そんなつもりじゃなかったのに! 勇者承認されました
「ふぁ〜……」
あくびをしながら、銀子は夕方16時に起床した。
「全く……変な夢を見たもんだわ。アタシが勇者とか」
鼻で笑いながら寝室を出ると、リビングのテレビがまだ点いたままだった。
しかも画面には──
『勇者 磯山銀次郎 寝室:電子機器なし』
『規格外』
無機質な白文字が淡々と並んでいた。
「しつこッ! 何、アンタ。夢じゃなかったのも衝撃なんだけど、まだいたの?」
『勇者 磯山銀次郎 何故、拒否する?』
「はぁ? アンタねぇ、誰がこんな茶番に付き合ってるのか知らないけど……
いきなり勇者って言われて『はい! やります!』なんて言う奴いるなら会ってみたいわよ」
銀子は吐き捨てるように言いながら、洗面所へ向かった。
髭剃りとスキンケアを終えると、いつもの“厚塗り銀子メイク”が始まる。
テレビには相変わらず冷酷な文字が浮かんだ。
『勇者 磯山銀次郎 地球滅亡阻止 何故しない?』
銀子はメイクしながら横目で画面を見て──
「アタシは今日を生きるのが精一杯なの。
他人様の心配する余裕なんて無いのよ」
すると、また無機質な文字列が。
『磯山銀次郎 年収一千万以上 生活:小金持ち』
「チョット! 誰よアタシの個人情報売ったヤツ!!」
銀子がテーブルを叩くと、金ちゃんと銅ちゃん(猫)がビクッとする。
「あっ、ごめんね金ちゃん銅ちゃん。アンタ達じゃないのよ」
慌てて謝りながら、
「とにかく! アタシは勇者になりません!!」
長い綺麗な指でテレビを指さし、銀子は叫んだ。
「大体、アタシに何の得もないじゃない」
ぽつりとこぼしたその瞬間、
凄まじい速度で文字が並んだ。
『勇者になれば、モテモテの人生』
銀子は冗談半分で、
「あら? モテモテ? だったら、考えても……良いわね~」
と鼻で笑った。
完全に“お客さんへのリップサービス”的な一言。
だが──
相手はAI。
冗談と本気の区別なんか、分かるわけもない。
『ピー!』
電子音と同時に、
『勇者 磯山銀次郎 了承により GMSプロジェクト発動』
の文字が画面いっぱいに表示された。
……だが銀子は猫の餌を出したり、マニキュアを塗ったりしており、
その瞬間を全く見ていなかった。
出勤間際、何気なくテレビに視線をやると――
画面は真っ暗になっていた。
「やっと諦めたのね。変な客よりしつこかったわよ」
銀子はピンヒールをカツカツ鳴らしながら家を出た。
彼女はまだ知らなかった。
まさに今その瞬間──
勇者・銀子が誕生したことを。
そして、自分の人生の歯車が、
とんでもない方向へ回り始めたということも──。
おはようございます✨
今日も読んでくださって、本当にありがとうございます!
ついに銀子が勇者に……なっちゃいました(笑)
ここから銀子の人生が、さらにめちゃくちゃ動きますので
楽しんでいただけたら嬉しいです。
次回更新は、明日の朝8時を予定しています。
また、お会い出来たら嬉しいです。




