第二章 フェニックス *11* ラノ・ウウス大聖堂
僕は今、ネネとメッカの町からラノ・ウウスを馬車で移動していた。その間に彼女に色々質問してラノ・ウウスについて知ることができた。
とにかくあの大聖堂についてわかったことは二つ――。
一つはあの大聖堂は元々、青の魔導士会という胡散臭いアーチナラル民主共和国にある士会の聖堂だったそうだ。しかし、当時の国王が死に、その次に国王を継いだ者が鎖国したため、大聖堂からは人がいなくなり、廃墟と化した。以来、大聖堂では闇取引が行われたり、幽霊や怪物が出るという噂が流れたため、いつしか闇の聖堂とも呼ばれるようになってメッカの人々も近づかなくなったという。
彼女の話でもう一つわかったこと。それは、あの大聖堂に隠された秘密についてだった。
青の魔導士会が作ったものかはわからないらしいが、地下に残された跡には、古代創世記という(詳しくは知らないが、エリンスの図書館で読んだ本の中に“古代創世記”についての記述があったので、名だけは知っていた。)遥か太古からあった本の序文がアラル・ラノルルという特別な文字で壁に綴られている、ということだ。この事はメッカの人でも殆ど知らないという。
僕がラノ・ウウスに理解し終えたところで、ネネは僕に訊いた。
『ところで、ザイン――君。何処から来たの?』
『僕ですか?僕はエリンスから来ました。』僕は答えた。
『エリンスか――。変わってるんだね。』
『どうして?』彼女が僕に何を求めてるのがわからなかった。
『なんか北っぽい話し方するからさ。』ネネは言った。『豪快な南の人はね、大抵“俺”って言うんだよね。控えめな人でもさ。だから、北の方で産まれて南に最近来たんじゃないかと思ってさ。まぁ、両親が北産まれとか友達が来た生まれでそうなる人も居るから、一概には言えないけど。』
そういえば、エリンスの人たちは皆、豪快に俺といってたっけ?或いは私とか。そう考えると僕だけだった気がする。一人称が僕なのは。
『よく知ってますね。そんなこと。』
『サ―カスやってると嫌でも身についちゃうんだよ。人の見分け方みたいなの。』
バシッ
ネネが鞭を放つ音がして、馬は加速した。
『ほら――もう、見えてきたわ。』
暫く進むと、ところどころ風化し荒れ果てた廃墟が見えた。
もうあたりは真っ暗になっていたが、その跡は闇に包まれながらもはっきりと見えた――
時、同じくしてラノ・ララク内部
『何処まで逃げればいいんだ?』男は言った。『というか、あの時目の前にいた男の子が追ってきてるって本当か?』
『私を誰だと思ってるの?』イザベラは笑った。『名高い女盗賊、イザベラよ。』
『でも、なんでここがわかったんだ?』男は不思議そうにイザベラに訊ねた。『まさか奴がここまで尾行けてきた訳じゃあるまいし・・・・細心の注意は払ったんだろ?』
『えぇ――』イザベラは言った。『できるだけ見つからないように、殆どのものに気付かれぬようにここまで来たの。事実、盗んだのを誰にも知られなかったはずよ。』
苔に覆われ風化した扉を開けると階段が見えた。ゆっくりと一段一段踏み外さないように降りる。途中、蛇が寄ってきたが無視して更に下の方に進んだ。
『全く、何処まで降りんだよ?』
『奴らの足音が聞こえなくなるまでよ。』イザベラは自分の耳を人差し指で触った。『未だ奴らの足跡が遠ざかってないから』
イザベラの耳には特殊な装置が組み込まれており、狙ったタ―ゲットに発信機のようなものを付けることで半径メ―トル以内に近づくと音で場所がわかる。(遠いと小さい音、近いと大きい音といった風だ。)イザベラによるとたまたま偶然落とした発信機がたまたま偶然前の席に座っていた少年にくっついたそうだ。本当に偶然なのか、その少年が追ってくるととわかってくっつけたのか男にはわからなかったが、そのことに関して質問するといつもイザベラははぐらかした。
『建物の中に入ったみたいけど――この練じゃないみたい。』
『本当か――?』
男は安心し、ポケットから笛を取り出した――
少し短かったかもしれませんがお許しください。
あぁあ、暫くでない予定なのでエラノールとオストルドが恋しくなりました・・・