虚点フェイズ1 紗江黙
紗江フェイズです。
一刀ちゃんは出ません。
「さて、私たちも行こうかしら」
「はい」
一刀ちゃんと魏の全員が御殿から去った後、僕と華琳さまも華琳さまの部屋に向かいました。
「あ、あなたその手は……」
「僕の手がどうしたのです?」
「先………え?」
春蘭さんの剣に貫かれてとぼとぼと血を流していたはずの手は、そんなことはなかったのように傷一つもなく綺麗だった。
「どうやって……」
「詳細は場所を変えて説明いたしますわ。さあ、参りましょう」
「……ええ」
華琳さまは疑問に思いつつも、ここで話せるようなことではないというのを気付いて、先へと急いで足を運びました。
「……」
っ…
ああ、今は、今は駄目。もうちょっと……
<pf>
華琳さまの部屋に入った途端、身体の苦痛が身体中を走った。
「っっ!!」
「紗江!?」
倒れた僕を、華琳さまが支えてくれはしたが、身体を走る「死に至る苦痛」が身体の全神経を走っていました。
まだ安定してないところに無理矢理身体を動かしたのが行けなかったのだろうか。
最初に司馬懿の身体に取り憑く時のような痛みが再び走りました。
二度目だとしても、一度離れた身体に再び取り憑くのでうからまたこの痛みを耐えなければなりません。
最初の時にも、二週間は身体の痛みと司馬懿の過去を通る精神的な痛みで何も出来なかったのに、無理に動いたせいで更に悪化して…
「早く医者を……」
「結構ですわ。はぁ……はぁ…」
次の言葉が口から出て来ません。
痛い。痛くて痛くて、このぐらいなら死んだ方がマシだとまで思ってしまうほど痛い。
死んでしまいたいと思うほど痛い。
「華琳さま、華琳さま、僕のことを覚えですか?」
「何を言っているの?あなたのことを忘れるわけが……」
「違います!!」
「!?」
痛みが走って言葉の強弱の調節が難しいです。
「思い出して……約束、したじゃありませんか。この世の誰もが忘れるとしても、あなただけは僕のことを覚えていてくださると……あなただけは僕が何をしようとしたのか覚えていてくれるって約束したじゃありませんか……思い出して………お願い」
痛い。
分からない。
どうしてこの痛みを耐えなければなりませんの?
何故?
僕は何のために生きてゆく?
どうしてこんなに『生きる』ことに執着している?
……死んでもいいんじゃないの?
「紗江……紗江!死んだら駄目よ!紗江!さえー!!」
はっ!
行けない。ここで私がリタイアーしたら、一刀ちゃんは一人で戦うことになってしまう。そんな風には……
アレを使うしかない。
「華琳さま、これを……」
そうやって僕が懐から取り出したのは、ここに来る前に南華老仙からもらった太平要術書、
の、元本でした。
「太平要術書……?どうしてあなたがこれを……」
「……」
ああ、言葉が出てこない。早く、早くその本を触ってください。
「……」
私の目を見て意味が分かったのか、華琳さまはその本に手を近づけました。
華琳さまが本を手に触れる寸前に、僕はあまりの痛みに気絶してしまいましたけど。
<pf>
……ぅぅむ……
僕は……
「気がついたかしら」
「……華琳さま………!!」
次の瞬間、僕が驚いたことは
「どうして、僕は裸で華琳さまと同じ布団で並んでいるのでしょう。
「汗をかいていてね。熱そうだから脱いでやったわよ」
「それはありがとうございます。‥…あの、念のためお伺いしますが……僕の身体に手をつけたわけでは……」
「美味しかったわよ」
「自決します」
司馬懿、ごめんなさい、あなたの大切な身体を汚してしまいましたわ。
「冗談よ、冗談。患者なのにそんなことするわけないでしょう」
「そ、そうです…わよね」
「それに、私が抱きたいのは『あの子』であって、あなたじゃないわ」
「……記憶がお戻りになったのですね」
「ええ、おかげでね」
太平要術書の元本。
それにはこの外史の力を越える力が秘めている、管理者たちの中では伝説のような品物です。
南華老仙が信用できる何人かにそのレプリカを与えていますけど、元本よりは力が劣り、取り扱うことが難しいため下手をすると前に于吉から借りたものみたいにただの紙の積りなってしまいます。
けど、元本の場合、一言で言うとすごいチートアイテムで、その本を書いた南華老仙曰く、『使う者の意思を妖術に変える』だそうです。
つまり、願ったら大体叶うということです。はい、チートです。何か?
