第6話 昨日できなかったことが、今日できる理由
訓練場の朝は早い。
特に理由がなければ誰も来ない時間帯――
つまり、静かで集中できる。
「……よし」
俺は一人、木剣を握っていた。
(昨日の動き、もう一回だけ確認しよう)
剣術の基礎。
特別な型ではない。
学園で最初に習う、誰でも知っている動きだ。
ただし――
俺は、昨日と同じには振らなかった。
(無駄が多い)
重心。
踏み込み。
手首の角度。
一つずつ修正する。
――振る。
風を切る音が、少し変わった。
「あれ?」
もう一度。
さらにもう一度。
(……軽い)
体が、動きを覚えている。
しかも、早い。
(こんなに早く、馴染むものだっけ?)
その時。
「アルト?」
聞き覚えのある声。
振り向くと、
同じ中位クラスの剣士が立っていた。
「朝練?」
「まあ、そんなところ」
「……昨日より、動き良くないか?」
彼は首を傾げる。
「気のせいじゃ?」
「いや、俺の目はごまかせないぞ」
(目、意外といいんだな)
そこへ、教師が現れた。
「ほう……早いな」
白髪の老教師だ。
「少し、相手をしてみろ」
「え、俺が?」
指名されたのは、
さっきの剣士。
「手加減はするな」
「……はい」
模擬戦開始。
剣が交わる。
――一合。
(速い)
だが、昨日より見える。
二合。
三合。
相手の癖が、手に取るように分かる。
(踏み込みが一定)
(次は、右)
体が、先に動いた。
――弾いた。
「なっ!?」
相手が目を見開く。
俺自身も、内心で驚いていた。
(今の、考えてない……)
教師が目を細める。
「もう一度」
「はい」
二戦目。
今度は、俺が主導権を握った。
結果――
一本勝ち。
訓練場が、静まり返る。
「……アルト?」
「えっと……ごめん?」
謝るところじゃない気がする。
教師は、ゆっくりと頷いた。
「昨日の動きと、まるで別人だな」
「自分でも、そう思います」
正直だ。
「理由は分かるか?」
「……分かりません」
本当に。
だが、その日の午後。
魔法訓練でも、異変は続いた。
昨日まで不安定だった魔法が、
今日は安定する。
失敗した詠唱を、
次の瞬間には修正できる。
「……さっき失敗してなかった?」
「うん、してた」
「今、普通に成功したぞ」
周囲がざわつく。
(あー……)
嫌な予感がする。
休憩中。
俺は、リーナに呼び止められた。
「ちょっと、いい?」
「どうしたの?」
「今日の動き……昨日と違う」
「そう?」
彼女は、腕を組む。
「違う。
明らかに一段上」
鋭い。
「ねえ、何か隠してる?」
「いや、本当に何も」
嘘ではない。
「ただ……」
少し考えて、言葉を選ぶ。
「失敗すると、
次は失敗しなくなるだけ」
彼女は、じっと俺を見る。
「それ、普通じゃないわよ」
「そうなの?」
「そうなの」
即答だった。
彼女は、ふっと息を吐く。
「……やっぱり、面倒な人」
「褒めてる?」
「褒めてる」
少しだけ、笑う。
「でも安心した」
「何が?」
「ちゃんと努力してるって分かったから」
その言葉に、
胸の奥が、少し温かくなる。
(努力が、報われる)
前世では、
それが当たり前じゃなかった。
だがこの世界では――
努力が、即結果になる。
その日の夜。
俺は一人、ノートを開く。
「成長速度……やっぱり、おかしいな」
書き留める。
魔法。
剣術。
判断。
どれも、昨日より確実に上。
「……まあ」
俺はノートを閉じる。
「使えるなら、使うか」
地味でいい。
目立たなくていい。
だがこの力は――
確実に、武器になる。
学園は、
静かに俺を試し始めていた。
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