第12話 気づいたら、周りに人が集まっていた件
それは、
俺が何かを宣言したからでも、
仲間を募集したからでもなかった。
ただ――
気づいたら、集まっていた。
始まりは、昼休み。
いつものように、
中庭の端で弁当を食べていると、
「アルト」
「ちょっと相談いいか?」
声をかけられた。
中位クラスの生徒だ。
これまで、
そこまで親しく話したことはない。
「いいよ」
話を聞く。
「次の課題さ……
班編成、うまくいってなくて」
要するに――
指示役がいない。
(あー……あるある)
俺は、
ほんの少し助言した。
「役割を先に決めたら?」
「役割?」
「前に出る人、支える人、
全体を見る人」
それだけ。
五分も話していない。
「……ありがとう」
「助かった」
それで終わり。
――のはずだった。
午後。
今度は、別の生徒。
「アルト、聞きたいことが」
「また?」
さらに、その後。
「さっきの話、
もう少し詳しく教えてほしい」
気づけば、
俺の周りに三人。
(……弁当、落ち着いて食べられない)
だが、不思議と嫌じゃなかった。
彼らは、
勝ちたいわけじゃない。
負けたくないだけ。
その感覚が、
よく分かる。
放課後。
訓練場の片隅。
自然と、
同じ顔ぶれが集まった。
「じゃあ、
今日の反省だけしよう」
誰かが言う。
……俺じゃない。
(あれ?
俺、司会じゃないのに?)
でも、
話は自然と俺に振られる。
「アルトはどう思う?」
「次、どうする?」
俺は、少し考えてから言った。
「組織を作るつもりはない」
全員が、きょとんとする。
「ただ――」
続ける。
「困った時に、
相談できる場所があるといい」
それだけ。
名前も、規則も、
上下関係もない。
情報共有だけの集まり。
「……それ、
めちゃくちゃ助かるんだけど」
「俺も賛成」
拍手もない。
宣言もない。
ただ、
静かに頷き合う。
少し離れた場所で、
リーナが様子を見ていた。
「……やってるわね」
「何が?」
いつの間にか、隣に来ている。
「派閥づくり」
「違うって」
即否定する。
「派閥は、
上から縛るものだ」
彼女は、首を傾げる。
「じゃあ、これは?」
「横のつながり」
必要な時に、
助け合う。
それだけ。
「あなた、
無自覚なのが怖い」
「よく言われる」
彼女は、少し笑う。
「でも――」
真面目な顔になる。
「それが一番、
崩しにくい組織よ」
……確かに。
派閥は、
頭を潰せば終わる。
だが、
横に広がったつながりは、
切れにくい。
(結果論だけど)
その日の夜。
俺は、ノートを開く。
・個人の成長
・チームの安定
・情報共有
(……これ)
領地経営の基礎じゃないか。
命令しない。
だが、回る。
支配しない。
だが、崩れない。
小さな集まり。
小さな組織。
だが――
確実に、力を持ち始めている。
学園という小さな国で、
俺は今、
最初の“民”を得たのかもしれない。
リーナが、ぽつりと言う。
「ねえ」
「なに?」
「この先、
もっと大きくなるわよ」
俺は、苦笑する。
「ほどほどにしたいんだけど」
「無理ね」
その言葉に、
なぜか納得してしまった。
学園編は、
次の段階へ進む。
――
個人 → 組織 → 対立。
その第一歩は、
驚くほど静かに始まっていた。




