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 カレーライスという言葉を知るより先にカレーライスを食べていた。からあげという言葉が頭のなかに入り込んでくるよりも前にからあげを食べていた。好きとはそういうこと。ミートソースのスパゲティも、鉄板の上でじゅうっとおいしそうな音を立てているハンバーグも、赤・白・緑の色合いが魅惑的なクリームソーダも、そして、桜についても。


「つまり、そういうことだ」


 ヤエがない胸を無理やり反らせ、尊大に言い放った。


「説明になってない」


 負けじとカワヅがそれに応じる。部屋の隅では、お茶をすすりながら微笑ましい表情でふたりのやり取りを見守っているヨシノの姿がある。


「ふっ。そもそも説明なぞ、するつもりもないが」


「じゃあ、この時間はなんだ? 意味がない」


「ふっ。そもそも我々が生きていることに意味などないが」


「あああああ、もういい」


「ふっ。そもそも…」


 この戦いの場を「こんなとこ」と言った者があったかもしれない。それはそうかもしれない。確かに、ある意味においては「こんなとこ」だ。しかし違う。ここはここで「こんなとこ」なんかではない。「こんな」なのは、ここにいる人たちのほう。つまり「こんなとこ」ではなく「こんなヤツら」ということだ。


「わかったかね」


 言うとヤエは、カワヅからの「わからーん」との言葉を無視するようにクリームソーダをグイと飲み干した。ひげを思わせるようについた緑の泡とアイスクリームを、ヤエは舌だけでてろんと舐めとった。


「さくらんぼがかわいそうじゃあないか。きちんと食べたらいいだろおおおお」


 カワヅが、ヤエに向かって言い放つ。


「ふっ。貴様は日替わりランチのサラダについてくるパセリをきちんと食べるのか?」


「う、いや、あれは…」


「食べるのか、と聞いている」


「た、食べない」


「つまり、そういうことだ」


「く、いまのは、なんとなく理解できた」


 クリームソーダの上で、真っ赤なさくらんぼがやけにさびしそうにしていた。





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