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其の一

「かえで~! がんばれ!!」

 なぎなたの打撃音とともに気合いと応援の声が響くここは市内の体育館。

 今日は、西園寺かえでの所属するなぎなた部の新人戦地方大会の日である。

 新人戦とは、今年入部した新入生が、他校の者と初めて一戦を交える行う事ができる大会である。

 ただ、この大会は新人の初陣を飾るためのものではなく、優勝を手中に収めた者とその者が所属する学校には後の大会でのシード権を付されている。そのためか、各校は新人の中でも選りすぐりの精鋭を送り出していて、試合会場は、否が応にも熱気で満ちあふれていた。

 そして、大会もクライマックスを迎え、一試合を残すのみとなった。頂点を決める決勝戦である。

「かえではん! 落ち着いて行きや!」

「西園寺さん、がんばって!」

 応援席から大きな声援を受けて、赤の開始位置に立ったのは、桜ヶ丘高校なぎなた部一年、西園寺かえでである。

 かえでは、高い背丈から繰り出される大きくかつ正確さを兼ね備えたなぎなた捌きと技の完成度が注目されていて、この大会では優勝候補の筆頭と噂されていた。

 緊張気味に立つかえでと相対するのは、かえでとは対照的に小柄ながらも今大会一、二を争うほどのスピードと技のキレを持ち、優勝候補の一人であった。この二人が相まみえるのは今大会が初めてではない。いわゆる中学時代からのライバル同士である。

(あー、またこの人だ。私苦手だな……)

 と、つい心の中でこぼしてしまうほどかえでは、この小柄な相手を苦手としている。彼女のスピードに翻弄され、あっという間に有効打を取られているからである。かえでにとって、いまだ勝った事がない相手なのである。もっともかえでの身長を生かせば、勝てない相手ではないのだが、どうしても越えられない壁であった。

「かえで! いつも通りやれよ!」

「せや! かえではん。いつものようにやで!」

「西園寺さん! 大きくなぎなたを使って、落ち着いて!」

 決勝戦とあって、幼馴染で同級生の中村竜太、同級生の北条剣二、先輩の東堂しのぶの応援する声も力が入る。

(そう簡単にできれば良いのだけど――この人すばしっこいし、何か嫌なのよね)

 苦手意識は、簡単に払拭できるものではない。そんな気持ちを抱きつつかえでは開始線に立つ。

「始め!」

 決勝戦が始まった。応援するものは開始前とは違い、固唾を呑んで戦況を見守る。会場は今二人だけの戦いの場である。

「いやぁー!」

「たぁー!」

 かえでの得意技の側面打ちで、大きく弧を描くようになぎなたを相手に向かって振り下ろすが、相手は切先で受け止め、その力を利用してかえでの体勢をすばやく崩し、懐に飛び込んでくる。

 かえでは辛うじて払いのけ、間合いを取りつつ相手のすねを狙うが、相手は寸前で飛び上がり、かえでの切先を交わしながら、今度はかえでのすねを狙う。

 まさにスピードとを技のぶつかり合いで、勝負は一進一退である。

(もう! 本当にちょこちょことうっとうしいわ!)

 少し苛立ち始めるかえで。微妙な心理が、冷静さを失わせ、技のキレが無くなり大振りになってきた。

「西園寺さんの試合運びは、とても上手なのに――どうして、そこだけ打たないのかしら」

 かえでの試合をつぶさに見ていたしのぶが、ふとつぶやいた。

「え? そこだけって、どういう事ですか?」

 竜太と剣二はしのぶの言う意味が解らない。

「そうね、二人ともこの試合の西園寺さんの動きを見ていたら解ると思うけど、何故か彼女はある部位だけ打たないの――いいえ、打てないのかしら? そこを打てば有効打を取れるはずなのに」

 しのぶの言葉は、この試合が終焉を迎えるときに証明される事になる。

 苛立つ気持ちを抱えつつ、かえでは繰り返し自分の得意技の側面打ちを相手に繰り出し、攻撃の手を休めない。すると、胴への合わせ技を切先で受けた相手は、一瞬バランスを崩し、上半身が無防備となった。

「うまい!」

「そこだ!」

「打つのよ!」

 応援する三人は、かえでの有効打を確信して思わず手に力が入る。そこに面打ちを繰り出せば、明らかに有効打を取れる場面であった。

 しかし、かえでは一瞬技を出すのをためらうそぶりをし、絶好のタイミングを逃してしまう。慌てて苦し紛れの小手打ちにいくが、相手はかえでが一瞬止まったのを見逃さず、小手打ちにきたかえでの切先を自らの切先に絡めて大きくひざ下から頭上に円を描くように払った。かえでの持ち手はそのまま相手の切先と一緒に回り、かえでの上半身ががら空きとなってしまった。そこに待ってたかのように相手の打撃が、かえでの胴を襲った。

「胴!」

(ああ! しまった!)

