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黙々・恋姫†無双  作者: TAPEt
虚々
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ニ黙

戻ってきた場所。

でも、変わったものでも、変えられないものがあった。

どうせ無駄だったというわけだ。

中庭、いつもなら警備隊仕事で忙しいはずの警備隊隊長凪は、今日は特別な任務をもらっていた。

それは、戻ってきた一刀ちゃんの武芸のテストである。


「はぁぁぁああああー!!」

「!!」


華琳の命令で一応「手加減なし」で攻めている凪の攻撃(武装無し)を、素手の一刀ちゃんは柔術でうまく躱していた。


「へー、中々やるじゃない」

「驚きですね。まさか北郷があそこまでやれるようになったとは……一体、紗江はどんな訓練をさせていたのでしょうか」

「ふん、あの程度の出来なくて華琳さまのお側に居られるものか」


庭では華琳と春蘭、秋蘭がそれを見ていた。他の人たちは各々の仕事で忙しい。

でも、その忙しい中でも来ている人が一人居た。


「少女は武芸には心得なありませんけど、凪君の攻撃をあんな風に躱せるようでしたら、一刀ちゃんも中々素晴らしいですね」

「はぁ、何言ってるんだ、貴様。貴様が教えたのだろ?」

「違うぞ、姉者。彼女は司馬懿の方の紗江で、北郷と一緒にいた紗江とは別人だ」

「うん?どういうことだ?」


何故か司馬懿(本人)が居た。

さっちゃんは現在、術が収まるまで休眠(?)状態に入っている。


司馬懿がここに居るのはほんの偶然であった。

さっちゃんのおかげで身体の調子が大分よくなった司馬懿は、久しぶりに(本当に久しぶりであった)街に出かけようと部屋から出た。

そこで、途中凪に会って中庭で一人ちゃんと対練があると言うことを聞いて、散歩兼して凪と一緒にここまで来たのである。


「あの、華琳さま、今どっちの方が有利なのでしょうか」

「有利も何もないわ。大体凪は手加減にしているもの」

「そうなのですか?」

「当たり前でしょ?彼女が警備隊の子たちの中で一番武芸に心得があるわ。力のみでは季衣や流琉には劣るとしても、立派な一将よ。普通の才では勝てないわ」

「そうなのですか……」


確かに、凪は手加減をしていた。

華琳にはちゃんと手加減なしと言われていたが、彼女が一刀ちゃん相手に気を抜けないはずもなければ、一刀ちゃんはそれほどの力を持っているわけでも……


<pf>


「!!」


シュバッ!


