1.魔法少女誕生
私の名前は、桃瀬こはる。
――世界を救うより先に、お胸を育てたい。
……と、思っている、ごく普通の女の子だ。
ついさっき、高校の卒業式を終えたばかり。
体育館での長い式が終わり、教室で最後のホームルーム。
みんなで写真を撮ったり、寄せ書きを交換したりして、ようやく解散したところだった。
校門を出ると、まだ制服姿の同級生たちがあちこちで立ち話をしている。
スマホで写真を撮ったり、泣いている子もいた。
私は少しだけ立ち止まって校舎を振り返った。
三年間通った校舎。
毎日見ていたグラウンド。
校門の横の桜は、まだ少しだけ蕾のままだった。
「終わったんだなあ……」
ぽつりと呟く。
なんだか少し不思議な感じだった。
明日からもう、この学校に来ることはない。
でも、寂しい気持ちばかりでもない。
四月からは大学生だ。
新しい生活。
新しい友達。
アルバイトとかもしてみたい。
……あとできれば、ちょっとくらいは女の子らしく見られたい。
「……まあ、無理か」
私は自分の胸元をちらっと見て、軽くため息をついた。
そんなことをぼんやり考えながら、私は家へ向かって歩いていた。
……はずだった。
「ヌギー!」
突然、前の方から妙な声が聞こえてきた。
「ヌギー! ヌギー!」
なにそれ。掛け声?
通りの先が妙に騒がしい。
人だかりもできている。
私は少し気になって、背伸びして覗き込んだ。
そして。
「え……?」
思わず声が出た。
そこでは――
女の人が、黒い全身タイツの集団に囲まれていた。
しかもそのタイツ、全員同じマスクを被っている。
丸い目。
妙に笑っている口。
どう見ても怪しい。
次の瞬間。
びりっ。
一人の全身タイツが女性の上着を引っ張った。
「あっ……!」
女性が慌てて抵抗する。
「や、やめて! なにするの!?」
しかし全身タイツは気にしない。
びりっ。
「きゃっ!」
さらに別のタイツがスカートを引っ張る。
「やめてぇ!」
びりっ。
びりっ。
あっという間に女性の服は全部剥ぎ取られてしまった。
「いやああああ!」
女性は慌ててしゃがみ込み、体を隠す。
周囲の人たちは遠巻きに見ているだけで、誰も近づかない。
全身タイツたちは満足そうにうなずいていた。
「……なにこれ」
思わず素の声が出た。
現実にこんな光景、ある?
全身タイツたちはしばらく周囲を見回していた。
そして――
目が合った。
私と。
次の瞬間。
「ヌギーー!!」
全員が一斉に叫び、こっちに走ってきた。
「ヤバッ!」
私は反射的に振り向く。
逃げようとした。
その時だった。
ぽん。
目の前に、何かが現れた。
白い。
小さい。
ふわふわ。
手のひらサイズの丸い生き物だった。
そして妙に軽い声で言う。
「はいこれ! とりあえず変身して!」
そう言って、キラキラしたステッキを押しつけてくる。
「え?」
「いいから! “へ〜んしん!”って言って!」
「いや待って状況が――」
背後から迫る全身タイツ。
「ヌギーー!!」
距離がもう近い。
「ちょ、ちょっと待って!」
私は思わず叫ぶ。
「こんなの無理! 逃げるって!」
白い生き物が焦った声を出す。
「逃げても追いつかれるよ!」
「じゃあどうすんの!」
「だから変身!」
全身タイツの足音が迫る。
「ヌギー!」
「ヌギヌギ!」
「ヌギーー!」
私は半ばやけくそで叫んだ。
「わかったよ! やればいいんでしょ!」
そしてステッキを握りしめる。
「へーんしん!!」
その瞬間――
光に包まれた。
制服のボタンが勝手に外れ、
上着がふわりと体から離れる。
スカートも宙に浮き、
リボンがほどける。
「え、ちょっ」
服が全部消えた。
すっぱだか。
しかも。
なぜか体がくるくる回転し始める。
「なんで回るの!?」
くるっ。
お尻が見える。
くるっ。
さらに回る。
白い光が体を包み、
肝心なところはうまく隠れている。
そして光の中から――
ピンク色の布が現れた。
ふわり。
まず袖。
次に胸元の大きなリボン。
さらにフリルのついたスカート。
リボン。
フリル。
ハート。
それらが次々と体に巻き付き、
可愛らしい衣装が形になっていく。
最後に胸元のリボンが、きゅっと結ばれた。
光がすっと消える。
私はその場に立っていた。
……なんか。
日曜朝のアニメに出てきそうな格好で。
白い生き物が満足そうにうなずく。
「うん、いい感じ!」
そして元気よく宣言した。
「今日から君は――
魔法少女ピンクフリル!」
「……ピンクフリル?」
私は自分の格好を見下ろした。
ピンク。
フリル。
リボン。
スカートひらひら。
どう見ても、魔法少女だ。
「いやいやいやいや!」
私は白い生き物をつかんだ。
「なんなのこれ!? なんで私こんな格好してるの!?」
白い生き物は不思議そうに首を傾げる。
「魔法少女だからだよ?」
「説明になってない!」
その間にも――
「ヌギーー!!」
全身タイツの集団がすぐそこまで迫っていた。
私は慌ててステッキを構える。
「ちょっと! あれ何!?」
「悪の組織の戦闘員!」
「さらっと言ったね今!?」




