはできないの・・・・。”目に涙があふれ始める。気付いたら本が濡れていた。

『また、お前は本読んでるのかよ?』

唐突な質問と共に頭に鈍い音が響いた。――殴られたのだ。

『いってぇ・・・・』僕は頭を抑えた。『小説は面白いんだぞ!オストルド。お前も一度くらい読んでみろよ。』

『ヤダネ。本なんて糞くらえだ。第一本さえ読めねぇんだぜ俺は。』

確かに、この町には本を読む人は少なかった。殆どの人はきちんと教育を受けてないヒトばかりだし、別に本など読めなくても魚さえ取れればいいからだ。でも、僕は何故か読めた。気付いたときにはもう本が好きで文字が読めたのだ。そして、読む理由はもう一つ。

“記憶を取り戻すため”だ。誰も教えてくれない。ぼくの記憶。昔、婆やに聞いたことがあったけど、“ザインの両親はこの街にきた尋ね人じゃからの”としか教えてくれなかった。だから、本を読めば自分の記憶ことがわかるかもしれないと思ってぼくは本を読んでいた。

でも・・・・・・本が読めるってこと――すなわち文字が読めるってことは、“記憶のあったころは裕福だったのかもしれない”そしたらどんなにいいことだろう?毎日食事にありつけて、毎日いい服を着れる。あぁ、なんて素晴らしい。

時折、そんな妄想をする。

貧乏人が多いこの街では食事に毎日ありつけるかもわからなかった。比較的、家の婆やは裕福なほうだったがそれでも二日に一度くらいは食事が無い。もう、慣れっこだったが腹は嘘をつかない。いつも空腹でいた。また、着ている衣服も汚かった。洗濯などは殆どできないし、量もパ―ツごとに二枚程度。よっぽどお日様の日が強くない限り洗濯はしなかった。無論、衣服屋も、浜辺に一つ。航海する人しか殆ど寄らない店だった。

しかし、“スラム街”(本で読んだ。貧乏人が多く、凄く荒れている町だそうだ。)みたいな荒れている所は無く、町民の仲がよかった。“港町”と言う割りに栄えてなかったからなのかもしれない。それは、隣の漁村アースにはとても大きな港があって、そこで“広大なる台地”との貿易を全部してしまうからだった。でも、この町の人たちは彼ら――アースの人間を憎んだことはなく、寧ろ受け入れているくらいだ。

ある時、隣の家のおっちゃんが話しているのを聞いたことがある。

『わしらの町はなぁ、アース村で、失敗した人間が築き上げた村なんじゃ。』

だから、この町はこれでいいのだ。とおっちゃんは言う。僕はこの町の“のんびりさ”と“優しさ”そして、“仲のよさ”は好きだったが、皆のアースに関する見解はあんまり好きじゃない。アースに負けてたまるものか。と時々思った。

『おい!ザイン。何ぼ―としていやがんだ?』不意に呼ばれて後ろを振り向いた。

『え・・何?』

『あぁ?また、なにか考え事してたのかよ。』

『うん・・・』

僕は本を読んで考え事をしていると周りが見えなくなる。いつもの癖だ。悪いとは思っていても直せない。恐らく、もう遺伝子に“考えると止まらなくなる”という癖が刻み込まれているのだろう。

『はぁ〜』急に彼は溜息をついた。『そんなに――記憶を探すのが大事か?今が楽しければいいんじゃねぇの?』

彼に――何回か聞かれた言葉。僕はこういうときいつも決まってこう答える。

『未知なる事実を探求することが、僕の楽しみでもあるんだよ』

これも遺伝子に組み込まれたものなのかもしれない。僕はふと思った。

彼はまた溜息をつくと言った。

『それはご苦労なこって。ところでザイン。そういえば明日の聖霊祭の神子みこはエラノールちゃんがやるってよ。よかったな!』

彼は僕を肱でツンツンと突き僕は思わず微笑を浮かべてしまった。聖霊祭というのは、毎年年一回行われるエリンス唯一の祭典で、その神子に選ばれるのは由緒正しいことなのだ。今年選ばれたのはエラノ―ル・リディアで僕の五年来の友達で町一番の美人でもある女性だ。

『そうだね。』僕は頷いた。『そういえば、聖霊祭のことに関して町長に呼ばれているんだった。』僕は急に思い出すと、椅子から立ち上がり、図書室を出た。オストルドは苦笑した。

『ちぇ、もっとエラノ−ルに優しくしとくべきだったぜ。』


この町の町長はエラノ―ルの父方の爺、ノスだった。この町の町長は代々“町の英雄”が継ぐもので彼――ノスは10年以上前、エリンスの第三地区に流れる川の決壊を止めたそうだ。時々、エラノ―ルに逢いに行きがてら町長の家を訪れると話してくれる。

『すいません。遅れました』

僕が到着すると、町長は“座りなさい”と言って席を勧めた。僕はお辞儀をすると勧められた椅子に座った。

『久しぶりだの。』ノスは優しい目で僕に言う。『ザイン、大きくなった・・・・・』

『ご無沙汰してます。』僕は頷いた。『それで、話とは?』

『これこれ、急くでない』彼は僕を諌める。『エラノールに嫌われてしまうぞ。』

僕は不意に赤面した顔を隠した。

『ところで、君は明日聖霊祭を以って、十五歳になるんだったな?』

『はい。』僕は頷いた。

―――そろそろ、“あの”お告げがこの子にも話されるころかの。

『ザイン。』彼は見透かされそうな声で僕に言った。『明日、聖霊祭が終わったらここにもう一度来なさい。大事な話をしてあげよう。』

『え?』それだけ、だろうか?

『そうじゃ。今回ばかりはエラノ−ルに言伝を頼むより本人に言ったほうがいいと思ったからの。』彼はニヤッと笑った。『まぁ、明日になればわかるであろう。それだけ重要な話なのじゃ』

僕は知らなかった。この時、全ての“運命”は決まっていたのだ。もし、この時“僕の宿命”を知っていたら怖気ついてしまっただろう。後々のことになるが、僕は町長に感謝した。

★今始まる――長い長い話。この先、彼には何が待ち受けるのだろう?

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