「えぅぐっ!!」

「!」

「北郷!」


といった側から突然凪が投げた気弾に対応出来なかった一刀ちゃんは、何回か地面を転んだ。


「!一刀!」


気弾を使った本人も一瞬しまったって顔になり、もちろん他に見ていた人たちも驚愕した。


「一刀ちゃん!」

「おい、凪!北郷など相手に気弾を打つとはどういうことだ!」

「も、申し訳ありません!」

「……」

「あいたたた………」


そんな光景をじっと見ていた華琳は、


「なるほどね……凪が気を使わなければ勝てない、そう判断したわけね」

「……申し訳ありません。押されていたのでつい反射的に使ってしまいました」

「北郷、大丈夫か?」

「うん、大丈夫。あすっ…!」

「あ」


秋蘭が慌てて一刀ちゃんに行ったら、転んだせいで一刀ちゃんは腕や膝に掠り傷が出来ていた。


「一刀、大丈夫?本当にごめん」

「大丈夫だよ。これぐらい……」

「あの、直ぐに薬を持ってきます」

「いや、その必要はない」


薬を探しに行こうとする紗江を止めた秋蘭は、先対練を見ていた東屋の後ろから薬箱を持ってきた。


「流石秋蘭ね、事前に準備しておいたのね」

「こんなことも起きるだろうと思ってましたので……」


薬箱を持って一刀ちゃんのところに戻ってきた秋蘭は、


「北郷、傷を見せてみろ」

「う、うん」


一刀ちゃんは長磯での上着を脱いで、ズボンも傷ついた膝のところまで巻き上げた。


「ほら、じっとしてろ」

「うっ、しびれる……」


消毒薬を塗ってしびれるのか、一刀ちゃんはちょっと痛いような顔をしながらも我慢していた。


「まぁ、このぐらいは予想していたところね。というよりは、凪が苦戦したことがより予想外だったかしら」

「凪君、苦戦してたのですか?」

「はい、多分、今の一刀なら沙和当たりと合わせても負けないぐらいはあると思います」

「すごいですね」

「確かに、私たちと離れていた間、遊んでばかりいたわけではなさそうね」


華琳たちがそんな関心していたら、秋蘭の治療が終わっていた。


「ありがとう、秋蘭お姉ちゃん」

「礼を言われるほどでもない」

「一刀」


華琳に呼ばれて一刀ちゃんは立って華琳の方に行った。


「予想以上だったわ。良く頑張ったわね」

「うん、ありがとう」

「ところで、どうかしら。あなただけ良ければ凪たちの警備隊の仕事を手伝ってほしいのだけれど」

「!華琳さま、それは……」


華琳の話を聞いて一番先に反応したのは秋蘭だった。


「あら、秋蘭。あなたは反対?」

「はい、いくら並以上の武があっても、北郷はそのようなことをするためにここにいるわけではありません」

「別に戦争で将として扱うとかそういうものではないわ。ただ、最近凪が他の二人が手に負えないようだったから助け人を付けてあげようかと思ってね。凪はどう思うかしら」

「…最近仕事が忙しいのは事実です。ですが、警備の仕事はどこで突発的に事故が起きるかわかりません。私としては一刀にはそういうことはさせたくありません」

「ボクなら大丈夫だよ」


凪も好まない様子だったが、一刀ちゃんが本人からいいといってきた。


「……ボクも何か手伝えることがあったら手伝いたいの。以前は何も出来なかったけど……邪魔にはならないから手伝わせて」

「いや、幾ら一刀がある程度力があると言っても危ないことには変わりない」

「大丈夫だよ、昔でもいつも街でふらふらしてたから……それとも、やっぱりボクがいると仕事に邪魔かな」

「い、いや、そんなことはない……」

「良いのではありませんか」


凪が困った様子をしていたら司馬懿がそう言った。


「紗江さま?しかし……」

「凪君は最近外の警邏と内での警備隊の政務を同時にやっていて疲れが溜まっていると真桜君と沙和君が言っていました。そのうち、あなたが過労で倒れたという知らせを聞くことになるかもしれません。少女としてはそのような事態は避けたいです」

「私のことは大丈夫です。この事とは関係が……」

「ありますわ。それに、これはあなたの友たちとしての忠告ですが、来る人材を拒むのは良い判断ではありませんよ」

「ぁ……」


前上官である司馬懿にそこまで言われては、さすが凪もそれ以上断ることは出来なかった。

別に司馬懿が追い打ちをかけなくても、後で一刀ちゃんが涙でも潤っていたら仕方なく許すしかなかったのだが……


<pf>


「というわけで、今日から一刀が我々の警備仕事を手伝ってくれることに……」

「わーい、一刀ちゃんと一緒に街で服買えるのー!」

「ちょっ、沙和。一人占めするつもりなん」

「お前ら人の話聞けー!!」


警備隊はいつも通りであった。


「沙和お姉ちゃん、真桜お姉ちゃん、今日からはボク遊びに来たんじゃないんだから、ちゃんと仕事もしないと駄目だよ」

「うん、一刀ちゃんと一緒なら仕事もちゃんとやるの」

「ええな。一刀ちゃんと一日中一緒に居られたらー」

「あ……あはは……」


あまりちゃんと仕事をしそうにない二人を見て一刀ちゃんは苦笑した。



<pf>



>>左慈と紗江の会話



――それで、一刀ちゃんは警備隊で働くことになったのですか?


「はい……行けなかったのでしょうか。少女が凪君を説得したことで、一刀ちゃんを危険に晒すはめになるかも知れません」


――結構です。自分の身を守るほどの術を教えたつもりですし、持っている能力を活かさないことは良くありませんからね。華琳さまも自分の考えがあってそうなさったのでしょう。


