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11.小悪魔の視線

昼過ぎ。


春の柔らかい日差しが街を照らしている。


桃瀬こはるはマンションの前で伸びをしていた。


「うーん……」


軽く背中を反らす。


今日は特に予定はない。


大学の入学式までは、まだ少し時間がある。


「この街に来たけど」


こはるは空を見上げた。


「まだあんまり見て回ってないのよね」


引っ越してきてからというもの、


変態紳士に遭遇したり、


ヌギーに襲われたり、


コート男に出くわしたり。


普通に街を歩く余裕がほとんどなかった。


その横でプルンがふわふわ浮いている。


「事件ばっかりプルン」


「そうなのよ」


こはるは頷いた。


「せっかく大学の近くに引っ越してきたのに」


「周りの店とか、まだ全然見てないし」


プルンが言う。


「探索プルン」


「そんな感じ」


こはるは軽く笑った。


「今日は商店街の方でも足を伸ばしてみようかな」


マンションの前の道を歩き出す。


春の街は穏やかだった。


小さな住宅。


自転車に乗った学生。


散歩している人。


「なんか普通の街ね」


こはるは言う。


「普通が一番プルン」


「確かに」


しばらく歩くと、


アーケードのある商店街が見えてきた。


「おー」


こはるの目が少し輝く。


「商店街!」


古い看板。


魚屋。


八百屋。


パン屋。


昔ながらの店が並んでいる。


「思ったより大きい」


プルンが言う。


「便利そうプルン」


こはるは歩きながら店を眺めた。


「ここなら生活には困らなさそう」


「スーパーもあるし」


「コンビニ弁当ばっかりだったしね」


こはるは苦笑する。


「正直、飽きた」


プルンがうなずく。


「同じ味プルン」


「今日はスーパーのお惣菜にしようかな」


こはるはスーパーの方向へ歩く。


その途中――


「おや?」


聞き覚えのある声。


こはるが振り向く。


そこにいたのは――


小鳥遊りりだった。


「こんにちは」


りりは軽く手を振る。


こはるは少し驚いた。


「りり?」


「こんなところで会うなんて」


りりは笑った。


「同じマンションだし」


「行動範囲も似るでしょ」


確かにそうだ。


こはるは言う。


「買い物?」


「うん」


りりは肩をすくめる。


「晩ごはん」


こはるも笑った。


「私も」


「コンビニ弁当に飽きちゃって」


りりがくすっと笑う。


「わかる」


「一人暮らしあるある」


二人は並んで歩き始めた。


スーパーへ向かう道。


春の夕方。


少し風が気持ちいい。


りりが聞く。


「そういえば」


「こはるって運動してる?」


こはるはうなずく。


「してた」


「中学と高校、陸上」


りりが少し目を丸くする。


「へぇ」


「だから体型いいんだ」


こはるは苦笑した。


「そんなことないよ」


りりはニヤッと笑う。


「いや」


「結構スタイルいいと思うけど」


こはるは少し照れた。


「ありがとう」


プルンが横で言う。


「胸は小さいプルン」


こはるは小声で言った。


「黙って」


りりは楽しそうに笑う。


二人はスーパーに入った。


店内は夕方の買い物客で少し混んでいる。


こはるはお惣菜コーナーを見る。


「おお」


「いっぱいある」


唐揚げ。


コロッケ。


焼き魚。


「迷う」


りりも横で見ている。


「唐揚げおすすめ」


こはるは言う。


「じゃあそれ」


いくつか惣菜を選ぶ。


りりはサラダを買っていた。


「健康的」


こはるが言う。


りりは笑う。


「一応ね」


買い物を済ませ、二人は店を出た。


外はすっかり夕方だった。


空が少し赤くなっている。


マンションへ向かう道。


りりが言う。


「じゃあ」


「私はこっち」


分かれ道だ。


こはるは手を振る。


「またね」


りりも手を振った。


「またマンションで」


そして歩き去る。


こはるはその背中を見送った。


「いい子ね」


プルンが言う。


「怪しいプルン」


「またそれ?」


こはるは苦笑する。


「普通の大学生でしょ」


そのころ。


少し離れた路地。


りりは立ち止まっていた。


先ほどまでの笑顔は消えている。


静かな表情。


「ふーん」


小さくつぶやく。


「やっぱりあの子」


「魔法少女だね」


りりはポケットからスマホを取り出す。


画面を見る。


「ヴェルヴェット将軍の言う通り」


「面白そうじゃん」


りりはくすっと笑う。


そして――


指を鳴らした。


影の奥から、黒い影が動く。


ヌギー。


一体。


二体。


三体。


そして次々と現れる。


りりは命令する。


「行きな」


「ヌギー」


ヌギーたちが動き出す。


夕方の街へと走っていく。


その頃。


こはるはマンションの近くまで戻っていた。


「今日はいい買い物できた」


袋を持ち直す。


「唐揚げ楽しみ」


プルンが言う。


「平和プルン」


そのとき。


背後から声。


「ヌギー!」


こはるが振り向く。


「え?」


そこには――


ヌギー。


しかも。


一体じゃない。


「ヌギー!」


「ヌギー!」


「ヌギー!」


次々に現れる。


あっという間に周囲を囲まれた。


こはるは袋を地面に置く。


「……はぁ」


深く息を吐く。


「夕飯前なのに」


プルンが叫ぶ。


「戦闘プルン!」


こはるはステッキを取り出した。


そして言う。


「しょうがない」


大きく叫ぶ。


「へんしん!」


光が広がる。


服が宙に舞う。


体がくるくる回転する。


そして――


お尻が丸見えになる。


くるっ。


また回転。


やっぱりお尻。


光の中でピンクのフリル衣装が形成されていく。


そして完成。


魔法少女。


ピンクフリル。


プルンが言う。


「形式美プルン!」


こはるはヌギーたちを見た。


「さて」


「夕飯前に終わらせるわよ」


ヌギーたちが一斉に叫ぶ。


「ヌギー!」


そして。


戦いが始まろうとしていた。

 

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