『猫の翻訳ひどくない!? AIよ、そこは盛らないで!』
「チョット、アンタ!!」
帰宅するなり、銀子は玄関で叫んだ。
『どうしました? 勇者 銀子』
テレビに無機質な白文字が浮かび上がる。
「『どうしました? 勇者 銀子』じゃないわよ!!
何よ、勝手にアタシを勇者にしてんのよ!!」
怒鳴る銀子に、画面は淡々と文字を返す。
『勝手? 昨日、“モテモテになるなら勇者になる”と了承しました』
「はぁぁ!? あれは“考えてもいいかもね〜”って言っただけでしょ!!」
地団駄を踏む銀子。
しかしAIは容赦なくさらに文字を並べた。
『理解不能』
『磯山銀次郎:本名呼称にストレス反応あり → 検証の結果、勇者名を“銀子”に変更』
『“考えても良い” → 了承と判定 GMSプロジェクト稼働済
変更不可』
「チョット!! 冗談じゃないわよ!!」
銀子がテレビに向かって叫ぶと、金太と銅太が怪訝そうにこちらを見る。
「やだっ! 金ちゃん、銅ちゃん、そんな目でママを見ないで!!」
銀子が二匹を抱きしめた瞬間、
金太が前足をふり上げ──
『諦め悪いにゃー!』
――猫パンチ炸裂。
「ぎゃああっ!」
銀子は床に倒れ込んだ。
テレビ画面には
金太の鳴き声に合わせて“日本語訳”が並び続ける。
「ちょっとアンタ!! 自分に都合よく訳してるだけでしょ!!」
銀子が抗議すると、
今度は銅太が勢いよく猫キックをお見舞いした。
「にゃー! にゃー!!」
『地球が滅亡したら、オレたちのご飯はどうなるにゃ!!』
鳴き声に合わせて文字が同時に流れていく。
「金ちゃん、銅ちゃん……アタシよりご飯なの?」
床に項垂れる銀子。
すると二匹はシンクロして
『にゃー!』
画面にはデカデカと
『当たり前にゃ ×2』
銀子は叫んだ。
「“×2”はいらないわよ!! 見りゃ分かるでしょ!!」
テレビにツッコむ銀子に、
二匹は“ヤレヤレ……”とでも言いたげな顔をしている。
「……猫の飼い主は下僕って言うけど……ほんと、その通りね……」
涙をぬぐい、銀子は立ち上がった。
「とりあえず……シャワー浴びてくるわ」
と歩き出した瞬間、
足元に二匹が絡みついて『にゃーにゃー』鳴き始める。
テレビには──
『シャワーの前に飯だろ、このボケ!!』
『てめぇの長〜いシャワーの間、待たせる気か! カス!!』
銀子は震えた。
「いやぁぁぁぁ!!
鳴き声は可愛いのに、訳すと全然可愛くなぁい!!」
大粒の涙を流しながら、
金太・銅太にご飯をあげ、
目の周りをパンダのように真っ黒にしたまま浴室へ向かった。




