3.妖精プルンの説明
自宅に帰ってから。
桃瀬こはるは、腕を組んで目の前の生き物を見下ろしていた。
ついさっき、魔法少女に変身させられた原因。
白くて、丸くて、ふわふわしていて、手のひらサイズ。
そして当然のように部屋の中にいる。
というか、浮いている。
こはるは深く息を吸った。
そして言う。
「……で?」
白い生き物は、のんきにふよふよ浮いている。
「……」
こはるは指を突きつけた。
「あんた何?」
白い生き物は、きょとんとした顔をした。
まるで、何を聞かれているのか分からないという顔である。
それを見て、こはるのこめかみに青筋が浮いた。
「いやいやいや!」
こはるは一歩前に出る。
「名前とか!」
「状況とか!」
「なんで私の前に現れたとか!」
「私に何をさせたいのかとか!」
「報酬とか!」
「なんかあるでしょう!?」
一気にまくし立てた。
すると白い生き物は、ぽんと手を打った。
「あ、ああ~」
「そういえば何も説明してなかったプルン」
「遅い!」
こはるは即ツッコミを入れる。
白い生き物は胸を張った。
「僕の名前はプルンプルン!」
「語尾も?」
「語尾もプルン!」
「外せないの?」
「外せるプルン」
「じゃあ外して」
「でもこの世界では付けろって上に言われてるプルン」
「上って誰よ」
「妖精界プルン」
こはるは一度、目を閉じた。
深呼吸。
そして疲れた声で言う。
「……続けて」
プルンは気を取り直して説明を始めた。
「プルンは、こことは違う世界にある妖精界から来た妖精プルン」
「僕はこの地域の担当妖精になるプルン」
「担当?」
「そうプルン」
プルンは空中でくるくる回った。
「この世界には最近、本来いないはずのものが現れてるプルン」
「モンスターとか」
「怪人とか」
「悪の組織とか」
こはるが腕を組む。
「……つまり?」
プルンは言った。
「そういう存在と戦ってほしいプルン」
「魔法少女としてプルン」
「やだ」
即答だった。
プルンは固まる。
「早いプルン」
こはるはため息をついた。
「私は春から大学生」
「バイトしないと生活できない」
「時間がない」
「とにかく無理」
そして指を突きつける。
「それに!」
こはるは声を大きくした。
「魔法少女が似合うのは中学生までなの!」
プルンが瞬きをする。
こはるは続けた。
「高校生でギリ!」
「卒業したらもう限界!」
「というか無理!」
「私のメンタルが耐えられないの!」
力説である。
プルンは少し考えた。
「……それもそうだねプルン」
「でしょ?」
「でも説明まだ終わってないプルン」
「何よ」
プルンは姿勢を正した。
「モンスターとか怪人を倒すと、体から魔力みたいなものが出るプルン」
「魔力?」
「そうプルン」
プルンは続ける。
「それを回収すると、妖精界に送られるプルン」
「妖精界のエネルギーになるプルン」
こはるは眉をひそめた。
「エネルギー?」
プルンはうなずく。
「妖精界はね、昔は魔力がいっぱいあったプルン」
「でも今はだいぶ減ってるプルン」
「だからこうして魔力を回収してるプルン」
こはるは少し考えた。
「つまり」
「私は魔力回収係?」
プルンは少し考えてから言った。
「……だいたい合ってるプルン」
「ひどい!」
こはるがツッコむ。
プルンは慌てて続ける。
「でもちゃんと報酬あるプルン!」
「報酬?」
プルンは胸を張った。
「討伐ポイントシステムプルン!」
そして説明を始める。
「ヌギーを倒すと10ポイント」
「幹部で200ポイント」
「将軍で500ポイントプルン」
こはるが腕を組む。
「で?」
プルンは言った。
「10ポイントで一万円プルン」
こはるの目が変わった。
「……ほう」
「バイトいらないじゃん」
ぼそっと本音が漏れる。
プルンは続ける。
「50ポイントで衣装」
「100ポイントで武器強化」
そして。
プルンは胸を張った。
「300ポイントでおっぱいの微アップになるプルン!」
次の瞬間。
がしっ。
プルンの体がこはるの両手に捕まった。
「最後のところ」
こはるの目は真剣だった。
「もう一回」
プルンは少し驚いた。
「お、おっぱいをほんの少しだけ大きく出来るプルン」
「積み重ねればちゃんと大きくなるプルン」
こはるは黙った。
そして自分の胸を見る。
ぺたん。
……いや。
控えめとかじゃない。
現実だ。
こはるは真剣に考えた。
世界の平和。
妖精界のエネルギー。
悪の組織。
――どうでもいい。
こはるは顔を上げた。
「……わかった」
プルンが首をかしげる。
「本当プルン?」
こはるは拳を握った。
「世界の平和のために――」
少し間。
「(私の胸のために)」
そして宣言する。
「魔法少女、やってやるわ!」
プルンは嬉しそうに跳ねた。
「やる気出たプルン!」
こはるは天井を見上げた。
そして拳を握る。
「頑張れ、私」
小さくつぶやく。
「夢のAカップは――」
ぎゅっと拳を握る。
「すぐそこだ!」
プルンが元気よく言う。
「頑張るプルン!」
そして少し考えて言った。
「ちなみにプルン」
こはるが振り向く。
「何?」
プルンは言った。
「Aカップになるまで」
「だいたい1500ポイントくらい必要プルン」
こはるは固まった。
数秒の沈黙。
そして静かに言った。
「……ヌギー」
プルンが首をかしげる。
「?」
こはるはにっこり笑った。
「一匹残らず狩るわ」
その目は本気だった。
夢のAカップまで。
――あと150匹。
桃瀬こはるの魔法少女生活は、
こうして始まった。




