第5話 距離が縮むときは、だいたい静かな場所で起きる
学園には、
騒がしい場所と、静かな場所がある。
前者は、訓練場や食堂。
後者は――図書館だ。
「……静かだな」
俺は一人、
学園図書館の奥にいた。
理由は単純。
魔法理論の本を読みたかったからだ。
(詠唱短縮、もう一段いけそうなんだよな……)
机に積まれた本は、
正直、人気がない。
なぜなら――
読みにくい。
文字は細かい。
注釈が多い。
読んでいると眠くなる。
(……うん、三ページで一回意識飛びそう)
その時。
「やっぱり、ここにいた」
聞き覚えのある声。
顔を上げると、
銀髪の少女――リーナ
上位クラスの彼女が立っていた。
「よく分かったね」
「目立たない人は、
目立たない場所にいるものよ」
的確すぎて反論できない。
「邪魔だった?」
「いや、全然」
彼女は俺の向かいに座り、
本のタイトルを見る。
「……それ、相当古いわよ」
「新しい本は、だいたい感覚論だから」
「でしょうね」
彼女は小さく笑う。
「ねえ」
「何?」
「どうして、あそこまで考えるの?」
少しだけ、真剣な声だった。
「勝ちたいから?」
「負けたくないから、かな」
俺は正直に答える。
「前に出る才能はない。
だから、考えるしかない」
彼女は、しばらく黙る。
「……謙虚すぎ」
「よく言われる」
「初めて聞いたけど?」
……あ。
(しまった、ボケのタイミングを間違えた)
彼女はくすっと笑う。
「でも、そこがいい」
その一言に、
心臓が一拍、遅れた。
(あ、これ)
危ないやつだ。
しばらく、本の話をする。
魔法陣の形。
詠唱の癖。
失敗談。
「詠唱を噛んで、
爆発したことがあるわ」
「それ、笑えないやつだ」
「髪、少し焦げた」
「……笑っていい?」
「だめ」
少しだけ、距離が縮む。
その時。
「アルト」
彼女が、俺の名前を呼んだ。
「学園って、面倒でしょ」
「まあ……否定はしない」
「でもね」
彼女は、少し視線を落とす。
「あなたがいると、
退屈しない気がする」
それは、
告白ではない。
でも――
明確な一線越えだった。
(ああ……)
俺は、本を閉じる。
「それは光栄」
「本心?」
「うん、本心」
嘘はつかない。
彼女は満足そうに頷いた。
「じゃあ、約束」
「何を?」
「これからも、
変なことしなさい」
「難易度高くない?」
「期待してるの」
そう言って、彼女は立ち上がる。
「次の実戦、見てるから」
「プレッシャーだな」
「慣れなさい」
去り際、彼女は振り返る。
「それと――」
少しだけ、頬が赤い。
「無理はしないこと」
それだけ言って、
彼女は図書館を出ていった。
静寂が戻る。
(……完全に目をつけられたな)
悪い意味ではない。
むしろ――
(悪くない)
俺は、また本を開く。
学園は、
少しずつ、
俺の居場所になり始めていた。
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