第8話 前に出ないのに、一番目立つ人
合同訓練の日。
参加するのは、
中位クラスと上位クラスの混成チームだ。
俺は――
「アルト・エル=ヴァイス。
後方支援、指揮補助に専念しろ」
正式に、
戦闘制限付き。
(まあ、そうなるよな)
前に出られない。
魔法も制限あり。
剣は飾り。
普通なら――
戦力外だ。
「え、あいつ後ろ?」
「倒れたって聞いたけど」
「上位と合同なのに?」
ヒソヒソ声が飛ぶ。
(聞こえてますよー)
だが、俺は気にしない。
(むしろ、好都合だ)
前に出ないなら、
全部見える。
訓練内容は、
模擬拠点の制圧戦。
時間制限あり。
情報は限定。
敵の配置は不明。
開始前。
俺は地図を広げる。
「確認する。
敵は必ず正面に来るとは限らない」
「当たり前でしょ」
「裏取りとか、基本だし」
上位クラスの生徒が言う。
俺は頷く。
「だから、正面は薄くする」
「は?」
「主力は左右に分ける。
正面は囮」
一瞬、沈黙。
「……それ、危なくない?」
「正面突破されたら終わりだぞ」
俺は、あっさり答える。
「突破されない配置にする」
配置を指定する。
防御魔法。
視界妨害。
罠(簡易)。
派手さはない。
「地味だな」
「地味でいい」
戦闘開始。
敵は――
予想通り、正面に集まった。
「来た!」
「正面、数多い!」
正面部隊が踏ん張る。
その間に――
「右、今」
「左、もう一歩引いて」
左右部隊が、
じわじわと包囲する。
敵が気づいた時には、
もう遅い。
「後ろ取られてる!?」
「なんで気づかなかった!?」
理由は簡単だ。
(正面が“うるさすぎた”)
注意を引く配置。
視線誘導。
そして――
「今だ、制圧」
一斉攻撃。
模擬拠点、制圧完了。
時間、最短。
「……え?」
「終わった?」
上位クラスが、呆然とする。
「俺、ほとんど剣振ってないんだけど」
「魔法、三発しか撃ってない」
それで勝った。
教師が、静かに言う。
「勝因は?」
「……配置?」
「指示?」
教師は、俺を見る。
「後方支援のはずの生徒が、
一番仕事をしていたな」
視線が集まる。
(あー……)
目立たない予定だったんだけど。
「アルト」
「はい」
教師は淡々と言う。
「前に出なくても、
戦場は支配できる」
その言葉が、
重く落ちた。
休憩中。
上位クラスの生徒が近づいてくる。
「……なあ」
「何?」
「次も、後ろにいる?」
「制限中なので」
「……正直、安心する」
複雑な評価だ。
そこへ、
リーナがやって来る。
「無理、してない?」
「してない。
頭しか使ってない」
「それも使いすぎると倒れるわよ」
「気をつける」
彼女は、小さく笑う。
「ねえ」
「何?」
「あなた、前に出なくても怖い」
「褒めてる?」
「最大級に」
その言葉に、
周囲の空気が一瞬止まる。
(あ、今の聞かれたな)
何人かが、
俺を見る目を変えた。
“便利な人”から――
“厄介な人”へ。
訓練終了後。
教師が、俺を呼び止める。
「アルト」
「はい」
「次から、
お前は指揮候補として扱う」
それはつまり――
学園内での役割が、変わったということだ。
前に出ない無双。
派手じゃない勝利。
だが確実に、
学園という盤面で、
俺は一段、上に行った。
(なるほど……)
この戦い方、
領地でも使えそうだな。
――そんな予感が、
胸の奥で静かに芽生えていた。
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