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 誰かを想う心などではなく、単に思考を止め「空気」に従っているだけの冷え切った停滞に彼女たち三人には映った。顔を見合わせ、彼女たちはうなずき合う。驚くほど軽やかに。北上を進めていこうとする桜前線基地の空気は一変した。思考は動き出し、議論も活発となる。


 各地では、杉や檜による花粉攻撃が連日のように激しく行われ、桜前線基地の進行を邪魔している。単発的なイベントも行っているものの、なかなか地方の有力者たちを取り込むところまでには至っていない。時間は限られている。もたもたしていたのでは梅雨の前線が張り巡らされ、その雨に乗じてチーム紫陽花が総攻撃をかけてくるかもしれない。向日葵と朝顔が連合を組んでくるといったこともあるかもしれない。


 止まってはいられない。大人たちが過去という重力に魂を縛られ、彼らが言うところの「正解」を押しつけ合っている一方で、少なくとも彼女たち三人は、その引力圏の向こう側を見つめている。


 本来、人間とは忘れる生きものだ。それは欠陥などではなく、絶望のなかで立ち止まらないための生命としての知恵であるはず。すべての痛みを、すべての負債を、一瞬たりとも忘れずに抱え続けることなんて、誰にもできない。人は忘れる。忘れるからこそ、心を癒やし、また新しく笑うことができる。過去の重みを少しずつ手放し、時間が経てばまた笑う。


「桜を愛でることも必要だ」


「ええ。ほんとうに」


「わたしも、それは、そう思う」


 三人は、互いの顔を見つめ合い、そして笑った。


 桜前線を破壊する。自然のリズムを否定して、思考を止めたまま昨日と同じ今日を生き続けることに、いったいなんの意味があるのだろう。


「もういいんだ。人は忘れていいんだ」


「忘れながら、進むものですから」


「きっと大丈夫だよね」


 過去の重荷を下ろし、過去の因縁を置いていく。三人の背中を追うように、桜前線も進行を続けていく。そこにはきっと、名前も、日付もついていない、ただ眩しいだけの未来という光が広がっているはず。





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