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黙々・恋姫†無双  作者: TAPEt
黙々
6/54

三之奥黙

~之奥とは、尺の都合で二話にわかれたが前後編にするには釈然のしない内容に対してさっちゃんが勝手に付けた話の割り方である。

「……」


「ぁ……」


「……」


会議場。


そこにいるのは華琳さんと春蘭さん、桂花さんが居ました。


秋蘭さんは……


タッ


「華琳さま」


只今参りました。


「どうだったの、秋蘭?」


「…部屋におりました。ですが……」


「…会ってないの?」


「はい、私が行っても何も言えませんため、入っては居ません」


「そう…」


一刀ちゃんはその後部屋にいることがわかりました。


けど、部屋に誰か入ったら、姿を消して、戸を閉めればまた部屋の寝台の上で膝を集めて俯いている始末。


秋蘭さんは部屋の戸を開けることすらできず、そのまま帰ってきました。


「華琳さま、私が行ってあいつを引きずってきます」


「姉者、北郷の能力を忘れたのか?」


「む……」


自分が拒む対象には体を触ることを許さない。一刀ちゃんの能力はそれを可能にします。


春蘭さんが言っていることは、不可能でしょう。




「……」


ところで、こんな状況―重い空気が漂う華琳さまの姿―の理由がわからない一人がありました。桂花さんです。


一つや二つの疑問じゃないでしょうね。


あの子は一体何なのか?何故あのようなことができるのか?そもそも何故華琳さまはあのような妖術使いを自分の下においているのか。


そして何よりも解らないこと。


何故自分のことよりもあんな子供の問題でこんなに重苦しい空気がこの場を制しているのか。


元なら華琳さんたちは、これから山賊討伐のために向かわなければなりません。


なのに、たった子供一人が驚いて部屋に篭っていることで、全軍が出陣できていない。


「華琳さま」


そして、我慢できなくなった桂花さんが口を開けました。


「華琳さま、華琳さまはこれから、覇道を歩むお方。たかが子供一人にこだわっている必要はありません」


「黙れ、桂花!」


一瞬、平常心を失った秋蘭さんは桂花さんに怒鳴りました!


「お前が北郷の何がわかる!」


「確かに私はあの子については解らないわ。私が知っているのは、私が華琳さまのためにすることが、ここでこうして立っているだけで何もしないことではないということよ!」


「貴様!」


「秋蘭、寄せ」


珍しくきれてしまった秋蘭さんを春蘭さんが止める始末。


「……」


その中華琳さんは黙っていた。


そして、


「やめなさい、秋蘭……桂花のことは尤もよ」


「華琳さま」


「三人はこれから出陣を準備をなさい。私は一度一刀のところに行くわ」


「はっ」


「……御意」


「それと、桂花」


「はっ」


そして、桂花を呼んだ時、華琳さんの目は鋭くなっていました。


「私との約束が守れなかった場合、今の私と、一刀への侮辱、一緒に払ってもらうわよ」


「……はい」


そして、華琳さんは一刀の部屋に向かいました。


<pf>




一刀ちゃんにとって受け入れられなかったこと。


それは、自分が知らない華琳さんたちの姿があるっていうこと。


それが何だったのか一刀ちゃんには解らなくても、それが嫌だった。


「………」


…一刀ちゃん。


「!」


一刀ちゃんがいた場所は、他のところじゃなくて城の自分の部屋でした。


部屋には特に何もありません。


使うことがあまりにない寝台と、テーブルと椅子が二つ、棚が一つあるくらい。そこにも何もいません。


ここが空いた部屋だといっても信じるほど、ここには一刀ちゃんの匂いがまったくしません。


膝を集めて体育座りになったまま寝台の上でこっちを見ている一刀ちゃんの顔には、涙を流した後が二つありました。


「……」


人の違うところを認めることは、人としては必要な嗜みでありますけど、それができる人間は少ないでしょう。


ましてや、子供にできるはずもありません。


一刀ちゃんが知っていた華琳さんの優しい顔、厳しい顔、それでも自分のことを考えてくれている顔。


今日の華琳さんの顔はどっちでもありませんでした。


新しい顔。知りたくなかった顔。


【……】


何か言ってください………よ。


【……】


せめてあんな華琳さんは嫌だとか、あんな華琳さん見たくないとか、それとも……。


【……】







【ボクがいけないの】


………


<pf>



一刀ちゃんのお父さんとお母さんが一刀ちゃんが他の子たちと違う道を歩いたのは、一刀ちゃんが五才の時でした。


その時の一刀ちゃんは、まだ普通な子供でした。


いえ、普通な子供に見えた、というわけでしょうね。




ありふれた話です。


ありふれてたまる話ではないのですが、


公園で遊んでいた一刀ちゃんは、公園の他のおばさんたちを放していたお母さんの目から離れ、道路へと向かいました。


そして、


ギギギィィィーー!!!


