チョット!イケメン研究者の名前を教えなさいよ!
銀子は額に手を当て、眉間に皺を寄せた。
「ちょっと待って……勇者って何よ?」
その呟きに反応したかのように、テレビのAIが無機質な文字を映し出す。
『勇者:磯山銀次郎。
未来の地球滅亡を阻止するため、最新AIが膨大なデータから選び出した“唯一の希望の光”』
冷たい白文字を見て、銀子は鼻で笑った。
「はぁ? アタシが勇者? 冗談じゃないわよ。アタシはただのオカマよ?
悪いけど、巻き込まないで!」
吐き捨てるように言い放ち、銀子は踵を返して寝室へ向かう。
その瞬間――
『……ジジ……ジジジ……』
テレビからノイズが走った。
『勇者……磯山銀次郎……』
低く重い男の声が響き、銀子はツッコミかけた口を止めた。
画面には、遠い未来。
滅亡の危機に瀕した人類を救おうと研究を続け、最後は命を落とした“ひとりの男”の姿が映し出されていた。
銀子は胸元を押さえ、息を呑む。
「やっだ……超タイプ……!」
テレビのフレームを掴んで叫ぶ銀子。
『遠い未来……地球は……AIに依存しすぎて、人類は滅亡する。
その未来を阻止できるのは……キミだけだ……』
「えぇ~~~? アタシなんてぇ~、ただのオカマだからぁ~……」
すでに亡くなった未来の研究者からのメッセージに、
銀子は本気で照れていた。
「あの、お名前は……?」
頬を染めて画面に話しかける銀子。
しかしテレビは情け容赦がない。
『……loading』
『検索』
『人類滅亡阻止のために作られたAI。プロジェクト名:GMS。』
黒い画面に白文字が浮かび上がる。
「ちょっと! アンタのことは聞いてないわよ!
アタシが知りたいのは、さっきのイケメンの名前!」
『loading……検索』
『さっきのイケメン……』
『検索……理解不能』
「はぁぁっ!? どういうことよ!
さっき映ってたじゃないの!!」
銀子がテレビを両手でガタガタ揺さぶると、
『理解不能……理解不能……』
という文字が延々と並んだ。
「もう……何なのよ!
だからアタシ、AIって嫌いなのよ!」
ついにフレームから手を離し、銀子は興味を失った顔でテレビに背を向ける。
「なんか……AIにバカにされた気分だわ!」
寝ようとベッドに向かうと、さっき投げつけたガラケーが落ちているのが目に入った。
「あんたもテレビのAIと仲間よね?
悪いけど、もう関わりたくないから!」
そう言ってガラケーを掴み、リビングのテーブルへ置き直す。
そしてテレビの“理解不能”の表示を睨みつけながらリモコンで電源を押した。
……が。
『ブンッ』
テレビが勝手に点いた。
「……勝手にしなさいよ!」
完全無視を決め込み、寝室のドアを勢いよく閉める。
寝室にはデジタル機器が一切ない。
年代物のアナログ時計と、ベッドだけのシンプルな部屋だ。
「電気なんかに邪魔されてたまるもんですか!」
垂れ下がったコードを引いて照明を落とすと、
銀子はベッドへ身を沈め、そのまま深い眠りへ落ちていった。




