第三章 空*14* 滑稽
ぼくは誰なのだろうか?
過去の記憶が無く、言葉以外は何もわからない。
自分が何をしていたか
何処にいたのか
何故ここにいるのか
自問自答を何度も繰り返した
誰も答えてはくれなかった
何もわからなかった
四年前―――
その日ぼくは図書館にいた。
それは毎日の習慣になっていて、小母さんに連れてこられて以来、毎日欠かさず来ていた。
友達はいなかったし、ぼくは別にここで過ごすことは嫌じゃなかった。
表題『メッカ市』
黄色い背表紙の綺麗に装丁された本で殆ど触った形跡は見られない。
『痛!』
本を開くと、一枚のメモ用紙が舞い落ちた。それで指を切ってしまったらしい。
『gΩfdgjlσ▽kah〇×!!!jigerzoiwaaaω・・・・』
メモを僕は手に取った。見慣れない文字が並んでいる。ぼくは訳がわからなかったので、本の後ろにそっとしまいこんだ。
『この本には、ぼくの過去に関することが何か書いてあるかもしれない。』
繰り返し、繰り返し呟いてきた言葉。
何度も何度も同じ言葉を繰り返し、毎日毎日図書館にある本を読み耽っていたけれど、一度だって真相に近づいたことが無かった。それは単にぼくが無知なだけかもしれないし、本当に記述されていなかったのかもしれないけれどぼくにとって、“過去を知る手立て”は、今のところここしかなかったし、文字を学ぶ手立てもここ以外何処にも無かった。
勿論、その日もいつもと同じ。唯、脳内に知識が追加されるだけだった。
『だ〜れだ?』
ふと、休憩していたら誰かがぼくの目に手を当てた。
『エラノ―ルさん・・?』
『えへへ。当たり♪』振り向くと、エラノ―ルは殺人的な笑顔でぼくを迎えてくれた。
服は黄色の少し小さめのワンピで、ビ―チサンダルを履いている。
『どうしたの?』
『う〜んとね。う〜んとね。空綺麗だよ。あそぼ!ザイン君・・・・』
『え?。』ぼくは丁度読み終えた本を本棚に戻すと、一緒に外に出た。
空は綺麗だった。
雲ひとつ無い青空―――
でも、何故だか不安になった。
『ん?』
彼女はぼくの顔を覗く。築いたら無意識のうちに彼女を見ていたようだった。
『なんでもない。』ぼくは笑顔で答えた。
『そっか。』
『ねぇ』彼女は続けた。『からすのすくう森にいってみない?』
『え?』
『綺麗なんだよ。とっても。あの奥にあるれいの湖。昔ね。お父さんに連れて行ってもらったことあるんだ―――』その日、元気が無かったのか、受け答えしかできなかったぼくに彼女が一生懸命話してくれたのを覚えている。
そう―――もし、この時、ぼくがちゃんと受け答えしていれば大丈夫だった。
彼女があんなめにあわなかったと思う。
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鴉の巣食う森―――
いつからそんな名前で呼ばれていたのだろう。
とにかく中は薄暗くて、恐ろしく気味が悪かった。
中ごろまで歩いたとき、エラノ―ルが口を開いた。
『ザイン君、ここ知ってる?』
『知らない。』
彼女が何故ここに連れてきたのかわからないぼくは、そっけなく答えることしかできなかった。
『そう・・・・』彼女は頷いた。
暫く―――沈黙が続いた。
ようやくぼくが口を開いたときはもう、森は抜け出していた。
目の前に、大きな湖面が広がった。
『マブし!』
目がくらんで慣れるのに時間がかかったが、空から照りつける陽光に感謝した。
『綺麗・・・・』綺麗に陽光を反射する湖を見てぼくは呟いた。
『でしょ〜!』彼女は無邪気に笑う。その笑顔を見ていると僕の心は安らいだ。
魚がピチョンと跳ねた。
水の中を覗くと、水はとても透き通っていて、魚がいっぱい見れた。
隣にいたエラノ―ルは水を手ですくうと、ぼくの顔にバシャッとかけた。
『ちべて・・・・』
ぼくは思わず笑ってしまった。いつの間にかぼくはニッコリ笑っていた。
それから暫くぼく達は水を掛け合い、笑いあった。
『ザイン君ッてさ、どうして、他の子達と遊ばないの?』二人ともびしょ濡れになった後、彼女はぼくに尋ねた。『だって、こんなに楽しいんだよ?』
『そうだね。遊ぶのも悪くない。でも―――』
『でも―――?』
『ぼくと遊んでくれる人なんていないでしょ?』
『そんなことないよ!ザイン君優しいもん。私知ってるよ。村の子達に虐められてた動物を助けてあげたりしてたじゃない?』
『そうかな――――』
僕は褒められて照れ臭くなり、顔が真赤になったのを隠そうと水の中に身体を沈めた。
そして少し岸にいる彼女のところから離れると再び浮上した。
その、岸から離れたことが原因だったと思う。
突然、僕の周りの水に波紋が沸く。
『え?』
一瞬だった。でも、すごく濃い一瞬だった。
『キャァァァァァァァ・・・・』
彼女の悲鳴が聞こえた。けれどぼくは動けなかった。
いや〜ようやく終わりまでのめどがたちました
全部で四部構成。章の数は15!
因みに、この“空”と言う章はあと二話程度です