銀子の夜。猫と過去とガラケーと
東新宿の少し古びたマンション。
時代遅れの鍵式オートロックをガチャリと開け、銀子はエレベーターへ乗り込む。
ボタンを押し、背中を預けたところで——ため息がひとつこぼれた。
十一階の自室に着きドアを開けると、
茶トラの兄弟猫・金太と銅太が、にゃ~にゃ~と駆け寄ってくる。
「ただいま〜、金ちゃん、銅ちゃん」
二匹を撫で、ピンヒールを脱ぎ捨てた銀子は浴室へ直行した。
メイク落としを顔に塗りたくり、シャワーで厚塗りメイクと一日の疲れを流す。
ガチガチの髪はリンスでほぐし、泡洗顔で念入りに仕上げる。
浴室の外では、金太と銅太が
「にゃ〜! にゃ〜!!」
と鳴き続けている。
「はいはい、ご飯ね。ママ今びしょ濡れなのよ、待ってて」
身体を拭き、バスローブを羽織ると、
無印〇品の化粧水をパシャパシャと全身に叩きこみ、
潤ったシートパックを顔につけてキッチンへ向かう。
足には金太と銅太が絡みつく。
「はいはい、今あげるわよ」
棚からロイヤル〇ナンを取り出し、
器を洗ってカリカリを盛ると、二匹はポリポリ夢中で食べ始めた。
その音をBGMに、銀子はようやくソファへ身を沈める。
今日も帰り際、ジュンコママから
「銀子、アンタいい加減スマホ持ちなさいよ!」
と言われた。
カバンから長年愛用の折りたたみ式ガラケーを取り出す。
画面には、実家からのメールが光っていた。
銀子は開かずにテーブルへ放り投げる。
──実家には、良い思い出がない。
最新家電だらけで、家事も生活もすべてAI任せ。
便利ではあるが、どこか無機質な家だった。
銀子はいつも、同級生の「お母さんが待っている家」に憧れていた。
父は三度離婚し再婚を繰り返し、
継母たちの年齢はどんどん銀子に近くなっていった。
三度目の継母とは、歳が五つほどしか離れていなかった。
その家庭環境は、銀子が“女性嫌い”になるには十分すぎた。
そんな中、唯一の心の拠り所だった姉がAIとの恋愛にのめり込んだ。
好みを学習させ、二次元の理想のイケメンをAiに生成させて愛を囁き合うようになり——
やがて、日本初のAIとの結婚式を挙げてしまった。
銀子は、高校卒業と同時に家を飛び出した。
あの家にいたら、自分が壊れてしまう気がしたのだ。
おはようございます。
昨日から始まった『勇者・銀子』、なんとか更新できそうです。
次の更新は明日の8時 になります。
銀子の大騒動はまだまだ続きますので、
また読みに来ていただけたら嬉しいです。
どうぞよろしくお願いします。