「胴あり!」 

 審判は一斉に相手の白旗を挙げる。かえでにとって痛すぎる一本である。 そして、そこで審判が試合終了を宣告し、試合が終った。

 かえでは、またもこの相手を越えられなかった。


「東堂先輩、北条くんに竜太。本当にみんなごめんなさい。せっかく応援してもらったのに……」

 半べそをかきながら謝るかえで。皆は首を振り慰める。

「西園寺さん。今回は残念だったけど、勝負は時の運よ。次こそ頑張ればいいじゃない。試合内容はあなたの方が良かったわよ」

「そうや、かえではん。何も謝る事はないわ。もうちょっとやったで」

「まあ、あと一歩で勝てそうだったから、次でリベンジだな」

 かえでは、みんなの慰め、励ましを受けて、張っていた気持ちが緩み、大きな瞳からぽろぽろと涙がこぼれた。

(解っているの勝てないわけは……。本当にあと少しで勝てそうなのに、越えられなかった。何回も挑戦しているのに……)

 悔しさと哀しさが、かえでの胸を締めつける。皆は、静かにかえでを見守っていた。


 ひとしきり泣いた事で、かえでは少しは気持ちが落ち着いた。竜太と剣二は、しのぶに促されて先に帰っていて、しのぶだけがかえでを見守っていてくれた。

「東堂先輩すみません。なんか迷惑をかけてしまって」

「いいのよ、気にしないで西園寺さん。悔しいときは我慢せずに気持ちを出すのが一番のクスリだから」

「ありがとうございます。先輩……」

 かえでの表情を見て、しのぶは軽くうなずいた。そして、少し間を置いてからゆっくりと話を続けた。 

「西園寺さん、落ち着いたと思うから少し聞いてみようと思うのだけど――あっ、答えたくなかったら答えなくてもいいから」

「大丈夫です先輩。何でしょう?」

「実はね、今日の決勝戦での西園寺さんの試合運びでちょっと気になったものだから。そう、試合時間が終わる間際に西園寺さんに決定的なチャンスがあった時の事だけど、どうしてあの時に面打ちしなかったのかなって思ったの」

 かえでは、しのぶの問いを聞いて、答えるのを少しためらった。そして言葉を選ぶようにゆっくりと答えた。

「……そうですね、実は私にも良く解らないんです。打ちたくても、打てなかったんです」

 しのぶは、かえでの答えを聞き、少し間をおいてから、もう一度かえでに尋ねた。

「じゃあ、西園寺さん。今日の相手の人以外の試合では面打ちをした事があるかしら?」

「はい、多分普通に打っています」

 しのぶは続ける。

「もしかして、西園寺さんは、小柄な人と対戦するのが苦手なの?」

「何かそうみたいです。小柄な人ほど打てなくなって――意識しないようにしているのですけど」

「気を悪くしたらごめんなさいね。昔に小柄な人と面打ちで嫌な事があったのかしら?」

「それが――すみません」

 かえでは、答えを濁した。しのぶはそれを聞いて、質問をやめた。

「ごめんなさいね、西園寺さん。私、無理に聞き出そうとしたみたい」

「いいえ、東堂先輩すみません。心配していただいてありがとうございます。でもなかなか直せなくて」

 しばらくすると、かえでの家の近くまできた。しのぶはそこでかえでと別れた。別れる間際にしのぶは、

「西園寺さん。何でもそうだけど、苦手な事をいくつも持つと、これから大変だと思うの。だからいつでも私が相談に乗るから。こう見えても、少しだけなぎなた教わった事があるのよ」

 そう言ってもらったかえでは、胸が熱くなった。

「ありがとうございます。東堂先輩。また――本当にお願いします。」

「任せといて!」

 そう言ってしのぶは帰っていった。かえでは、しのぶの後姿を見送りながら申し訳なさそうにつぶやいた。

「東堂先輩。ごめんなさい。わけを話さなくて……」


(其の二に続く)

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