第4話 初めての勝利と「評価が一段階だけ上がった日」
引き分けの次の日。
クラスの空気は、ほんの少しだけ変わっていた。
「アルト、今日も指示出す?」
「え、ああ……必要なら」
昨日までの
「とりあえず後ろ」
から、
今日は
「一応、聞いてみる」
に昇格している。
(地味な昇進だな……)
だが、進歩は進歩だ。
この日の授業は、
小規模模擬戦・勝敗評価あり。
引き分けでは評価がつかない。
今回は、勝つか負けるか。
「今回は勝ちたいな」
「まあ、できれば」
みんなの本音が漏れる。
(よし、じゃあ条件整理だ)
俺は頭の中で組み立てる。
・相手は突撃型
・魔法は派手だが詠唱が長い
・こちらは防御寄り
(正面からやったら負ける)
だから――
「今回は、逃げる」
「は?」
「全力で、逃げる」
全員が一斉に俺を見る。
「それ、勝つ気ある?」
「ある。
逃げ切って、疲れさせてから勝つ」
誰かがぼそっと言った。
「……ずるくない?」
「勝てば正義だ」
戦闘開始。
俺たちは――逃げた。
全力で距離を取り、
魔法は牽制だけ。
攻撃しない。
「ちょ、追いつかれそう!」
「焦るな、向こうの魔法使いを見るんだ」
詠唱。
外れる。
また詠唱。
「……あ、息切れてる」
「今」
前衛が踏み込む。
短期決戦。
一気に畳みかける。
――勝った。
「……勝った?」
「勝った!?」
しばし、沈黙。
次の瞬間。
「うおおお!」
「勝ったぞ!」
控えめだが、確かな歓声。
教師が結果を告げる。
「勝者、アルト班」
その瞬間、
クラスの視線が俺に集中する。
(あ、これ)
昨日の警戒が、
評価に変わった瞬間だ。
「アルト、作戦うまくね?」
「指示、分かりやすかった」
「逃げるって発想なかったわ」
褒め言葉が、ぽつぽつ飛んでくる。
(慣れない……)
俺は軽く手を振る。
「相手の弱点が分かりやすかっただけだよ」
その言葉に、
教師が小さく頷いた。
「勝ち方を知っている。
それは才能だ」
――才能。
この学園で、
なかなか重い言葉だ。
昼休み。
俺はいつものように、
隅の席で昼食を取っていた。
「……隣、いい?」
顔を上げると、
銀髪の少女が立っている。
「ああ、どうぞ」
彼女は座り、
俺の弁当を一瞥する。
「質素ね」
「三男なんで」
「納得したわ」
少しだけ、笑う。
「今日の作戦、好き」
「地味で?」
「ええ、とても」
褒めているのか、
けなしているのか分からない。
「あなた、自分が目立ってるって分かってる?」
「全然」
「でしょうね」
彼女は肩をすくめる。
「でも、学園はそういう人を放っておかない」
(あー……)
嫌な予感がした。
「忠告?」
「忠告」
彼女は立ち上がる。
「次は、
もう少し面倒な相手が来るわ」
それだけ言って、去っていった。
その背中を見送りながら、
俺は小さくため息をつく。
(ああ……)
どうやら俺は、
目立たないルートを踏み外し始めたらしい。
だが――
(まあ、勝てるならいいか)
初めての勝利。
評価は、ほんの一段階。
それでも確かに、
学園という盤面で、
俺は一歩前に進んだ。
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