そこで車は止まりました。


でもいきなり出てきた一刀ちゃんの寸前で止まるという奇跡はあらず、


誰か勇敢な大学生が自分の身を投げて子供を助けるという奇跡もあらず、


「一刀!かずとおおおお!!!」




一刀ちゃんのお父さんは、母としての責任を疎かにした妻を叱咤しました。


車にぶつかった一刀ちゃんは重患者室で目を覚まさず。


一ヶ月、二ヶ月、半年が経って、子供を入院させることによって家に金銭的問題が起こり始め、夫婦の間では喧嘩がない日がなくなりました。


そして、一刀ちゃんが気を失ったまま一年が経つ頃、お父さんとお母さんは離婚することになりました。いいえ、どっちかと言うとお父さんの一方的は宣告でした。


その後、お母さんだけが一人で一刀ちゃんを看護しました。




一刀ちゃんのお母さんが一人になって一週間過ぎる頃、病院では大変なことが起こっていました。


重患者室の一刀ちゃんがいなくなっていたのです。


徹夜していた看護師急いで担当のお医者さんに、お医者さんは急いで家で寝ていたお母さんに電話しました。


電話を受けているお母さんの顔は驚きに満ちていました。


けど、それは病院から一刀ちゃんがいなくなったからではありませんでした。


そのいなくなった一刀ちゃんが、自分の側に寝ていたからでした。




事故から一年後、一刀ちゃんはようやく起きていました。


でも、一刀ちゃんは何も話しません。


お医者さんの言うとおり、事故によって脳に異常が起きたのか、解るはずもありませんが、


それより大変なことは、


一刀ちゃんが毎晩毎晩病院から消えてお母さんが寝ている寝台に現れるということでした。


次の日病院に戻しても、その夜には家に戻ってくる。


一人で来られる距離ではありませんでした。


バスで一時間、子供が一晩を歩いても辿り着くはずが無い距離。


そんなに遠く離れている家に、一刀ちゃんは毎晩毎晩来てました。




そんな一刀ちゃんを見て、お母さんが先ず思ったことは、不幸にも恐怖でした。


その頃、病院代と生活のために厳しい日々を過ごしていたお母さんに、お母さんとしての慈愛心はもうなくなっていたのでしょうか。


日々が続くほどお母さんは、何も言わずに、ありえないところから自分の側に現れている一刀ちゃんのことが怖くて怖くてしょうがなくなってきました。


最初からそういう人だったのか、厳しい日々と夫との別れという衝撃が彼女をそうさせてしまったのかは解りません。


二つだけ確かだったことは、一刀ちゃんは何も言えなくてもお母さんの言葉をいつも従ったってこと。


そして、そんなお母さんは一刀ちゃんと一緒にいることを拒んでしまったこと。


お母さんの肌の温もりが恋しかった頃の一刀ちゃんは、変な理由で早くもお母さんから距離を取らされてしまいました。





口も言わずとも、気づいたらいつの間にか側に現れる一刀ちゃんの仕草は、一刀ちゃんにとってはお母さんへの愛を求めた行為。


でも、お母さんはそんな一刀ちゃんから恐怖を感じ、やがては一刀ちゃんが自分の息子だということも忘れたのように扱いました。


それでも一刀ちゃんは、お母さんに依存しようとしました。


世界でたった一人、自分を守ってくれる人ですから。




お母さんが新しい家庭を作るまでは、少なくともそうだったかも知れません。



<pf>



【……】


最初から、そんな子はいなかったのように、皆もが一刀ちゃんを忘れてしまいました。


お母さんと一刀ちゃんを見捨てたお父さんも、再婚したお母さんも、皆変わってしまいました。


結局、親を失った一刀ちゃんは都立の保育院に任されるようになりました。


急にどこかの優しい人の養子になってもらうという奇跡もあらず、


その後、通った小学校でとてもいい先生に出会って、その後一刀ちゃんの不幸な日々は報われたという奇跡もあらず、


いなくなったお父さんや、それともお母さんが戻ってくるという奇跡もあらず、




一刀ちゃんはそう生きてきました。


「………」


…ところで一刀ちゃん、これ、あなたのですよね?


「!!」


学校でのかばん。私が預かっておきました。


どすっと寝台に落とされた自分のかばんで、一刀ちゃんは急いで開きました。


入っているのは普通の教科書と筆記具と……


一刀ちゃんが、消えてしまったお母さんの部屋から見つけた写真一つ。


他は全部燃やされていました。運良く家具の後ろに入って見つからなかった写真。


お父さんとお母さんと一緒に取った写真。


「……(ぽたぽた)」


皆変わってしまったのに、


お父さんも、お母さんも、


なのに写真だけは変わらずに残っていて、


それがもっと昔を恋しくさせてしまって、




一刀ちゃんは久しぶりに見たその写真を見ながら、ぽたぽたと涙を落としていました。




一体一刀ちゃんの何がいけなかったというのですか?


事故も、あんなことができるようになったのも、一刀ちゃんのせいではありません。


一刀ちゃんが親たちを困らせようとわざと車に飛び込んだわけでも、お母さんを怖がらせようと毎晩家に来たわけでもありません。


なのに、


一体一刀ちゃん、あなたの何がいけないというのですか?




