8.ヌギー襲来
次の日の朝。
「はぁ~……」
桃瀬こはるは、深いため息をついた。
ベッドの上に座り、昨日のことを思い出す。
「最悪……」
ぼそっとつぶやく。
変態紳士に逃げられるわ。
衣装は破けるわ。
戦いは決着つかないわ。
ポイントも入らない。
完全に戦い損だった。
「はぁ~……」
もう一度、大きなため息。
その横で、プルンがふわふわ浮いている。
「衣装は壊れたり紛失したら自腹プルン!」
追い打ちをかけるように言う。
「わかってるわよ!」
こはるは半分キレ気味に言った。
ベッドの横に置いてあるのは、昨日の戦闘で破れた魔法少女衣装。
ピンクフリルのスカート。
胸元はびりっと破れている。
縫い目も何箇所か裂けている。
「とりあえず……」
こはるは衣装を広げる。
「縫い目が裂けたところは縫い直しね」
ソーイングセットを取り出す。
針。
糸。
ハサミ。
慣れない手つきでチクチク縫い始める。
「うーん……」
しばらくして。
裂けた縫い目はなんとか直った。
問題は――
胸の部分。
「ここどうしようかな……」
破れた部分は大きい。
普通に縫うと変になる。
こはるは少し考えた。
「……あ」
ひらめく。
「当て布してアップリケにすればいいか」
こはるは布を取り出した。
ピンク色の布。
ハサミで形を整える。
丸く切る。
耳を作る。
縫う。
チクチク。
チクチク。
しばらくして。
完成。
こはるは衣装を広げた。
胸の部分には――
大きなうさぎの顔のアップリケが縫い付けられていた。
破れていた穴はきれいに塞がれている。
「……」
こはるは腕を組む。
少し角度を変えて見る。
「うん」
満足げにうなずいた。
「我ながら完璧!」
プルンが言う。
「かわいいプルン」
こはるは衣装を畳む。
「これでしばらくは大丈夫ね」
時計を見る。
「そろそろ引っ越しの荷物くるし」
「外で待ってるかな」
こはるは部屋を出た。
マンションの前。
朝の空気。
まだ人通りは少ない。
「引っ越しトラックまだかな」
そのとき。
背後から声がした。
「ヌギー!」
こはるが振り向く。
そこには――
黒い全身タイツ。
変なマスク。
戦闘員。
「ヌギー!」
「ヌギー!」
「ヌギー!」
次々に現れる。
気がつくと。
ぐるりと囲まれていた。
こはるは周囲を見回す。
「……」
ざっと数える。
「二十匹くらい?」
プルンが言う。
「ヌギー部隊プルン!」
こはるはため息をついた。
「朝から元気ね……」
戦闘員たちは一斉に叫ぶ。
「ヌギー!」
「ヌギー!」
「ヌギー!」
こはるはステッキを取り出した。
「しょうがない」
「へんしん!」
光が広がる。
服が宙に舞う。
体がくるくる回転する。
そして――
お尻が丸見えになる。
くるっ。
また回転。
やっぱりお尻。
光の中でピンクのフリル衣装が形成されていく。
そして完成。
魔法少女。
ピンクフリル。
戦闘員たちが叫ぶ。
「ヌギー!」
「ヌギー!」
「ヌギー!」
そして――
戦いが始まった。
「はあ!」
こはるがステッキを振る。
ぴかっ!
光弾が飛ぶ。
一匹のヌギーに直撃。
「ヌギー!」
戦闘員が転がる。
「よし!」
こはるは次の敵へ。
ぴかっ!
ぴかっ!
ぴかっ!
光弾が次々に飛ぶ。
ヌギーが吹き飛ぶ。
「ヌギー!」
「ヌギー!」
しかし数が多い。
四方から飛びかかってくる。
「ちょっと多い!」
こはるは蹴りを入れる。
ばしっ!
ヌギーが転がる。
さらに。
ぴかっ!
魔法弾。
「ヌギー!」
一匹、また一匹。
次々に倒れていく。
こはるはふと気づいた。
「あれ?」
「前より威力強くない?」
プルンが叫ぶ。
「武器強化の効果プルン!」
「1.2倍プルン!」
こはるは笑った。
「なるほど!」
ステッキを振る。
「ピンクフリル!」
「連続魔法!」
ぴかぴかぴかぴか!
光弾が連続で飛ぶ。
ヌギーたちは次々に吹き飛んだ。
数分後。
しーん。
地面には、そこかしこに倒れている戦闘員ヌギー。
「はぁ……」
こはるは肩で息をする。
戦闘が終わった途端、体の力が抜けた。
「朝からこれはきつい……」
プルンが嬉しそうに言う。
「すごかったプルン!」
「頑張ったプルン!」
こはるはステッキを軽く振る。
「まあね」
「昨日の強化のおかげかな」
プルンもうなずく。
「魔法の威力も上がってたプルン」
こはるは倒れているヌギーたちを見回した。
「しかし……」
「朝から二十匹は多くない?」
プルンは言う。
「ドレスティアも本気出してきたかもしれないプルン」
「やめてよ」
こはるは苦笑した。
「朝からそんなの困る」
そのとき。
遠くからエンジン音が聞こえてきた。
トラックの音だ。
「あ」
こはるが振り向く。
「もしかして引っ越しのトラック?」
プルンもそちらを見る。
「タイミングいいプルン」
角を曲がって、一台のトラックがやってきた。
引っ越し業者のロゴが見える。
こはるは手を振った。
「こっちでーす!」
トラックはゆっくりマンションの前に停まった。
運転席から作業員が降りてくる。
その様子を――
少し離れた場所から、みうが見ていた。
マンションの影に立ち、腕を組んでいる。
「ふーん」
小さくつぶやく。
「思ったより強いじゃん」
みうの視線の先では、こはるが作業員と話している。
さっきまで戦っていたとは思えないほど、普通の大学生の顔だった。
みうは少し笑う。
「魔法少女ピンクフリル……ね」
ポケットからスマホを取り出す。
短くメッセージを打つ。
『魔法少女確認。戦闘能力あり』
送信。
スマホをしまう。
「これは」
みうは楽しそうに笑った。
「ちょっと面白くなりそう」
そして何事もなかったかのように、マンションの入口へ歩き出した。
そのとき。
こはるは荷物の確認で忙しく、まったく気づいていなかった。
自分のすぐ近くに――
ドレスティア幹部がいることに。
そして。
静かに、次の戦いの準備が始まっていた。




