第9話 「味方でいる」という、静かな約束
合同訓練が終わった翌日。
学園内の空気は、
はっきりと変わっていた。
廊下を歩けば、
視線が来る。
「……あれがアルトか」
「後ろから全部動かしたって」
(噂の回り方、早すぎない?)
目立たない予定は、
もはや夢物語だ。
そんな中、
俺は中庭の端で、
一人腰を下ろしていた。
理由は単純。
(人が多いと、疲れる)
魔力制限はまだ解除されていない。
体は回復しているが、
油断は禁物だ。
「ここにいた」
声をかけられる。
顔を上げると、
リーナが立っていた。
「静かな場所、よく分かるね」
「あなたが選びそうな場所だから」
言い返されて、少し笑う。
彼女は俺の隣に座る。
少し、距離が近い。
「昨日のあとね」
「うん」
「いろんな人に話しかけられた」
「それは……お疲れさま」
「あなたのこと、聞かれたの」
(やっぱり)
「どう答えたの?」
「……その前に、質問」
彼女は、真っ直ぐ俺を見る。
「あなた、学園で何をしたいの?」
核心だった。
俺は少し考える。
「勝ちたい」
「それだけ?」
「生き残りたい。
目立たず、潰されず、
できれば安全に」
正直すぎる回答だ。
彼女は、一瞬ぽかんとして、
それから小さく笑った。
「無理ね」
「だよね」
「もう、目立ってる」
そう言って、
彼女は少し真剣な顔になる。
「だから、選びなさい」
「何を?」
「誰と、立つか」
学園は、
ただの学校じゃない。
貴族。
派閥。
利害。
立場を曖昧にすると、
一番最初に消える。
「私はね」
彼女は、はっきり言った。
「あなたの側に立つ」
胸が、一瞬で熱くなる。
「理由、聞いていい?」
「簡単よ」
彼女は、少し照れたように視線を逸らす。
「あなたは、
人を切り捨てない勝ち方をする」
その言葉は、
俺の核心を突いていた。
「それに――」
彼女は、またこちらを見る。
「あなたと組んだ方が、
未来が面白そう」
それは、
告白ではない。
だが、
完全な意思表示だった。
俺は、ゆっくりと頷く。
「じゃあ、約束しよう」
「何を?」
「無理はしない」
「それ、昨日も言ってた」
「もう一つ」
彼女を見る。
「俺は、
あなたを一人にしない」
一瞬、言葉が止まる。
彼女は、目を見開き――
そして、柔らかく微笑んだ。
「……それで十分」
その時。
「おい、いたぞ」
少し離れた場所から、
上位クラスの生徒たちの声が聞こえる。
視線が、
こちらに向く。
(来たな)
リーナは、立ち上がり、
俺の隣に並ぶ。
「大丈夫?」
「うん」
「じゃあ」
彼女は、堂々と前に出る。
「彼に用があるなら、
私を通して」
その一言で、
周囲の空気が凍る。
(……強いな、この人)
俺は、少しだけ苦笑する。
(味方がいるって、
こんなに心強いのか)
学園は、
これからもっと面倒になる。
派閥。
対立。
試される立場。
だが。
俺はもう、
一人じゃない。
それだけで、
十分戦える気がした。
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