「それにしても、凪君は本当に一刀ちゃんのことが好きなようです。一度引き受けてからはずっと顔がヘラヘラしていました」


――ふふふっ、まぁ、凪君になら一刀ちゃんを任せますから。ボクはもう少し寝ることにします。教えてくれてありがとうございます。


「いいえ、こちらこそ起してしまってもうしわけありません」


――……あのぉ


「はい?」


――後で、少し見に行って頂けるでしょうか


「……うふふっ、分かりました」


<pf>


一方警備隊では、朝警邏の前に一番重要な仕事をしようとしていた。


「一刀ちゃんと誰が一緒に警邏に出るのかきめるの」

「籤引き準備できたよ」

「はやっ!」


一刀ちゃんは知っていた。この三人が自分を連れてこうと争うと最終的には自分にきめさせるハメになると、そしたら自分はどっちを選んでも損しかない。

となると、ここは天(?)に全てを委ねるべく籤引きを引くしか方法はないのだ。

この一刀ちゃん、成長してやがる。


「箱の中に当たり一つ外れ二つあるよ。誰が最初に引く?」

「「沙和が」「ウチ」」


ちなみに籤は最初に引いてもあとで引いても確率は同じである。


「じゃあ、初めて言った沙和お姉ちゃんから、はい」

「やったー、沙和が当たりを引いたら他の皆引く必要もなくそこで試合終了~」


と、言いながら沙和は暗い箱の中に手を入れて小さい竹簡を取り出した。


『当たり』

と黒い墨で書いてあった。


「やったー!沙和が当たりなの」

「嘘やろ……ここで一番に引いて当たりってないやろう……」


うれしさと悲しみが交差するこの瞬間、もう一つの感情があった。


「……沙和お姉ちゃん」

「うん、何、一刀ちゃん?」

「ボクが入れた当たりの竹簡は、文字が赤色なんだ」


人はその感情を失望という。


「…………沙和」

「あ、あはは、ま、真桜ちゃん落ち着くの」

「アカン、そらアカンで。ルール違反や」

「ちょ、ちょっとした出来心だったの。先一刀ちゃんがあっちで籤を作るのを見たから……」

「……沙和お姉ちゃん……」

「ご、ごめんなさい一刀ちゃん!だからそんな目で見ないでー(涙)」


子供から一度なくなった信頼を取り戻すことは難しいものだ。


「じゃあ、今度はウチが」

「………(じー)」

「…な、何や。何でそんな目で見るん?」

「別にー……はい」

「じゃ、じゃあ、引くでー」


・・・


・・




一刻後、一刀ちゃんは凪と一緒に警邏を回っていた。


「何で皆普通に籤を引かないんだろう。中身最初から当たりしか入ってなかったのに」

「え、そうだったのか?」


当たりの文字は実は墨で書いてあった。

沙和のがバレたのは、文字の書き方が違ったからであって、真桜は一刀ちゃんの二段構えにまんまと引っかかった。


「だって引いたのにハズレだったらがっかりするじゃない。だから、そうすると最初に引いた人勝ちにしようかなと思って。どうせ後からは順番になるはずだったから」


ちなみにふたりとも詐欺罪で一週間一刀ちゃんと一緒に警邏に出る資格を失った。因果応報である。


「でも、結局当たらなかったらどっちでもがっかりなのは同じだったかな。という意味ではお姉ちゃんたちってそこまでするんだってちょっと驚いたよ」

「………」


もし自分が最初に引いていたら自分だってそうしただろう、と凪は思っていたが口には出さなかった。

大体自分の番まで回ってくるとも思わなかったのに、二人が騙そうとしたおかげで凪の番まで回ってきたのであった。


「凪お姉ちゃん?」

「な、何でもない。それより行くぞ」

「うん、でも、何かこうなるとボクが来て仕事に邪魔になったみたいだね。沙和お姉ちゃんたちのやる気失ったし。何かごめんなさい」

「……わ、私がやる気出すから大丈夫」

「うん、そうだね。ボクもお姉ちゃんたちの分まで頑張るから」

「………」


<pf>


「うぇーーー」

「はぁ………」

「ふふっ、それで二人ともこんなところでまたサボっているのですか?」

「だって……」

「だっても何もありませんわよ。お二人が悪いのですからへこんでいる筋合いはないのではありませんよ?」


街の東側あるお茶店、一刀ちゃんを探しに出た紗江は露天に出ているテーブルでへばっている二人を見つけたのであった。


「騙された………一刀ちゃんに騙されたやで……」

「あ、そういえば、一刀ちゃんったら最初から真桜ちゃんがまた偽の籤作るだろうと予想して沙和の時「赤の文字に書いた」って言ったの」

「二人とももう少し上手な騙し方を心得た方が良いですね。まぁ、一刀ちゃんはちゃんとやってくれているようで何よりです」

「うぅぅ……仕事したくないの」

「でも、ここでサボっとったら後で一刀ちゃんにホンマ嫌われるで」

「うぅぅ………」

「あら、あら、困りましたね……ここは一つ、前警備隊隊長として一肌脱ぎましょう」

「紗江ちゃん?」

「はい、はい、二人とも立ちなさい。警邏に回りますわよ」

「大丈夫なの?歩いても」

「もう、皆に病人扱いされるのも飽きましたからね。はい、二人とも行きましょう。もし私が一人で道に迷ってしまったら、お二人のせいですからね」

「あ、ちょっと紗江待ってや!」


紗江は皆より年下であった。

姉妹なく親とだけ生きていたこの純白な少女に、このようなだらだらとした性格のお姉ちゃんたちは凄く助け甲斐というものがあった。


・・・


・・










「華琳さま、北郷に警備隊の仕事を手伝うようにおっしゃったのは本当ですか?」

「ええ、本当よ?」

「私は反対です!ただ街を警邏するだけだと言っても、危険すぎます!」

「落ち着きなさい、桂花。凪たちもいるし、別にあの子一人で街を出歩くようにするつもりもないわ」

「ですが……」

「それに、帰ってきたあの子には悪いけど、今は戦争の準備中よ。それも一刀が見たことのない大戦争。あの子に惑わされている暇はないの」

「!!」

「…他に言うことは?」

「……呉からの間者が戻ってきました。現在孫呉は呉の以前の地を取り戻し、力を蓄えつつあります。これ以上大きくなる前に華琳さまの望むような戦いが出来ればもう曹魏に敵えるものはこの天下にいないでしょう」

「そう……期待しているわ」

「はっ」

「他には?」

「ありません」

「そう。じゃあ、戻ってもいいわ」

「……はっ」


がらり


「華琳さま………」


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