だけど、妖術は妖術なので、コストも厳しいですし、リバウンドの危険性もあります。
余程のことがない限り使いたくはなかったのですが、先は正気を保つことが不可能でしたのでつい使っちゃいました。
「あの、華琳さま、お体は大丈夫ですか?」
「人の身体の心配をしてる場合ではないはずよ。まだ痛いのでしょう?」
「……はい、死にたいぐらい」
他の存在に取り憑くことは、色々とリスクがあります。
人間が火傷で動物の皮膚組織を培養した皮膚を使って拒否反応を起こすことがあるみたいに、その器に合わない入れ物を強制的に詰め込んでいるため、最初の何日から何週は苦痛が全身を走り続けます。
けど、今は以前のように贅沢は言ってられませんから。
「華琳さま、取り敢えず、本当に申し訳ありません。僕のせいで、一刀ちゃんのことを……」
「……あの子が話せるようになったのは、あなたの仕業なの?」
「……原因の提供はしたと思われます」
「そう、…なら、あなたには感謝しなければならないわね」
「華琳さま?」
ふと華琳さまの顔をちゃんと見たら、華琳さま凄く安心したかのような顔で僕を見つめていました。
「あの子の顔を初めて見たとき、凄く驚いたわ。言葉が出来るようになって、そして、凄く成長したように見えたわ」
「そう、なのですか?」
「ええ、気づいていなかったの?まぁ、身体の方はまだ先が長いけどね」
これは僕の考えですけど、多分一刀ちゃんは遺伝的な問題で16歳まで背が低いわけではないと思います。
あの子は自分があの外史と外史の隙間で六年を生きたと思ってますけど、実際身体はこの外史の時間と成長をあわせていたのです。
だから、一刀ちゃんの身体は実は今11歳しかないんです。
よかったね、一刀ちゃん。
「詳しく教えなさい。あなたと一刀、一年間何があったか」
「えっと……実際は六年なんですけどね」
「……え?」
「…話すと長くなりますけど、取り敢えず、簡単なことだけ話します」
ここでどんなことを言ったのかまで詳しく入ってしまうと話が長くなりますのでここではカット致します。
先ず、どうして消えたのかを全部話して、一刀ちゃんと六年間何があったかも全部教えました。
<pf>
話が大体終わったらもう夜が真ん中を過ぎる時間までなりました。
話を聞く間、華琳さまはあまり表情の変化はありませんでしたけど、二つだけ分かったことは、
一刀ちゃんが幸せに生きてくれてよかったと思う感情と、それと、
華琳さま自身がそこに居なくて、僕が一刀ちゃんの実のお姉ちゃんみたいにしていたことへの嫉妬?
「あの、華琳さま」
「何かしら」
「僕と一刀ちゃんがまたこの世界に来た理由がわかりますか?」
「……そうね、何故かしらね。そのままそこに居ると、一刀は幸せなまま居られたでしょうに」
それは叶えない夢というものですけど……
「華琳さまが袁紹を打ってから直ぐに孫策を打つという話を聞いたからです」
「……あなたも、そのことについて反対なのかしら」
「………良い手ではないと思います」
直線的には言えない。外史がそれを防ぐ。
また下手な真似をすると、以前のような運は訪れないだろう。
「そう……だけど、その話をするには、まだあなたの身体が弱すぎるわ。一刀もここに来てまた適応する時間が必要でしょうし、あなたが言った通り、一刀がどれだけ成長しただろうか試してみたくもなるしね」
「……あまり、危険なことはなさらないでくださいね」
「安心なさい。でも、そうね。結構長く待たせてくれたから、ちょっと意地悪になっちゃうかもよ」
「………」
これは、一刀ちゃんのことが心配ですね。
「ところで、紗江」
「はい、なんでしょう」
「身体はもう痛くないかしら」
「先よりは大分マシですけれど……」
「実は今日、秋蘭と一緒に寝るつもりだったんだけどね」
「……え?」
「あなたたちが来たおかげで駄目になったから、その責任はとってもらうわよ?」
「ええっ!?ちょ、ちょっと待ってください。それでしたら僕じゃなくて……」
「いいえ、邪魔をしたのは『あなた』でしょ?」
「か、身体は、あの子の身体ですわよ?」
「いいじゃない。あの子だって喜ぶはずだし」
「ちょっ、ちょっと待ってください。僕にはそっち系の趣味は………」
人の心配するところではありませんでしたー!!