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10.コート男

朝。


空はまだ薄い青色で、街は静かな空気に包まれていた。


夜の冷たさが少しだけ残る空気。


遠くで新聞配達のバイクの音が聞こえる。


桃瀬こはるはマンションの前で軽くストレッチをしていた。


腕を回す。


足を伸ばす。


「よし」


小さく息を吐く。


こはるは中学と高校の六年間、ずっと陸上競技をしていた。


長距離走が専門で、毎日の走り込みは日課だった。


大学生になったからといって、急にやめてしまうのも何となく落ち着かない。


「身体が鈍るのも嫌だしね」


こはるは軽く屈伸をする。


太ももの筋肉が伸びる。


その横でプルンが浮いていた。


「魔法少女の朝トレプルン」


「ただのジョギングよ」


こはるは言う。


「魔法少女も体力は大事プルン」


「それは確かに」


昨日のヌギー二十匹の戦闘を思い出す。


「結構体力使うしね……」


こはるは軽く走り出した。


朝の住宅街。


車は少なく、空気も澄んでいる。


コツ、コツ、コツ。


靴の音が静かな道に響く。


走るたびにポニーテールが揺れる。


(大学生活かぁ)


(魔法少女もあるし)


(忙しくなりそう)


そんなことを考えながら走っていると。


そのときだった。


道の先に――


人影。


男が一人、立っていた。


しかも。


道の真ん中で。


ふら~っと。


まるで道を塞ぐように。


「……」


こはるは少し速度を落とす。


(朝から変な人いるな)


男はゆっくりこちらを向いた。


そして突然――


両手を大きく広げた。


「我が名は!」


男が叫ぶ。


「コート男!」


こはるは一瞬止まった。


「……え?」


男は続ける。


「君!」


「可愛いね〜!」


「ちょっと僕のコレクションに加わってよ!」


こはるはよく男の顔を見る。


顔には――


歌舞伎役者のような奇妙な模様。


白と赤のライン。


まるで化粧のようだ。


その瞬間。


プルンが叫んだ。


「怪人プルン!」


こはるは思った。


(やっぱり)


野良の怪人と出くわした。


男――コート男はニヤニヤ笑う。


「さあ」


「僕のコレクションになりなよ」


そう言うと。


ばっ!


着ている服を大きく広げた。


こはるは思わず固まる。


コートの中。


そこには――


ベージュのトレンチコート。


その中は。


白いブリーフのみ。


素足。


革靴。


以上。


「……」


こはるは言った。


「……なんだこれ」


内心、完全にドン引きである。


プルンが言う。


「見た目と違って強いプルン!」


「これは200ポイントプルン!」


その瞬間。


こはるの目がキラリと光った。


200ポイント。


つまり。


幹部と同じ価値。


こはるは拳を握る。


「よし」


そして叫んだ。


「へんしん!」


光が広がる。


朝の住宅街に、眩しい光が広がる。


服が宙に舞う。


体がくるくる回転する。


そして――


お尻が丸見えになる。


くるっ。


また回転。


やっぱりお尻。


腰からヒップへと続くラインが、朝日を受けて一瞬浮かび上がる。


光の中でピンクのフリル衣装が形成されていく。


胸元のリボン。


フリルのスカート。


袖の飾り。


そして完成。


魔法少女。


ピンクフリル。


コート男が叫ぶ。


「うほーっ!」


「これはいいお尻!!」


こはるの眉がぴくっと動く。


コート男は興奮している。


「素晴らしい!」


「そのヒップライン!」


「背中から腰!」


「そしてお尻へ流れるこの曲線!」


両手を広げて語り始める。


「完璧!」


「まさに理想的な造形!」


こはるは完全に引いている。


コート男は止まらない。


「この丸み!」


「この張り!」


「そして!」


「太ももへと続く美しいライン!」


「これは芸術だ!」


こはるは言った。


「……変態」


コート男は続ける。


「しかも!」


「走っていた時の動き!」


「ヒップの揺れ!」


「あれは見事だった!」


こはる。


「見てたの!?」


コート男は感動している。


「背中から腰!」


「腰からヒップ!」


「ヒップから脚!」


「この黄金ライン!」


「完璧です!」


こはる。


「うるさい!」


戦闘開始。


コート男が突進する。


「捕まえた!」


こはるは横に跳ぶ。


フリルスカートがふわりと揺れる。


「遅い!」


ステッキを振る。


ぴかっ!


魔法弾。


コート男が回避。


「ほう!」


「やるね!」


コート男はコートをひらひらさせながら動く。


動きは意外と速い。


プルンが叫ぶ。


「気をつけるプルン!」


「結構強いプルン!」


こはるは構える。


「いいわ」


「ちょっと本気でいく」


ステッキを振る。


ぴかっ!


ぴかっ!


連続魔法弾。


コート男が弾く。


しかし――


「そこ!」


こはるの蹴り。


ばしっ!


コート男が転がる。


「ぐはっ!」


さらに。


ぴかっ!


魔法直撃。


コート男が地面を転がった。


「ぐぬぬ……」


こはるは息を整える。


朝の静かな住宅街。


戦いのあと、風だけが吹いている。


「で」


プルンに聞く。


「どうやったら勝ちになるの?」


プルンが言う。


「衣装を剥ぎ取ると勝ちプルン!」


こはるは固まった。


「……まじ?」


プルンはうなずく。


「そうプルン」


こはるはコート男を見る。


コート男はまだ倒れている。


「……」


「……」


こはるは言った。


「嫌なんだけど」


しかし。


200ポイント。


こはるは覚悟を決めた。


「……仕方ない」


嫌々。


コートを掴む。


そして。


ばっ!


コートを剥ぎ取った。


その瞬間。


コート男の顔の模様が消えた。


ただの――


ブリーフ男。


こはるは思った。


(なんか悲しい)


ブリーフ男は逃げ出した。


「うわあああ!」


走って去っていく。


プルンが言う。


「勝利プルン!」


こはるは深く息を吐く。


「疲れた……」


プルンが聞く。


「ポイントどうするプルン?」


こはるは言った。


「部屋帰ってから考える」


そしてまた走り出す。


「ジョギング途中だし」


プルンが言う。


「真面目プルン」


数十分後。


こはるはマンションに戻った。


シャワーを浴び。


部屋で一息つく。


「さて」


こはるは言った。


「プルン」


「うん?」


「強化1回」


「残りは貯めておく」


プルンがうなずく。


「了解プルン!」


ステッキが光る。


ぴかっ!


「強化完了プルン!」


こはるが聞く。


「今回は?」


プルンは胸を張る。


「1.6倍プルン!」


こはるはステッキを見る。


「いい感じ」


そして。


プルンが言う。


「あと100ポイント貯蓄プルン!」


こはるはにやりと笑った。


「いいね」


「胸まであと少し」


こうして。


魔法少女ピンクフリルは


また少し強くなったのだった。

 

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