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13.小さな奇跡

部屋の床には布が広がっていた。


黒い布。

紫のリボン。

細いベルト。

レース。


そして――

こはるの魔法少女衣装の残骸。


夕方の柔らかな光がカーテンの隙間から差し込み、床に散らばる布やレースを淡く照らしている。


ワンルームの小さな部屋は、まるで裁縫工房のような状態になっていた。


「……」


桃瀬こはるは腕を組んで考え込んでいた。


床の中央に座り込み、材料を見つめる。


「また壊れた……」


深いため息。


プルンが横でふわふわ浮いている。


「戦闘だから仕方ないプルン」


「仕方ないけどさぁ……」


こはるはぼそっと言った。


「毎回自腹はきついのよ……」


大学生の一人暮らし。

決して余裕のある生活ではない。


魔法少女衣装の修理費など、本来なら存在しない出費だ。


こはるは机の上を見る。


そこには――

小悪魔怪人リリスティの装備の一部。


黒いリボン。

腕飾り。

腿リング。


小さな黒い装飾が、夕日を受けてほんのり光っている。


「これ……」


こはるはそれを手に取る。


「結構いい素材じゃない?」


プルンがうなずく。


「怪人装備は魔力が残ってるプルン」


「組み合わせれば強くなるプルン」


こはるの目がきらっと輝いた。


「……よし」


裁縫箱を開く。


針。

糸。

はさみ。


「やるしかないわね」


プルンが言う。


「また手縫いプルン?」


「お金ないから仕方ないの!」


こはるは布を広げた。


まずは元の衣装。


ピンクのフリル。


スカート部分はまだ使える。


「ここは残す」


フリルを指で整える。


ふわふわした布の感触が指先に伝わる。


次に黒い装備。


「小悪魔部分は……」


こはるは布を当ててみる。


胸元。

腰。

太もも。


鏡の前で軽く合わせる。


「……」


「これ、かなりエッチじゃない?」


プルンが言う。


「強そうプルン」


「強さ基準!?」


だが作業は続く。


針が動く。


チクチク。

チクチク。


静かな部屋に糸を引く音だけが響く。


フリルのスカートに黒いレースを追加。


腰には細いベルト。


胸元はリボンで固定。


さらに――


腕飾り。

左右に二つ。


「よし」


太もも。


リリスティの装備だった腿リングを装着。


そして。


網タイツ。


「……」


こはるはしばらく見つめる。


「これ」


「かなり小悪魔寄りじゃない?」


プルンが言う。


「魔法少女×小悪魔プルン」


さらに。


黒いリボン。


腰と胸に追加。


最後に。


長いヒールブーツ。


すべてを身につけて、こはるはゆっくり立ち上がった。


鏡の前に立つ。


「……」


そこに映るのは――

新しい魔法少女。


ピンクフリルのスカート。


だが上半身は小悪魔装備。


黒いリボン。

細いベルト。

露出の多いデザイン。


腕飾り。

腿リング。

網タイツ。

そしてヒールブーツ。


ピンクと黒が混ざった衣装。


魔法少女。


なのに――

かなり妖艶。


こはるはくるっと回る。


スカートがふわっと広がる。

黒レースが揺れる。


「……」


「うん」


「これは」


「結構いい!」


プルンが拍手する。


「完成プルン!」


こはるは満足げに腕を組んだ。


「よし出来た!」


達成感。


手縫いとは思えない仕上がりだ。


そして突然思い出す。


「そうだ」


「ねぇプルン」


プルンが振り向く。


「ポイントは?」


プルンが指を数える。


「えーとプルン」


「ヌギー20匹」


「200ポイント」


「幹部撃破」


「200ポイント」


こはるの目が大きくなる。


「つまり?」


プルンが言う。


「今回の合計」


「400ポイント!」


こはるが飛び上がる。


「おおおおお!!」


プルンが続ける。


「さらに」


「貯蓄100ポイント」


「合計」


「500ポイント!」


こはるの目が輝く。


「……」


「……」


「……」


そして叫ぶ。


「おおおおおおお!!」


「じゃあさ!」


「じゃあさ!」


こはるが身を乗り出す。


「おっぱい行けるね!?」


プルンがうなずく。


「行けるプルン」


こはるの目が潤む。


「ついに……」


「ついにこの時が……」


プルンが言う。


「まずステッキ強化するプルン?」


こはるがうなずく。


「うん!」


「安全第一!」


プルンがステッキを受け取る。


「妖精界とパス繋ぐプルン」


ステッキが浮かぶ。


淡い光。


空間に糸のような光が伸びる。


まるで星に繋がる細い道のようだった。


ピカッ。


光が収束。


プルンが言う。


「これで」


「1.8倍プルン!」


こはるが拍手。


「すごい!」


そして。


こはるは深呼吸する。


「……」


「……」


「……」


部屋が静かになる。


夕日の光が、鏡と床を橙色に染めていた。


その中で。


こはるはゆっくり言う。


「では」


「念願の」


「おっぱい!」


プルンがうなずく。


「わかったプルン」


「妖精界とパス繋げるプルン」


再び光。


柔らかい光。


暖かい。


春の日差しのような優しい光がこはるを包む。


ふわり。


身体が少し軽くなる。


胸のあたりがほんのり温かい。


そして。


ぴかっ。


光が消える。


静かになる。


こはるはゆっくり胸を見る。


「……」


「……」


「……」


数秒沈黙。


時間が止まったようだった。


そして。


「……」


「……」


「……」


涙。


ぽろっ。


ぽろぽろ。


こはるが泣き出した。


「増えた……」


「増えた……」


プルンが言う。


「微増プルン」


こはるが泣く。


「でも!」


「でも!」


「増えた!!」


鏡を見る。


そこに映るのは――


ほんの少しだけ。


ほんの少し。


でも確実に。


昨日より。


確かに。


ふくらみがある。


わずかな違い。


だけど。


こはるにははっきり分かる。


こはるは泣きながら言った。


「これは……」


「奇跡よ……」


世界から見れば。


ほんのわずかな変化。


ほんの小さな差。


でも。


桃瀬こはるにとっては――


人生を変える一歩だった。


こはるは拳を握る。


涙目で宣言する。


「私!」


「もっと戦う!」


「もっとポイント貯める!」


プルンが言う。


「目的が変わってるプルン」


こはるは胸を押さえる。


まだ小さい。


でも。


確かにそこにある。


希望のふくらみ。


「これはね」


「世界にはどうでもいいことかもしれない」


でも。


桃瀬こはるにとって。


それは――


人生における奇跡の一歩だった。


本当に。


とても。


とても。


感動的な出来事だった。


そして。


新しい衣装。

新しい力。

そして。


ほんの少し大きくなった胸。


こうして――


桃瀬こはるの

魔法少女生活は


さらに奇妙な方向へ

進んでいくのだった。


そしてその戦いは――


まだ始まったばかりだった。

 

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