コンコン


!!


<pf>


「一刀、私よ。入ってもいいかしら」


華琳さん、来ましたね。どうしますか?


「……」


写真とかばんを隠して、てててっと歩いて戸を開けるその動作には何の躊躇いも見えませんでした。


けどそれは、全ての状況を自分の悪さとして追い詰めた上にできた行動。


自分の手で自分を苦しめること。決していいことではありません。


がらり


「……」


「ありがとう」


華琳さんは中に入って椅子に座り、一刀ちゃんも反対側の椅子に座りました。


私がお茶を……あ、淹れませんね。黙って聞いていましょう。


「一刀」


「……」


「私は、これから半月ぐらい城を出て行くわ。春蘭と秋蘭も一緒にね」


「!!」


正面で華琳さんを見れずに俯いていた一刀ちゃんが驚いたように華琳さんを見ました。


「少し離れたところに、盗賊たちがいるという報告が入ったわ。私たちはその盗賊たちを討伐するために行くの。朝の時は、それのことで担当の人と話をしていたの」


「……」


「…怖かったのね」


「……(コクッ)」


『いつもと、違った。本気って感じで』


「そうね。…確かにそれは最初は本気で怒っていたけれど……一刀、前にあなたが言ったよね。自分のせいで両親たちが変わってしまったって」


「……(コクッ)」


頷いた一刀に向かって、華琳さんは椅子から立って、座っている一刀の前に立ちました。


「あなたのお父さんとお母さんが変わったことは、あなたのせいではないわ。あなたが関係ないとも言えないけどね」


「……」


「でも、少なくとも私には、あなたのことが必要なの」


「……??」


「一刀、私はね。これからもたくさんの戦場に立たなければならない。たくさん戦って、たくさんの人を殺すことになるでしょうよ。そうなったら、私の心は少しずつ、荒んでいくでしょう」


「……」


「でも、あなたが私を笑顔のままに見ていてくれれば、私は今のこうしてあなたが見ている私で残っていられるわ。秋蘭や春蘭たちもね」


「……」


「……」


そこまで言った華琳さんは、スッと手を伸ばして一刀ちゃんの頭を狙いました。


「…(ぴくっ)」


少しぴくっとした一刀ちゃんでしたが、消える様子はいませんでした。


「私もね。いつもあなたの前では優しいお姉さんであって欲しいわ。けど、状況がそれを許さない。だから、一刀が少しだけ苦労をして頂戴」


「……<<なでなで>>」」


撫でられるままぼんやりと華琳さんを見ていた一刀ちゃんは、






「あっ!」



<pf>



一瞬自分のの視野から消えたことに華琳さんはびっくりしましたけど、


スッ


直ぐにまた現れて、華琳さんの側に立っている一刀ちゃんでした。


布団においてあった竹簡をとろうとしただけです。


『一ヶ月もいないの?』


「…ええ」


『ボクは?』


「危ないから、ここに残っていなさい。ずっと歩かないといけないから、疲れるわよ」


『その間は一緒に寝られない?』


「………侍女の誰かに言っておくからそれで我慢なさい」


『………嫌』


「私にわがまま言うつもりなの?」


『一人で寝る』


「っ、そ、そう……」


『それと、』


「何?」


『我儘、言っていい?』


「……今回だけは私が悪かったから、許容範囲のうちならいいでしょう」


「……」


それを言われた一刀ちゃんは竹簡をおいといて、華琳さんに向かって両腕を開きました。


「……な、何?」


「??」


解らないの?って顔で腕を上下に振る一刀ちゃん。結局また竹簡に何かを書き込むかと思ったら……


「なっ!」


……ぷっ




<pf>







『抱っこ』







<pf>




「春蘭!秋蘭!」


「「はっ!」」


「準備はできたかしら」


「はっ、全軍準備完了しました」


「そう、なら直ぐに行くわよ。遅れた分もっと強行軍になるから、全員覚悟しておくように」


「華琳さま」


「何かしら、秋蘭」


「その…北郷のことは…」


「もう大丈夫よ。安心なさい」


「そうですか……」


「悪いけどあわせる時間はないわ。帰ってきたからになさい」


「御意」


「全員、出陣!」




「……」


「華琳さま、どこか具合でも悪いのですか??少し顔が赤いのですが……」


「だ、大丈夫よ、桂花」



<pf>



まぁ…そういう華琳さんも新鮮でしたね。


「……」


しかしまぁ、我儘としては随分安かったんじゃありません?『毎晩一緒に寝る関係』としては


【そんなことないよ?一度してもらいたかったから】


まぁ、私が関係することではないですね。


しかし、直ぐに機嫌直しましたね。一刀ちゃん。


【だって嬉しかったんだもん】


華琳さんが必要としてくれるのですか?


「(こくっ)」


利用され易い性格ですね…いや、失礼。


それよりもう寝ましょう。当分間は一人寝ですね。


【さっちゃんは?】


僕ですか?…とまぁ、構いませんけど、一緒に寝るっていう感じはしませんよ?



・・・


・・








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